第32話 「第2回、模試前夜」
九月目前。
夏休み最後の大型模試まで、 あと一日。
☆
学校の自習室。
夜。
窓の外はもう暗い。
それでも、 帰る生徒は少なかった。
受験生たちは、 最後の確認を続けている。
☆
結衣は机へ突っ伏していた。
結衣
「もう無理……」
一将が問題集を閉じる。
天野一将
「五回目」
「数えてたの!?」
☆
龍也が笑う。
龍也
「でも分かる。模試前って変に緊張するよな」
瑠姫愛も頷いた。
瑠姫愛
「夏頑張った分、結果見たくないかも」
その言葉に、 何人かが静かになる。
☆
努力したからこそ怖い。
もし結果が悪かったら。
この夏は意味がなかったのか。
そんな不安が、 誰の中にもあった。
☆
玲緒菜も参考書を見つめたまま動かない。
篠田玲緒菜
雷斗が隣を見る。
武田雷斗
「止まってる」
玲緒菜がため息をつく。
「……怖い」
珍しく、 素直だった。
☆
「B判定のままだったらどうしようって思う」
雷斗は静かに聞いている。
玲緒菜は続けた。
「みんなA判定なのに」
「私だけ置いてかれたらって」
☆
少し沈黙。
そのあと。
雷斗が静かに言う。
「お前、周り見すぎ」
玲緒菜が顔を上げる。
☆
「比べても意味ない」
「昨日のお前と比べろ」
短い。
でも。
雷斗らしい言葉だった。
☆
玲緒菜は少しだけ笑う。
「……なんか先生みたい」
「嫌か」
「ちょっと悔しい」
雷斗が小さく笑った。
かなり珍しい。
一方。
別の席。
結衣は英単語帳を抱えていた。
「東大英語怖い……」
一将が普通に答える。
「いつもの」
「その“いつもの”が怖い!」
☆
結衣は小さく俯く。
「……でもさ」
「ん」
「もし判定落ちたらどうする?」
一将は少し考える。
そして。
「また上げる」
即答。
☆
結衣が止まる。
「そんな簡単に言う?」
「判定は途中経過」
「……」
「本番じゃない」
静かな声。
でも。
その言葉は強かった。
☆
結衣は少し笑う。
「一将くんって、ほんとブレないね」
「結衣がブレすぎ」
「否定できない!」
☆
夜九時。
自習室終了時間。
みんな荷物をまとめ始める。
疲労感はすごい。
でも。
どこか空気は前向きだった。
☆
帰り際。
兼次郎が静かに言った。
兼次郎
「模試は確認だ」
全員が見る。
☆
「今できることと、足りない部分を見るだけ」
「結果で浮かれるな」
「落ち込むな」
茉優が小さく笑う。
茉優
「兼次郎くんらしい」
龍也が伸びをする。
「でもさ」
「なんだかんだ、明日終わったら達成感ありそう」
瑠姫愛が笑う。
「夏の集大成だもんね」
☆
外。
夜風。
少しだけ涼しい。
夏が終わり始めている。
☆
玲緒菜は空を見上げる。
「……受験生の夏って、ほんと一瞬だね」
雷斗が隣で答える。
「まだ終わってない」
「うん」
玲緒菜は小さく笑った。
☆
明日。
努力が数字になる。
それは怖い。
でも。
逃げたくはなかった。
この夏、 ちゃんと前へ進んできたから。




