第31話 「夏休み後半戦」
八月後半。
夏休みは、 まだ終わっていない。
でも。
空気はもう完全に“受験”だった。
☆
朝六時半。
図書館前。
まだ人も少ない時間。
そこに玲緒菜はいた。
篠田玲緒菜
眠そうな顔。
でも手には英単語帳。
☆
「……眠い」
小さく呟いた瞬間。
後ろから声。
武田雷斗
「遅い」
玲緒菜が振り返る。
「いや早いよ!?」
まだ開館十五分前。
☆
雷斗は普通に席へ向かう。
玲緒菜が追いかける。
「なんでそんな元気なの」
「慣れ」
「その言葉万能すぎる」
☆
二人は並んで座る。
朝の図書館。
静かな空気。
ページをめくる音だけ。
☆
最初は集中していた。
でも。
一時間後。
玲緒菜の手が止まる。
「……分からん」
数学。
京大レベル。
完全に壁。
☆
雷斗がノートを見る。
「ここ」
「んー……」
「条件整理」
玲緒菜は頭を抱える。
「京大って条件好きすぎない!?」
「大学に文句言うな」
☆
でも。
雷斗は丁寧に説明する。
以前より、 ずっと自然だった。
玲緒菜は途中で気づく。
(……雷斗くん、めっちゃ教えるの上手くなってる)
☆
一方。
別の自習室。
結衣は完全に瀕死だった。
結衣
「英語長文長すぎる……」
隣で一将が問題を解く。
天野一将
「まだ半分」
「聞きたくなかった!」
結衣は机へ突っ伏す。
「東大って人間に解かせる気ある?」
一将が静かに言う。
「ある」
「その即答怖い!」
☆
しかし。
一将は結衣のノートを見る。
「前より読めてる」
結衣が止まる。
「……え」
「ミス減った」
短い。
でも。
ちゃんと見てくれている。
☆
結衣は少し笑った。
「褒める時だけ破壊力高いのやめて」
一将は首を傾げる。
「事実」
「天然なのが一番危ない!」
☆
午後。
ファミレス。
勉強組集合。
☆
龍也がドリンクバーを持ってくる。
龍也
「はい、受験生セット」
瑠姫愛が笑う。
瑠姫愛
「ただのジュースだよ?」
☆
結衣は参考書を見ながら唸る。
「集中切れた……」
茉優が優しく笑う。
茉優
「少し休憩しよっか」
兼次郎も頷く。
兼次郎
「休むのも必要」
結衣が驚く。
「兼次郎くんが優しい!?」
「何だと思ってる」
「勉強マシーン」
龍也が吹き出す。
☆
少しして。
話題は模試へ変わる。
空気が少し変わった。
☆
瑠姫愛が小さく呟く。
「次の模試、怖いな」
龍也も頷く。
「夏の結果出るもんな」
☆
玲緒菜も静かになる。
“京大B判定”
あの文字が、 まだ頭から離れない。
その時。
兼次郎が静かに言った。
「夏は結果が出にくい」
全員が見る。
☆
「今は積み重ねる時期だ」
「焦るな」
静かな声。
でも。
説得力がある。
☆
雷斗も小さく言う。
「夏終わってから変わる」
玲緒菜が少し驚く。
「雷斗くんも同じこと言うんだ」
「事実」
☆
結衣がジュースを飲みながら笑う。
「なんかさ」
「みんな受験生っぽくなったよね」
龍也が苦笑する。
「今さらすぎる」
でも。
確かにそうだった。
少し前まで、 “遠い未来”だった大学受験。
今はもう、 目の前まで来ている。
☆
帰り道。
夕暮れ。
少しだけ涼しい風。
夏の終わりが近い。
☆
玲緒菜は空を見ながら言う。
「来年の今頃って、何してるんだろ」
雷斗は隣を歩く。
「大学」
「受かればね」
「受かる」
玲緒菜が笑う。
「その自信どこから来るの」
雷斗は少しだけ玲緒菜を見る。
「努力してるから」
その言葉が、 胸に残った。
夏休み後半。
疲れもある。
不安もある。
でも。
彼らはまだ、 前を向いていた。




