第30話 「夏の終わりが近づく頃」
夏祭りから数日後。
学校。
夏期講習後半。
教室の空気は、 以前よりさらに張り詰めていた。
☆
模試。
志望校判定。
過去問演習。
現実が、 どんどん近づいてくる。
☆
朝。
超難関進学コース。
結衣は机へ突っ伏していた。
結衣
「……夏終わるの早すぎない?」
一将が問題集を開く。
天野一将
「まだ八月」
「受験生の八月は秒速なんだよ!」
☆
龍也が笑う。
龍也
「でも祭り行ってから、ちょっと空気変わったよな」
瑠姫愛も頷く。
瑠姫愛
「前よりみんな集中してる気がする」
☆
確かにそうだった。
遊んだからこそ。
息抜きしたからこそ。
また頑張れる。
そんな空気が、 全員にあった。
☆
一方。
普通科。
玲緒菜は数学の問題と睨み合っていた。
篠田玲緒菜
「……意味分からん」
隣で雷斗が解いている。
武田雷斗
玲緒菜が唸る。
「京大ってなんでこんな問題出すの!?」
雷斗は静かに言う。
「考えさせるため」
「分かってるけどぉ……!」
☆
雷斗は玲緒菜のノートを見る。
「ここ」
「ん?」
「途中で諦めてる」
玲緒菜が止まる。
☆
図星だった。
難しい問題になると、 途中で“無理かも”と思ってしまう。
☆
雷斗は静かに続ける。
「お前、前より解けてる」
玲緒菜が見る。
「……え」
「だから最後までやれ」
短い言葉。
でも。
玲緒菜には十分だった。
☆
放課後。
自習室。
全員が黙々と勉強している。
シャーペンの音だけ。
静かな戦場。
☆
結衣は英作文と戦っていた。
「無理……」
一将が横で答える。
「語順」
「その一言で分かるの怖い!」
☆
龍也は参考書を閉じて息を吐く。
「受験ってメンタル勝負だな」
瑠姫愛が小さく笑う。
「今さら?」
「いや、ほんとに」
☆
その時。
兼次郎が静かに言う。
兼次郎
「夏で崩れる奴は多い」
空気が少し変わる。
兼次郎は続ける。
「焦る」
「周りと比べる」
「判定に振り回される」
全員が黙る。
心当たりがある。
☆
茉優が小さく聞く。
茉優
「じゃあ、どうしたらいいの?」
兼次郎は即答した。
「積み重ねる」
シンプルだった。
でも。
だからこそ重い。
☆
「急に伸びる奴なんて少ない」
「毎日やった奴が最後に残る」
静かな声。
でも。
全員ちゃんと聞いていた。
☆
帰り道。
夕焼け。
少し涼しい風。
夏の終わりが近づいている。
☆
玲緒菜が空を見る。
「……なんか寂しいね」
雷斗が隣を歩く。
「何が」
「夏」
「まだ終わってない」
「でもさ」
玲緒菜は少し笑う。
「終わり始めてる感じする」
雷斗は少しだけ空を見る。
そして。
「終わるから意味ある」
玲緒菜が目を丸くする。
「……今日なんか名言多くない?」
「知らん」
「絶対ちょっとカッコつけてる」
「気のせい」
☆
でも。
玲緒菜は笑った。
夏は終わっていく。
楽しい時間も、 いつか終わる。
それでも。
この夏で得たものは、 きっと消えない。
友情。
恋。
努力。
未来への覚悟。
全部が、 少しずつ彼らを変えていた。




