第29話 「花火の下で」
夜。
祭りは最高潮を迎えていた。
人の波。
屋台の灯り。
笑い声。
そして——
間もなく始まる花火大会。
☆
河川敷。
みんなで場所を取って座る。
結衣がジュースを抱えながら叫ぶ。
結衣
「青春すぎる!!」
龍也が笑う。
龍也
「今日ずっとそれ言ってるな」
「だって本当に青春なんだもん!」
☆
瑠姫愛が夜空を見る。
瑠姫愛
「綺麗……」
浴衣姿。
夜風。
隣には龍也。
全部が少し夢みたいだった。
☆
その時。
一発目の花火が上がる。
ドォン——。
夜空が一気に色づいた。
「おぉ……!」
全員が空を見る。
☆
赤。
青。
金色。
大輪の花火。
一瞬で消える光。
でも。
だから綺麗だった。
☆
結衣は完全に見入っていた。
「すご……」
隣で一将も空を見る。
天野一将
結衣がふと呟く。
「来年ってさ」
「ん」
「こういうの見る余裕あるのかな」
一将は少し考える。
「作ればいい」
「簡単に言う」
「簡単じゃない」
静かな声。
一将は続ける。
「でも、忙しくても」
「今日みたいな日は必要だろ」
結衣は少し目を丸くした。
「……なんか最近優しい」
「前から」
「気づかなかった!」
一将が少しだけ笑った。
☆
少し離れた場所。
玲緒菜は花火を見上げていた。
篠田玲緒菜
その横には雷斗。
武田雷斗
人混みのせいで、 自然と距離が近い。
☆
玲緒菜が小さく言う。
「なんか、不思議」
「何が」
「少し前までさ」
「京大目指すなんて思ってなかった」
雷斗は静かに聞いている。
☆
「でも今は、行きたい」
玲緒菜は夜空を見る。
「怖いけど」
雷斗は短く答えた。
「怖くていい」
玲緒菜が見る。
「逃げなきゃ」
その言葉が、 胸へ真っ直ぐ入ってくる。
☆
花火が上がる。
光が二人を照らす。
玲緒菜は少し笑った。
「……ありがとう」
雷斗は小さく首を傾げる。
「何が」
「いっぱい」
雷斗は何も言わない。
でも。
繋いだ手だけは、 少し強く握り返した。
☆
一方。
瑠姫愛は花火に夢中だった。
「すごい……!」
龍也はその横顔を見ていた。
☆
瑠姫愛が気づく。
「……なに?」
龍也が少し笑う。
「いや」
「花火より綺麗だなって」
瑠姫愛が完全停止。
「っ!!?」
「やば、今の恥ず」
龍也が自分で照れ始める。
瑠姫愛は顔を真っ赤にして俯いた。
「急にそういうこと言うのずるい……」
でも。
嬉しくてたまらない。
☆
最後方。
兼次郎と茉優。
二人は静かに花火を見ていた。
兼次郎
茉優
茉優が小さく笑う。
「みんな楽しそう」
兼次郎は頷く。
「そうだな」
☆
しばらく静かな時間。
そのあと。
茉優がぽつりと呟く。
「……受験終わったらさ」
「ん」
「またこうして来たい」
兼次郎は夜空を見たまま答える。
「来ればいい」
「簡単に言う」
「来たくないのか」
茉優は笑う。
「来たいよ」
☆
その瞬間。
大きな花火が上がる。
夜空いっぱいの光。
歓声。
夏の音。
兼次郎は小さく言った。
「なら来よう」
茉優が見る。
「全員で」
その言葉が、 すごく嬉しかった。
☆
花火は続く。
でも。
高校最後の夏は、 きっと一瞬で終わる。
だからこそ。
今この時間を、 全員が大切に感じていた。
夜空へ咲く花火みたいに。
儚くて。
でも、 忘れられない夏だった。




