第28話 「浴衣」
夏祭り当日。
夕方。
駅前。
待ち合わせ場所には、 すでに人が集まり始めていた。
屋台の匂い。
遠くで聞こえる祭り囃子。
夏の空気。
そして——
浴衣姿の女子たち。
☆
最初に来たのは瑠姫愛だった。
瑠姫愛
淡い水色の浴衣。
髪も少しだけまとめている。
龍也が固まった。
龍也
「……え」
瑠姫愛が不安そうに聞く。
「へ、変じゃない?」
龍也は数秒止まったあと、 小さく言った。
「可愛い」
瑠姫愛の顔が一気に赤くなる。
「っ……!」
「思ったより破壊力ある」
「もうやだ……」
でも。
嬉しくて仕方ない。
☆
次に来たのは結衣。
結衣
白とピンクの浴衣。
慣れない下駄でふらついている。
「歩きにくいぃ……」
そこへ一将が到着。
天野一将
結衣が見る。
一将が止まる。
☆
数秒沈黙。
結衣が耐えきれず聞く。
「……どう?」
一将は静かに答える。
「似合ってる」
結衣が固まる。
「……それだけ?」
「かなり」
「語彙力!!」
でも。
耳が赤いのを見て、 結衣は少し笑った。
☆
その頃。
玲緒菜は待ち合わせ場所の端でそわそわしていた。
篠田玲緒菜
紺色の浴衣。
少し大人っぽい。
でも。
本人は落ち着かない。
「遅い……」
☆
そこへ。
雷斗が現れる。
武田雷斗
黒い私服。
いつも通り。
玲緒菜が振り向く。
「……あ」
雷斗は一瞬だけ止まった。
玲緒菜がさらに緊張する。
「えっと……変じゃない?」
雷斗は静かに答える。
「似合ってる」
短い。
でも。
真っ直ぐ。
玲緒菜の顔が赤くなる。
「そ、それだけ?」
「十分だろ」
「もっとこう……あるじゃん!」
雷斗は少しだけ玲緒菜を見る。
「……可愛い」
玲緒菜が完全停止。
「っ!!」
雷斗は普通に歩き出す。
「行くぞ」
玲緒菜は顔を押さえながら追いかけた。
「今日の雷斗くん強い……!」
☆
最後。
兼次郎と茉優。
兼次郎
茉優
茉優は淡い紫の浴衣だった。
兼次郎は静かに見る。
茉優が少し照れながら聞く。
「……どうかな」
兼次郎は即答。
「綺麗だ」
茉優が固まる。
「え」
「似合ってる」
さらっと言う。
破壊力だけ高い。
☆
茉優は顔を真っ赤にして俯く。
「……急にそういうこと言う」
兼次郎は首を傾げる。
「事実」
「ずるい」
☆
そして。
全員集合。
完全に青春だった。
☆
結衣がテンション全開。
「祭りだぁぁ!!」
龍也が笑う。
「受験生とは思えんな」
「今日だけ解放!」
☆
屋台通り。
焼きそば。
りんご飴。
射的。
かき氷。
人混み。
笑い声。
夏そのもの。
☆
玲緒菜が屋台を見ながら笑う。
「なんか久しぶり!」
雷斗は隣を歩く。
人が多い。
その時。
玲緒菜が人にぶつかりそうになる。
「あっ」
雷斗が自然に手を掴む。
☆
玲緒菜が止まる。
「……え」
雷斗は普通。
「迷うぞ」
手は繋がれたまま。
玲緒菜の心臓が跳ねる。
「……それ反則」
「何が」
「もういい!」
でも。
繋いだ手は、 離さなかった。
☆
夜空には、 まだ花火は上がっていない。
でも。
彼らの夏は、 今まさに一番輝いていた。




