第26話 「夏期講習」
夏休み中盤。
学校。
冷房が効いているはずなのに、 空気は熱かった。
理由は簡単。
——夏期講習。
受験生最大級の地獄。
☆
朝八時。
超難関進学コース。
すでに教室は半分埋まっていた。
参考書。
赤本。
眠そうな顔。
完全に受験空間。
☆
結衣は机へ突っ伏していた。
結衣
「……夏休み返して」
瑠姫愛が苦笑する。
瑠姫愛
「まだ始まって一時間だよ?」
「もう心折れた!」
☆
後ろで龍也が笑う。
龍也
「結衣、合宿で鍛えられたんじゃなかったのか」
「HPゼロです!」
☆
その隣。
一将は普通に英単語帳を読んでいた。
天野一将
結衣が指差す。
「なんで平気なの!?」
「慣れ」
「怖い!」
☆
教室前方。
兼次郎と茉優。
兼次郎
茉優
茉優がノートを見ながら小さく息を吐く。
「夏期講習ってこんな本格的なんだ」
兼次郎は頷く。
「ここから差がつく」
茉優が苦笑する。
「受験生って大変」
「今さら」
「冷たい」
でも。
兼次郎の言葉はいつも現実的だった。
☆
一方。
普通科教室。
玲緒菜は問題集と戦っていた。
篠田玲緒菜
「……京大数学嫌い」
隣で雷斗が問題を解く。
武田雷斗
「逃げるな」
「逃げたい!」
☆
玲緒菜は頭を抱える。
「なんで急に難易度爆上がりするの!?」
雷斗がノートを見る。
「基礎不足」
「その言い方毎回刺さる!」
☆
でも。
雷斗はちゃんと横へ座る。
「ここから」
玲緒菜が少し止まる。
「……教えてくれるの?」
「聞いたのはお前」
「素直じゃない!」
でも。
その時間が、 玲緒菜は嫌いじゃなかった。
☆
昼休み。
購買前。
受験生たちが死んだ顔でパンを買っている。
結衣もその一人。
「疲れたぁ……」
龍也が笑う。
「午前だけだぞ」
「もう人生三周分くらい勉強した」
☆
そこへ玲緒菜たちも来る。
「そっちどう?」
結衣が聞く。
玲緒菜は即答。
「京大数学が敵」
雷斗が短く言う。
「敵じゃない」
「味方でもない!」
☆
瑠姫愛が少し笑う。
「でもさ、みんな前より勉強してるよね」
その言葉に、 少し空気が変わる。
☆
確かにそうだった。
以前なら。
夏休みなんて遊ぶことしか考えてなかった。
でも今は違う。
全員が、 未来のために机へ向かっている。
☆
午後。
自習室。
静かな空間。
シャーペンの音だけが響く。
結衣が小さく呟く。
「……東大ってほんと遠い」
一将が隣で言う。
「遠くない」
「いや遠いよ!?」
「届く位置にある」
結衣は少し黙る。
☆
その言葉は、 不思議と安心する。
一将は、 絶対“無理”と言わない。
夕方。
講習終了。
空はオレンジ色。
みんな疲れ切っていた。
☆
結衣が階段へ座り込む。
「もう歩けない」
一将が普通に立っている。
「帰るぞ」
「鬼!」
☆
玲緒菜もため息をつく。
「受験生って毎日これ?」
雷斗が頷く。
「そう」
「地獄じゃん……」
でも。
その顔は少し笑っていた。
☆
帰り道。
みんな並んで歩く。
疲れている。
でも。
誰も立ち止まらない。
☆
受験は苦しい。
終わりも見えない。
それでも。
“叶えたい未来”があるから。
今日も彼らは、 前へ進き続けていた。




