第25話 「帰る場所」
夏合宿最終日。
朝。
別荘には静かな空気が流れていた。
最初に来た時より、 みんな少し疲れている。
でも。
どこか満たされた顔をしていた。
☆
リビング。
テーブルには朝食。
しかし。
全員かなり静か。
結衣がぼんやりトーストを見つめる。
結衣
「……帰りたくない」
龍也が笑う。
龍也
「夏休み終了みたいな顔してるぞ」
「だって現実戻るじゃん!」
☆
瑠姫愛も少し寂しそうだった。
瑠姫愛
「ここ居心地よかったなぁ」
茉優が頷く。
茉優
「みんなでずっと勉強してたもんね」
玲緒菜が苦笑する。
篠田玲緒菜
「勉強の思い出しかないの嫌すぎる」
雷斗が短く言う。
武田雷斗
「受験合宿だからな」
「正論禁止!」
☆
その時。
兼次郎が立ち上がる。
兼次郎
「片付けるぞ」
全員。
「現実戻すの早い!!」
笑いが広がる。
☆
午前中。
全員で掃除。
食器洗い。
布団片付け。
ゴミまとめ。
完全に修学旅行最終日みたいだった。
☆
結衣は掃除機を持ちながら叫ぶ。
「なんで私だけ家政婦みたいになってるの!?」
一将が荷物をまとめながら言う。
天野一将
「動いてるから」
「理由になってない!」
☆
玲緒菜は窓を開ける。
夏の風が入ってくる。
眩しい。
楽しかった時間ほど、 終わるのが早い。
☆
そのあと。
荷物を車へ積み込む。
別荘前。
全員が自然と建物を見上げた。
☆
龍也が笑う。
「なんか、めっちゃ青春だったな」
瑠姫愛も頷く。
「うん」
☆
茉優が小さく言う。
「また来たいね」
兼次郎は短く答える。
「受験終わったらな」
結衣が反応する。
「え、また来れるの!?」
兼次郎は普通に頷く。
「別にいい」
「神!?」
☆
車に乗り込む前。
玲緒菜は少しだけ立ち止まった。
雷斗が隣へ来る。
武田雷斗
「どうした」
玲緒菜は別荘を見る。
「……なんかさ」
「ここ来る前より、受験怖くなくなったかも」
雷斗は少しだけ目を細める。
「そうか」
「うん」
玲緒菜は笑った。
「一人じゃないって分かったからかな」
☆
雷斗は静かに言う。
「一人じゃ受からない」
玲緒菜が吹き出す。
「それ励まし!?」
「事実」
でも。
その言葉が嬉しい。
帰り道。
車内。
最初は騒がしかった。
でも。
途中から、 みんな静かになる。
疲れている。
そして。
それぞれ少しだけ、 未来を考えていた。
☆
結衣は窓の外を見ながら呟く。
「……来年どうなってるかな」
一将が隣で答える。
「大学生」
「ざっくり!」
「受かれば」
結衣が笑う。
「ほんとブレないよね」
☆
夕方。
駅前へ到着。
いつもの街。
いつもの景色。
でも。
少しだけ違って見えた。
☆
別れ際。
龍也が伸びをする。
「よし、また勉強地獄だ」
瑠姫愛が苦笑する。
「現実……」
☆
結衣が両手を上げる。
「次集まる時までに東大E判定に落ちないよう頑張ります!」
一将が即答。
「落ちる前提やめろ」
「怖いんだもん!」
笑いが起きる。
☆
玲緒菜はみんなを見る。
受験。
恋愛。
未来。
不安はたくさんある。
でも。
このメンバーなら、 頑張れる気がした。
そして。
夏休みは、 まだ続いていく。
彼らの青春も。
夢も。
恋も。
全部を乗せたまま、 少しずつ未来へ進んでいた。




