第24話 「夜更けの本音」
花火のあと。
別荘は少し静かになっていた。
時計は十一時過ぎ。
みんな疲れているはずなのに、 誰もすぐには眠ろうとしない。
夏の夜。
楽しかった時間のあと特有の、 少し寂しい空気が漂っていた。
☆
リビング。
テーブルにはジュースとお菓子。
参考書は端に追いやられている。
結衣がソファへ沈む。
結衣
「今日だけで青春一年分やった気がする」
龍也が笑う。
龍也
「まだ夏休み始まったばっかだぞ」
「もう満足!」
☆
瑠姫愛が小さく笑う。
瑠姫愛
「でもほんと楽しかった」
玲緒菜も頷く。
篠田玲緒菜
「なんか、普通の高校生っぽかった」
雷斗が短く言う。
武田雷斗
「高校生だろ」
「そうだけど!」
☆
しばらく笑い声。
でも。
そのあと、 少し静かになる。
☆
茉優がふと呟いた。
茉優
「受験終わったら、どうなるんだろうね」
空気が少し変わる。
☆
結衣が小さく言う。
「大学、みんな違うかもしれないし」
龍也も頷く。
「住む場所も変わるかもな」
瑠姫愛は少し俯く。
「……遠距離とか?」
その言葉に、 何人かが黙る。
現実味がある。
☆
兼次郎が静かに口を開く。
兼次郎
「変わるのは当たり前だ」
結衣が見る。
「……兼次郎くん」
兼次郎は続ける。
「高校と同じままではいられない」
静かな声。
でも。
否定じゃなかった。
☆
「だから今、頑張るんだろ」
その言葉に、 全員が少し止まる。
☆
一将も静かに言う。
天野一将
「未来を選ぶために受験する」
結衣が苦笑する。
「たまに名言みたいなの言うよね」
「事実」
「そこで崩してくる!」
笑いが戻る。
☆
そのあと。
話題は将来へ変わっていく。
「大学入ったら一人暮らししたい」
「分かる」
「でも料理できない」
「結衣絶対毎日コンビニ」
「否定できない……」
玲緒菜が小さく笑う。
「なんかさ」
全員が見る。
「少し前まで、“大学”って遠かったのに」
「今は普通に未来の話してるの不思議」
雷斗が頷く。
「近づいた」
玲緒菜は少しだけ目を細める。
「怖いくらいにね」
☆
窓の外。
夏の夜空。
遠くでまだ小さく花火の音がする。
☆
龍也がソファにもたれる。
「でもさ」
「来年の今頃、“受験懐かしい”とか言ってんのかな」
結衣が即答。
「絶対泣いてる」
「なんで」
「東大の課題で!」
一将が小さく吹き出す。
かなり珍しい。
結衣が固まる。
「……今笑った?」
「別に」
「絶対笑った!」
☆
その空気に、 全員が笑う。
受験生。
不安だらけ。
未来なんて分からない。
でも。
今この瞬間だけは、 みんな同じ方向を見ていた。
深夜。
部屋へ戻る前。
玲緒菜はテラスへ出た。
夜風が気持ちいい。
その隣へ、 雷斗が来る。
武田雷斗
「何してる」
玲緒菜は空を見る。
「ちょっと考え事」
「またか」
「またです」
少し笑う。
☆
玲緒菜は静かに言った。
「……変わるの、怖いね」
雷斗は少し黙る。
そして。
「変わらない方が怖い」
玲緒菜が見る。
雷斗は夜空を見たまま続ける。
「止まったまま終わる」
その言葉は、 やっぱり雷斗らしい。
玲緒菜は少し笑った。
「でも」
「ん」
「みんなでまた集まりたい」
雷斗は短く答える。
「なら受かれ」
玲緒菜が吹き出す。
「結局それ!」
でも。
その言葉が、 今はすごく頼もしかった。
夏の夜。
未来はまだ見えない。
それでも。
彼らはちゃんと、 前へ進んでいた。




