第21話 「夏の夜のキス」
深夜。
別荘。
窓の外では虫の声が静かに響いていた。
時計は午前一時。
勉強会の疲れで眠いはずなのに——
誰も、少しだけ眠れなかった。
☆
最初に動いたのは、 龍也だった。
龍也
部屋の灯りは暗い。
ベッドへ座る瑠姫愛を見る。
瑠姫愛
「……まだ起きてた」
瑠姫愛が小さく笑う。
「龍也くんも」
龍也は隣へ座った。
近い。
それだけで、 瑠姫愛の心臓が跳ねる。
☆
龍也が静かに言う。
「今日、A判定の話とかしてさ」
瑠姫愛が頷く。
「うん」
「なんか急に現実になってきた」
瑠姫愛は少し俯く。
「怖い?」
龍也は少し笑う。
「ちょっと」
そして。
「離れるのとか嫌だし」
瑠姫愛の目が揺れる。
☆
龍也は静かに瑠姫愛を見る。
「だから」
「今、ちゃんと隣にいたい」
瑠姫愛の呼吸が止まりそうになる。
次の瞬間。
龍也が優しくキスをした。
短く。
でも。
大切に触れるみたいなキス。
瑠姫愛は顔を真っ赤にしながら小さく笑う。
「……ずるい」
「何が」
「急に真面目になるの」
龍也も少し照れたように笑った。
一方。
玲緒菜の部屋。
篠田玲緒菜は、 まだベッドでごろごろしていた。
「寝れない……」
雷斗は窓際にもたれている。
武田雷斗
「考えすぎ」
「雷斗くんが平然としすぎなの!」
玲緒菜が枕を抱える。
☆
しばらく沈黙。
そのあと。
玲緒菜が小さく呟く。
「……京大、受かるかな」
雷斗は即答した。
「受かる」
「なんでそんな即答なの」
「お前が諦めてないから」
玲緒菜は止まる。
胸が熱い。
☆
雷斗が玲緒菜を見る。
「怖いか」
玲緒菜は少し笑った。
「うん」
正直だった。
「でも、頑張りたい」
雷斗は静かに近づく。
玲緒菜の心臓が一気に跳ねる。
「ら、雷斗くん?」
次の瞬間。
軽く額へキス。
玲緒菜が完全停止。
「……え」
雷斗は普通に戻る。
「これで落ち着け」
玲緒菜の顔が真っ赤になる。
「む、無理!!」
「うるさい」
でも。
玲緒菜は枕に顔を埋めながら、 ずっと笑っていた。
別室。
結衣は完全に固まっていた。
結衣
一将が普通に参考書を閉じる。
天野一将
「寝る」
「う、うん」
でも。
距離が近い。
意識しない方が無理だった。
☆
一将がふと聞く。
「まだ不安か」
結衣は少し黙る。
「……東大?」
「ん」
結衣は小さく頷く。
「怖いよ」
「落ちたらどうしようとか」
「期待裏切ったらどうしようとか」
声が少し弱い。
☆
一将は静かに結衣を見る。
「お前、頑張ってる」
結衣が顔を上げる。
「だから大丈夫」
その言葉だけで、 泣きそうになる。
☆
結衣が笑う。
「一将くんってさ」
「ん」
「たまにすごい破壊力ある」
「意味分からん」
結衣は少しだけ勇気を出す。
そして。
「……好き」
一将が止まる。
数秒。
静かな時間。
そのあと。
一将がそっと結衣へキスをした。
優しい。
静かなキス。
結衣の頭が真っ白になる。
☆
離れたあと。
一将が静かに言う。
「俺も」
結衣は完全に赤くなる。
「待って今のは反則……」
でも。
嬉しくて仕方なかった。
☆
最後。
兼次郎の部屋。
茉優は窓の外を見ていた。
茉優
兼次郎が隣へ座る。
兼次郎
「眠れないか」
茉優は小さく笑う。
「ちょっと」
☆
しばらく静かな時間。
でも。
それが落ち着く。
茉優が小さく呟く。
「来年、みんな別々になるのかな」
兼次郎は少し考える。
「かもしれない」
「……寂しいね」
兼次郎は静かに言った。
「離れても終わらない」
茉優が見る。
兼次郎は少しだけ近づく。
「お前とは」
そのまま。
そっとキスをした。
短い。
でも。
言葉よりずっと安心するキス。
茉優は少し目を潤ませながら笑う。
「……ずるい」
兼次郎は小さく首を傾げる。
「何が」
「そういうの、急にするところ」
兼次郎は少しだけ笑った。
☆
夏の夜。
受験。
不安。
未来。
全部怖い。
でも。
好きな人が隣にいる。
それだけで、 “頑張ろう”と思えた。




