第10話 「もう幼なじみじゃ誤魔化せない」
夕焼けの帰り道。
玲緒菜は、 まだ顔を真っ赤にしたままだった。
「……」
「……」
隣を歩いているだけなのに、 妙に緊張する。
さっきまでなら普通に話せていたのに。
『好きが止まんない』
その言葉が、 ずっと頭に残っていた。
「……兼次郎」
玲緒菜が小さく名前を呼ぶ。
「なんだ」 「今日の兼次郎、なんか変」 「お前に言われたくない」 「ひどい!?」
少しだけ、 いつもの空気が戻る。
玲緒菜はほっとしたように笑った。
その笑顔を見て、 兼次郎はまた視線を逸らす。
……ダメだ。
最近、 玲緒菜の笑顔が前より危険になってる。
すると。
「ねぇ」
玲緒菜が遠慮がちに聞いてきた。
「兼次郎ってさ」 「?」 「私のこと、どう思ってるの?」
足が止まる。
夕陽に照らされた玲緒菜の表情は、 少し不安そうだった。
兼次郎は答えに詰まる。
好き。
その言葉を、 まだ口にする勇気はない。
だけど。
特別で、 目が離せなくて、 誰にも取られたくなくて。
一緒にいると落ち着くのに、 同時に心臓がうるさくなる。
そんな相手は、 玲緒菜しかいなかった。
「……分からん」
正直にそう言った。
玲緒菜の表情が少し曇る。
だが。
「でも」 「……」 「お前が笑ってると安心する」
玲緒菜が息を呑む。
兼次郎はゆっくり続けた。
「他のやつといると気になるし」 「……」 「放っておけない」 「……っ」 「最近ずっと、お前のこと考えてる」
玲緒菜の目が潤んでいく。
「それが何なのか、まだちゃんと分からない」 「……うん」 「でも」
兼次郎は玲緒菜を見る。
真っ直ぐ。
逃げずに。
「もう“幼なじみだから”じゃ誤魔化せない」
その瞬間。
玲緒菜の瞳から、 ぽろっと涙が零れた。
「っ……」
慌てて玲緒菜は目を擦る。
「ご、ごめん……!」 「なんで謝る」 「だって嬉しくて……」
泣きながら笑う。
その顔が、 どうしようもなく愛しく見えた。
兼次郎は無意識に、 玲緒菜の頭へ手を伸ばしていた。
ぽん。
「……泣くな」
優しく撫でる。
玲緒菜の肩がびくっと跳ねた。
「……っ」
顔がまた真っ赤になる。
「け、兼次郎……」 「なんだ」 「今日ずるい……」 「知らん」 「心臓もたない……」
兼次郎は少しだけ笑った。
本当に小さく。
でも確かに。
玲緒菜は目を見開く。
「……今、笑った」 「気のせいだ」 「絶対笑った!」
玲緒菜が嬉しそうに笑う。
その瞬間。
兼次郎は思った。
……あぁ。
やっぱり。
俺はこの笑顔が、 たまらなく好きなんだ。




