第9話 「お前、俺の理性削りすぎ」
「情報量多すぎて無理ぃ……」
校舎裏の近く。
しゃがみ込んだ玲緒菜は、 顔を真っ赤にしたまま動けなくなっていた。
サッカー部の男子たちは、 気まずそうに笑う。
「えっと……ごめん、俺らお邪魔?」 「帰るか」 「そうだな……」
気を遣った二人は、 そのまま去っていった。
残されたのは、 兼次郎と玲緒菜だけ。
「……」
「……」
沈黙。
玲緒菜はまだしゃがみ込んでいる。
兼次郎は小さくため息を吐いた。
「……立て」 「む、無理……」 「なんでだ」 「兼次郎のせいで心臓壊れそうなの……!」
涙目だった。
兼次郎は少し黙り、 玲緒菜へ手を差し出す。
「ほら」 「……っ」
玲緒菜はその手を見る。
ゆっくり、 恐る恐る手を重ねた。
その瞬間。
兼次郎は玲緒菜を引き上げる。
ぐいっ。
「きゃっ」
勢い余って、 玲緒菜の身体がまた兼次郎へぶつかった。
「……っ」
近い。
顔の距離が近すぎる。
玲緒菜の瞳が揺れていた。
「け、兼次郎……」 「……」
夕陽のせいなのか、 玲緒菜の顔がいつも以上に赤く見える。
その時。
「……あれ」
玲緒菜が小さく呟いた。
「兼次郎も赤い」 「は?」 「耳」
無意識だった。
兼次郎は反射的に顔を逸らす。
「気のせいだ」 「またそれ」 「……」
玲緒菜は少しだけ笑った。
嬉しそうな、 照れた笑顔。
その顔を見ると、 胸の奥が変に熱くなる。
すると玲緒菜が、 遠慮がちに聞いてきた。
「……ねぇ」 「なんだ」 「さっきのって……本当に思ってるの?」
“その笑顔、俺だけに向けろよ”
自分で言っておいて、 今さら意味を考える。
独占したいみたいな言い方だった。
まるで。
「……」
玲緒菜は不安そうだった。
冗談だったら、 きっと笑って誤魔化すつもりなんだろう。
兼次郎は少しだけ目を伏せる。
そして。
「……お前が他のやつに笑ってると」 「……」 「なんか落ち着かない」
玲緒菜の呼吸が止まる。
兼次郎は続けた。
「だから、たぶん」 「……」 「嫌なんだと思う」
それが精一杯だった。
恋とか、 好きとか。
まだうまく分からない。
でも。
玲緒菜が特別なのだけは、 もう否定できなかった。
「……っ」
玲緒菜は両手で口元を押さえた。
目が潤んでいる。
「……そんな顔するな」 「だ、だってぇ……」 「泣くほどか」 「嬉しいんだもん……」
その声が、 やけに胸に響く。
すると玲緒菜が、 少し勇気を出すように聞いた。
「じゃあさ」 「?」 「もし私が……」 「……」 「他の人と付き合ったらどうする?」
その瞬間。
胸の奥が、 ずきっと痛んだ。
想像した瞬間、 嫌だと思った。
ものすごく。
「……嫌だな」
即答だった。
玲緒菜が目を見開く。
兼次郎自身も、 驚いていた。
ここまでハッキリ思うのか。
すると玲緒菜は、 泣きそうなくらい嬉しそうに笑った。
「……もう無理」
「何が」
「好きが止まんない」
心臓が、 大きく跳ねる。
玲緒菜は真っ赤な顔で、 でも逃げずにこちらを見ていた。
真っ直ぐで、 眩しいくらいの好意。
その視線を受けて。
兼次郎は思わず額を押さえた。
「……お前」 「?」 「俺の理性削りすぎ」
「っ!!?」
玲緒菜が再び真っ赤になる。
「そ、そういうこと普通に言わないで!?」 「本音だ」 「余計ダメぇ!!」
玲緒菜はまた顔を隠した。
でも。
隠しきれないくらい、 幸せそうに笑っていた。




