第19話 「夏と別荘と、受験生」
夏休み初日。
朝七時。
駅前。
強い日差し。
セミの鳴き声。
そして。
大量の参考書を持った高校生たち。
☆
「……重い」
結衣がキャリーケースに突っ伏す。
「なんで夏休みなのに参考書こんなあるの」
隣で瑠姫愛が笑う。
「勉強会だからだよ」
「泊まり会って聞いてもっと青春っぽいの想像してた!」
龍也が肩をすくめる。
龍也
「受験生にそんなもんない」
「悲しい!」
☆
その時。
黒い高級車が止まる。
全員が振り向く。
運転席の窓が開く。
兼次郎
「乗れ」
結衣が固まる。
「……え?」
瑠姫愛も目を丸くする。
「え、何その車」
兼次郎は普通に答える。
「別荘用」
「別荘用って言葉初めて聞いた!」
☆
後ろから茉優が苦笑する。
茉優
「兼次郎くん家、ちょっと規模感違うから」
「ちょっと!?」
☆
そして。
雷斗と玲緒菜も到着。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜は車を見て固まる。
「……ドラマ?」
雷斗が短く言う。
「金持ち」
「感想雑!」
☆
数時間後。
山道を抜けた先。
そこにあったのは——
巨大な別荘。
白い外壁。
広い庭。
テラス。
そして奥にはプールまで見える。
☆
結衣が完全に止まる。
「……は?」
瑠姫愛も固まる。
「いや待って」
龍也が笑う。
「ホテルじゃん」
☆
兼次郎は普通に荷物を下ろす。
「入れ」
玲緒菜が小声で言う。
「慣れてるの怖い」
茉優が苦笑する。
「私も最初びっくりした」
☆
中へ入る。
広い。
とにかく広い。
結衣がソファへ沈む。
「終わった……ここ住みたい……」
一将が荷物を置く。
天野一将
「勉強しろ」
「現実戻すの早い!」
☆
大将は窓の外を見る。
大将
「静かでいい」
龍也が笑う。
「お前ほんとどこでも落ち着いてんな」
☆
その後。
全員で勉強スペースへ。
長テーブル。
大量の参考書。
完全に合宿。
結衣が絶望した顔をする。
「……逃げたい」
一将が即答。
「無理」
「ですよねー!」
☆
勉強開始。
数時間後。
空気は完全に受験モード。
「ここ違う」
「え、なんで?」
「条件見落としてる」
「うわぁぁ……」
☆
玲緒菜は数学に苦戦していた。
「無理無理無理」
雷斗が隣で問題を見る。
「ここ」
「え?」
「途中式飛ばしすぎ」
「またそれ!?」
雷斗は淡々とノートを書く。
「こう」
玲緒菜が固まる。
「……分かりやす」
「基礎」
「言い方冷たい!」
でも。
ちゃんと教えてくれる。
☆
反対側。
結衣が英語長文で倒れていた。
「長いぃ……」
一将が普通にページをめくる。
「まだある」
「東大って敵なの!?」
瑠姫愛が吹き出す。
「結衣ちゃん今日ずっと面白い」
☆
夜。
勉強終了。
全員で夕食。
テラスには夜風。
遠くで虫の声。
受験の話。
大学の話。
未来の話。
いつの間にか、 みんな自然に語れるようになっていた。
☆
龍也がジュースを持ちながら言う。
「来年どうなってんだろうな」
瑠姫愛が隣で笑う。
「受かってたい」
「それはそう」
茉優は静かに空を見る。
「なんかさ」
兼次郎が見る。
「ん」
「今って、青春なのかな」
少し静かになる。
☆
結衣が笑う。
「参考書だらけだけどね」
玲緒菜も吹き出す。
「青春感ゼロ」
雷斗が小さく言う。
「でも悪くない」
全員が少し止まる。
玲緒菜が目を丸くする。
「雷斗くんが珍しくエモい」
「うるさい」
笑いが広がる。
☆
深夜。
それぞれの部屋。
机の上には参考書。
でも。
昼間より少しだけ心が軽い。
一人じゃない。
同じ未来を目指す仲間がいる。
怖い受験も。
苦しい勉強も。
今だけは少し、 楽しく思えた。
そして。
夏は、 まだ始まったばかりだった。




