第18話「模試の判定」
夏前最後の大型模試。
その結果が返ってくる日。
朝から校内の空気は異常だった。
廊下。
教室。
階段。
どこでも聞こえるのは
「模試の判定どうだった?」
その言葉。
超難関進学コース。
教室は静かだった。
誰もが平然を装ってる。
でも。
机の下の手が落ち着かない。
結衣は、プリントをまだ開けていなかった。
「…無理」
隣で一将は見終わってる。
「結衣、早く見ろ!」
「怖い」
「結果なんか変わらないから見ろよ!」
「正論で殴らないでよ!」
後ろ。
瑠姫愛と龍也。
瑠姫愛が深呼吸する。
「せーので見る?」
龍也が頷く。
「逃げるなよ!」
「そっちこそな!」
二人で紙を開く。
数秒後。
「…え」
「は?」
二人とも固まる。
前の席。
大将は静かに結果を見る。
大将「こんなもんか!」
表情は変わらない。
でも。
小さく息を吐いた。
その瞬間。
担任が教室へ入る。
担任「結果はもう見たやろ?」
誰も返事しない。
担任「今回の模試、かなりレベル高かったな!」
「その中で…」
教室が静まり返る。
「今回の模試でA判定が複数いる!」
ざわっとした。
担任は資料を見る。
「兼次郎、慶応義塾大学法学部A判定!」
兼次郎は静かに頷くだけ。
でも茉優が少し嬉しそうに笑う。
「結衣、東京大学教育学部A判定!」
教室が止まる。
「…え」
「東大A!?」
結衣本人が一番固まっていた。
「…は?」
一将が横を見る。
「だから言ったやろ?」
結衣が振り向く。
「待って待って待って!!」
顔が真っ赤。
「え、ほんとうに!?」
瑠姫愛が笑う。
「結衣ちゃん!今日ずっと壊れてる!」
担任は続ける。
「瑠姫愛、龍也!」
「二人とも早稲田大学法学部、共にA判定!」
龍也が思わず笑う。
「マジかよ!」
瑠姫愛は目を潤ませる。
「嬉しい…」
龍也が小さく言う。
「一緒に頑張ったもんな!」
瑠姫愛がさらに赤くなる。
「今言うのは反則やで!」
「大将、一将!二人とも東京大学経営学系、A判定!」
教室が変な笑いに包まれる。
「やっぱりか!」
「逆に安心した!」
大将は静か。
一将は頷くだけ。
結衣が呟く。
「なんでそんな普通なの?」
一将が返す。
「まだ模試だから途中!」
「怖いよ!」
その頃。
普通科。
玲緒菜は震えながら紙を開いていた。
隣では雷斗は見終わっていた。
玲緒菜が恐る恐る聞く。
「…どうだった?」
雷斗は短く答える。
「A判定」
玲緒菜が止まる。
「京大?」
「うん」
「はあ!?」
玲緒菜は慌てて自分の紙を見る。
数秒後。
「…B」
少しだけ空気が止まる。
玲緒菜は無理やり笑う。
「いや、Bでも十分だよね?」
でも。
少し悔しかった。
雷斗は静かに紙を見る。
「悪くないじゃん!」
玲緒菜は唇を噛む。
「でも、雷斗はAじゃん!」
「まだ一回目じゃんか!」
「それでも悔しいよ!」
雷斗は少しだけ玲緒菜を見る。
「お前、前ならBで喜んでたじゃん?」
玲緒菜が止まる。
「…あ」
確かに。
前の自分なら、B判定なんて飛び跳ねてた。
でも今は違う。
もっと上に行きたいと思ってる。
放課後。
屋上。
風が少し強い。
結衣はまだ判定票を見ていた。
「…東大Aって現実?」
一将が隣に立つ。
「これが現実だよ!」
「怖いな!」
「なんで」
「期待されるから!」
その言葉に、一将は少し黙る。
そして静かに言った。
「期待じゃないよ!」
結衣が見る。
「積み重ねた結果じゃん!」
結衣は少しだけ目を伏せる。
胸が熱かった。
同じ頃。
玲緒菜も判定表を見ていた。
京都大学B判定。
悔しい。
でも。
届いていないわけじゃない。
雷斗が横で言う。
「あと少しで届くじゃん!」
玲緒菜が笑う。
「簡単に言うな!」
「簡単じゃないぞ!」
雷斗は静かに続ける。
「でも届くよ!玲緒菜ならね!」
その言葉が何より嬉しかった。
判定は未来を決めるものではない。
でも。
可能性を見せる。
A判定の安心。
B判定の悔しさ。
全部が。
彼らをさらに前へ進ませていた。




