第16話 「三者面談」
六月。
雨。
校舎の窓を叩く雨音が、 いつもより静かに聞こえる。
今日は——進路三者面談。
三年生にとって、 “夢”を現実へ変える日。
そして。
“無理”を突きつけられる日でもあった。
☆
朝。
超難関進学コース。
教室の空気は重い。
誰もが落ち着かない。
結衣は机に突っ伏していた。
「帰りたい……」
隣で天野一将が普通に問題を解いている。
「まだ始まってない」
「それが怖いの!」
後ろで瑠姫愛が笑う。
瑠姫愛
「結衣ちゃん朝から情緒ジェットコースター」
龍也も頷く。
龍也
「分かるけどなー。親いる状態で進路話すの緊張する」
☆
茉優は静かにプリントを見ていた。
茉優
そこには。
“慶應義塾大学 教育学部”
隣には、 兼次郎の名前。
“慶應義塾大学 法学部”
茉優が小さく笑う。
「なんか、不思議」
兼次郎が見る。
「何が」
「本当に未来決めてる感じする」
兼次郎は短く答える。
「もう三年だからな」
その言葉が、 妙に現実的だった。
☆
昼。
面談開始。
廊下には保護者たち。
静かな緊張感。
まるで受験会場みたいだった。
☆
最初に呼ばれたのは、 結衣。
結衣
「うぅ……」
母と父が横にいる。
結衣の母
結衣の父
担任が資料を開く。
担任教師
「結衣さんは現在、学年でもかなり上位です」
父が驚く。
「そんなにですか」
「はい。特に最近の伸びが大きい」
結衣が恥ずかしそうに俯く。
☆
担任は続ける。
「東大教育学部は非常に難関です」
空気が少し張る。
「ですが、現時点で十分挑戦圏内です」
結衣が顔を上げる。
「……ほんとですか」
担任は頷く。
「もちろん油断はできません」
「ただ、“無謀”ではない」
その言葉に、 母が少し安心したように笑う。
☆
父が聞く。
「本人、最近かなり頑張ってまして」
担任が頷く。
「分かります」
そして少し笑う。
「天野くんの影響も大きそうですね」
結衣が真っ赤になる。
「えっ!?」
父がニヤッとする。
「なるほど?」
「違っ!」
母まで笑い始める。
「青春ねぇ」
「やめて!?」
☆
教室の外。
一将が壁にもたれて待っていた。
天野一将
結衣が出てくる。
「……死ぬかと思った」
一将は短く聞く。
「どうだった」
結衣は少し笑う。
「東大、“無理じゃない”って」
一将は当然みたいに頷く。
「そうだろ」
「その反応なんなの!?」
でも。
その言葉が嬉しい。
☆
次。
玲緒菜。
篠田玲緒菜
隣には母。
篠田玲緒菜の母
玲緒菜は緊張で姿勢が固い。
担任が資料を見る。
「京都大学志望、ですね」
玲緒菜は頷く。
「はい」
「正直に言います」
空気が止まる。
「簡単ではありません」
玲緒菜の指が少し震える。
☆
でも。
担任は続けた。
「ただ、最近の伸び方は非常に良い」
「特に英語と現代文」
母が少し驚く。
「そんなに伸びてるんですか?」
「はい」
担任は笑う。
「かなり努力しています」
玲緒菜は少しだけ目を伏せる。
そんな風に言われるの、 少し嬉しかった。
母が静かに言う。
「この子、本気なんです」
担任は頷く。
「伝わっています」
そして玲緒菜を見る。
「ここからです」
「今の努力を止めなければ、十分可能性はある」
玲緒菜の胸が熱くなる。
“無理”じゃない。
その一言だけで、 救われる。
☆
廊下。
面談後。
雷斗が待っていた。
武田雷斗
玲緒菜が近づく。
「どうだった」
玲緒菜は少し笑う。
「“無理ではない”だって」
雷斗は短く言う。
「なら行ける」
玲緒菜は吹き出す。
「ほんとブレないね」
☆
その後。
雷斗の面談。
父が教室へ入った瞬間、 担任が少しだけ緊張した。
武田雷斗の父
見た目が怖い。
でも本人は普通に座る。
「よろしくお願いしまーす」
担任が少し安心する。
☆
担任は資料を見る。
「武田くんは数学が突出しています」
父が笑う。
「俺に似なかったな」
「絶対違うと思います」
雷斗が即答する。
「おい」
少し空気が和らぐ。
☆
担任は真面目な顔になる。
「京都大学、十分狙えます」
父が少し目を細める。
「マジですか」
「はい。ただし、ここからの集中力次第です」
雷斗は静かに頷いた。
☆
帰り道。
雨が止んでいた。
結衣。
玲緒菜。
一将。
雷斗。
偶然校門前で合流する。
「お疲れー……」
結衣が完全に燃え尽きている。
玲緒菜も苦笑する。
「分かる」
一将は普通。
雷斗も普通。
結衣が指差す。
「なんで男子二人そんな平然としてるの!?」
雷斗が答える。
「終わったから」
「そういう話じゃない!」
一将も静かに言う。
「結果出たなら次やるだけ」
結衣と玲緒菜が同時にため息をつく。
「こういうとこ似てる……」
☆
でも。
誰も少しだけ分かっていた。
今日。
“夢”が、 少しだけ現実になった。
遠かった大学名が、 今はちゃんと未来として見えている。
怖い。
でも。
逃げたくない。
四人は並んで歩く。
それぞれ違う道を目指しながら。
それでも今は、 まだ同じ空の下にいた。




