第12話 「届かないと言われた日」
放課後。
進路指導室前。
廊下には、 重たい沈黙が流れていた。
先に出てきたのは、 篠田玲緒菜だった。
手には進路希望表。
でも、その紙を握る指に力が入っている。
後ろから雷斗が出てくる。
武田雷斗
玲緒菜は少し俯いたまま言う。
「……言われちゃったね」
雷斗は短く返す。
「そうだな」
玲緒菜は苦笑する。
「“早稲田と慶應は厳しい”って、普通にショックなんだけど」
☆
少し前。
進路指導室。
担任教師は真剣な顔だった。
担任教師
「篠田、武田」
「現時点の偏差値だと、早稲田・慶應はかなり厳しい」
玲緒菜の表情が固まる。
「……そんなにですか」
「可能性がゼロとは言わない」
「だが、相当厳しい」
雷斗は無言。
担任は続ける。
「ただ——」
プリントを見せる。
「京大レベルの国立型には適性がある」
玲緒菜が顔を上げる。
「……え?」
「武田は数学型」
「篠田は国語と英語が伸びている」
「私立特化より、国立型の方が噛み合う」
☆
現在。
廊下。
玲緒菜はまだ納得できていない。
「普通逆じゃない?」
「早稲田ダメで京大いけるって意味分かんない!」
雷斗は淡々と言う。
「試験形式の違い」
「いや分かるけど!」
玲緒菜はため息をつく。
「……でも、悔しい」
雷斗は少しだけ横を見る。
「悔しいなら受かれ」
玲緒菜は小さく笑う。
「またそれ」
☆
その頃。
超難関進学コース。
結衣は進路希望表を前に固まっていた。
結衣
「……無理かも」
隣で天野一将が普通に問題を解いている。
「何が」
「東大!」
一将は顔を上げる。
「決めたのか」
結衣は小さく頷く。
「……うん」
そして。
「東大教育学部」
教室が止まる。
龍也が最初に反応した。
龍也
「え、マジ!?」
瑠姫愛も驚く。
瑠姫愛
「結衣ちゃん、東大行くの!?」
結衣は顔を真っ赤にする。
「いや違っ、まだ決定じゃないけど!」
一将が静かに言う。
「受けるなら同じ」
「その言い方怖いって!」
☆
茉優が優しく笑う。
茉優
「でも結衣ちゃんなら、ほんとに行きそう」
結衣は小さく黙る。
その言葉が、 嬉しい。
でも怖い。
☆
放課後。
教室には夕陽が差し込んでいた。
結衣は窓際で小さく呟く。
「……ねえ一将」
天野一将
「ん」
「私、本当に東大行けると思う?」
一将は少しだけ間を置いた。
「行ける」
即答。
結衣は苦笑する。
「なんでそんな即答なの」
一将は静かに答える。
「諦めてないから」
その一言で、 結衣の胸が少し熱くなる。
同じ時間。
帰り道。
玲緒菜は空を見ていた。
篠田玲緒菜
「……京大かぁ」
雷斗が隣を歩く。
武田雷斗
「嫌か」
玲緒菜は少し考える。
「嫌じゃない」
そして。
「ただ、“無理”って言われたの悔しい」
雷斗は短く言う。
「じゃあ受かれ」
玲緒菜は吹き出す。
「それしか言わないの?」
「十分だろ」
玲緒菜は笑う。
悔しい。
でも。
その悔しさが、 前へ進む理由になっていた。
☆
夜。
それぞれの机。
結衣は“東京大学 教育学部”と書かれた紙を見る。
玲緒菜は“京都大学”の文字を見つめる。
未来は遠い。
でも。
もう“憧れ”じゃない。
届かないと言われても。
無理だと言われても。
それでも。
隣に並びたい相手がいるから、 全員が前を向いていた。




