第11話 「置いていかれる怖さ」
数日後。
超難関進学コースの空気は、 さらに変わっていた。
授業速度。
問題レベル。
配布プリント。
全部が異常に速い。
「はい、ここ試験範囲な」
担任が黒板に大量の数式を書く。
教室から小さなどよめき。
結衣は完全に固まっていた。
「……え、待って」
隣で天野一将がノートを取っている。
「ん」
「今どこ!?」
「最初」
「嘘でしょ!?」
後ろで龍也が笑いを堪えていた。
龍也
「結衣、お前今日ずっとパニックじゃん」
瑠姫愛も苦笑する。
瑠姫愛
「でも正直、今回かなり速いよね」
茉優も珍しく眉を寄せる。
茉優
「うん……普通に難しい」
☆
休み時間。
結衣は机に突っ伏した。
「無理かもしれない」
一将が即答する。
「無理じゃない」
「その自信どこから!?」
「今まで残った」
結衣は止まる。
一将は淡々と続ける。
「ここにいる時点で、お前は下じゃない」
結衣は少し黙る。
その言葉は、 妙に真っ直ぐだった。
☆
その頃。
普通科。
玲緒菜は窓の外を見ていた。
篠田玲緒菜
遠くの別棟。
そこに超難関進学コースがある。
以前は同じ教室にいた。
今は違う。
「……遠いなぁ」
隣で雷斗が問題集を閉じる。
武田雷斗
「距離は変わってない」
「気持ちの話!」
玲緒菜は少しむくれる。
「なんかさ、みんな先行ってる感じする」
雷斗は即答する。
「なら行けばいい」
「簡単に言うよね」
「簡単だから」
玲緒菜はため息をつく。
でも、その言葉が少しだけ悔しい。
☆
放課後。
結衣は珍しく教室に残っていた。
ノートは開いている。
でも、手が止まっている。
「……追いつけるかな」
小さな声。
その時。
椅子を引く音。
一将だった。
天野一将
「帰らないのか」
「勉強してから帰る」
「そうか」
会話が終わく……と思った瞬間。
一将が隣に座る。
結衣が固まる。
「……え?」
「分からないとこ」
「え?」
「教える」
結衣は数秒止まる。
「……天野くんが!?」
「そんな驚くか」
「驚くよ!?」
☆
その頃。
屋上。
玲緒菜は缶ジュースを持ちながら空を見ていた。
雷斗が後ろから来る。
武田雷斗
「何してる」
篠田玲緒菜
「考え事」
「珍しいな」
「失礼!」
玲緒菜は少し笑う。
でも、そのあと静かに言った。
「……置いていかれるの、怖い」
風が吹く。
雷斗は少し黙った。
そして。
「なら追え」
玲緒菜は顔を上げる。
「それだけ?」
「それしかない」
玲緒菜は苦笑する。
「ほんとシンプル」
雷斗は前を見たまま言う。
「止まる方が終わる」
その言葉は、 やっぱり少し怖い。
でも。
少しだけ前を向ける。
☆
夕方。
教室。
一将は結衣のノートを見る。
「ここ違う」
「え!? あ、ほんとだ!」
「だから計算崩れてる」
結衣は頭を抱える。
「うわぁぁ……」
一将は静かにシャーペンを動かす。
「こう」
結衣は目を丸くする。
「……分かりやす」
「普通」
「普通じゃない!」
龍也が遠くから笑う。
「一将、教えるのうまっ」
瑠姫愛も驚く。
「結衣ちゃん限定で優しくない?」
「気のせい」
即答。
結衣は少しだけ笑った。
☆
帰り道。
玲緒菜は歩きながら呟く。
「……みんな、変わってくね」
隣で雷斗が答える。
「変わらない方が終わる」
玲緒菜は少し笑う。
「またそれ」
でも。
その言葉が、 最近少しだけ好きになっていた。
そして。
誰も気づかないまま、 “未来との差”は静かに広がっていく。
でも同時に。
その差を埋めようとする気持ちも、 確かに強くなっていた。




