第9話 「進路という名の序列」
超難関進学コースが始まって数日。
教室にはもう一つ、 新しい“現実”が追加されていた。
それは——進路希望調査。
紙が配られた瞬間、 空気が少しだけ変わる。
結衣は、ペンを止めたまま呟く。
「……進路とか、急に重くない?」
隣で天野一将が淡々と言う。
「普通」
「またそれ!」
でも一将は本気でそう思っている顔だった。
☆
教室前方。
すでに提出した者の進路が、 担任の手元で整理されていた。
担任教師が静かに読み上げる。
「上位層の進路希望を共有する」
一瞬、教室がざわつく。
☆
最初に名前が出たのは——
兼次郎
「慶應義塾大学 法学部」
次に茉優
「慶應義塾大学 教育学部」
教室が少しどよめく。
「え、ガチじゃん……」
続いて。
瑠姫愛
「早稲田大学 法学部」
龍也
「早稲田大学 法学部」
瑠姫愛が小さく笑う。
「おそろいだね」
龍也は苦笑する。
「たまたまな」
でもその空気は、 少しだけ柔らかい。
☆
そして——
担任の声が変わる。
「次」
空気が一気に締まる。
「大将」
大将
「東京大学 経営学系」
教室がざわつく。
「東大!?」 「え、マジで?」
大将はいつも通り無表情だった。
☆
最後。
担任は一度だけ間を置く。
「天野一将」
天野一将
教室が静まり返る。
「東京大学 経営学系」
一瞬、時間が止まる。
「……当然」
誰かが小さく呟く。
結衣は固まったまま彼を見る。
「え、ちょっと待って」
一将は淡々としている。
「予定通り」
「予定通りって何!?」
瑠姫愛が笑う。
「一将くん、それ一番怖いやつだよ」
☆
その時。
結衣の胸に、 妙な感覚が走る。
――みんな、もう“上”を見ている。
慶應。 早稲田。 東大。
名前が、 未来の高さを決めていく。
☆
放課後。
屋上。
結衣はフェンスにもたれていた。
結衣
「……ねえ一将」
天野一将
「ん」
「東大行くの?」
一将は空を見たまま答える。
「行く」
即答。
結衣は少し黙る。
「すごいね」
一将は少しだけ横を見る。
「お前も来るだろ」
結衣は目を見開く。
「え?」
一将は淡々と続ける。
「来る側の人間だろ」
結衣は笑う。
「なにそれ、プレッシャー」
一将は少しだけ口元を緩める。
「事実」
☆
その頃。
玲緒菜は廊下で立ち止まっていた。
篠田玲緒菜
遠くで聞こえる名前たち。
別世界のように思える。
その隣で雷斗が言う。
武田雷斗
「同じ学校だろ」
玲緒菜は小さく笑う。
「でも、見えてる未来違いすぎる」
雷斗は即答する。
「合わせろ」
玲緒菜は少しだけ目を細める。
「ほんと、簡単に言うね」
雷斗は前を向く。
「簡単だからな」
その言葉が、 また少しだけ玲緒菜を前へ押す。
☆
教室。
誰もが自分の進路を見つめている。
でも同時に、 隣の未来も見てしまう。
結衣は小さく呟く。
結衣
「……同じ場所にいたいな」
その願いは、 まだ現実には届かない。
でも確かに——
物語は、 “未来の競争”へと進み始めていた。




