第7話 「残された席」
沈黙の教室。
名前が呼ばれた者は、 すでに立ち上がっていた。
椅子が引かれる音が、 やけに大きく響く。
結衣は、その光景を見ながら唇を噛んでいた。
「……本当に、変わるんだ」
隣で天野一将は動かない。
ただ、結果表を見ている。
その目は冷静だったが、 ほんのわずかに鋭い。
☆
後ろの席。
瑠姫愛は、小さく息を吐く。
「……思ったよりキツいね、これ」
茉優も静かに頷く。
「うん。実感、来るの遅いけど重い」
教室の空気は、 明らかに一段階変わっていた。
☆
廊下。
雷斗と玲緒菜。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜は立ち尽くしている。
「……あれ、本当にいなくなるんだ」
雷斗は淡々と答える。
「そういうルールだ」
玲緒菜は顔をしかめる。
「ルールって言えば済む話じゃないよ」
雷斗は少しだけ視線を落とす。
「でも、それで回ってる」
その言葉が、 やけに冷たく響いた。
☆
教室。
担任が静かに続ける。
担任教師
「B組へ移動する者は、後ほど指示する」
その瞬間。
空気がさらに重くなる。
“次は誰だ”
誰もが同じことを考えていた。
☆
結衣は小さく手を握る。
(お願い、まだ大丈夫)
でもその願いに、 根拠はない。
隣の一将は静かに言う。
天野一将
「次で決まる」
結衣が顔を向ける。
「何が」
一将は少しだけ間を置く。
「このクラスの形」
☆
放課後。
教室にはまだ誰かが残っていた。
名前が消えた席を見つめる者。
無言でノートを開く者。
何もできずに座る者。
瑠姫愛がぽつりと言う。
瑠姫愛
「……これ、慣れるのかな」
茉優は少しだけ首を振る。
「慣れたくないかも」
その言葉に、 誰も返せない。
☆
廊下。
玲緒菜は雷斗を見上げる。
篠田玲緒菜
「ねえ雷斗くん」
「ん」
「もし、私が名前呼ばれたら?」
雷斗は一瞬止まる。
そして短く言う。
「上がるまで待つ」
玲緒菜は目を見開く。
「……それだけ?」
雷斗は前を見たまま続ける。
「それ以上はない」
玲緒菜は少し笑ってしまう。
でもその冷たさが、 なぜか安心だった。
☆
夕方。
教室は静かに空になっていく。
残ったのは、 “次は自分かもしれない”という不安。
結衣は帰り際に呟く。
結衣
「……ここから、もっと大事になるんだ」
一将は横で答える。
天野一将
「もう始まってる」
その言葉とともに。
三年A組は完全に理解する。
これはもう“競争”ではない。
居場所を賭けた戦いだ。




