第6話 「名前が消える瞬間」
朝。
三年A組の教室は、 昨日よりさらに静かだった。
誰もが分かっている。
今日、結果が出る。
結衣は、机の上の手を握りしめていた。
「……心臓うるさい」
隣で天野一将が淡々と返す。
「普通」
「普通じゃない!」
そのやり取りさえ、 少しだけ震えている。
☆
教室の後ろ。
瑠姫愛は珍しく笑っていなかった。
「ねえ茉優」
茉優は小さく頷く。
「うん」
「これ、ほんとに誰か落ちるよね」
茉優は答えない。
答えられなかった。
☆
廊下。
雷斗と玲緒菜。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜はプリントを見つめている。
「……怖い」
雷斗は歩きながら言う。
「結果は結果」
「冷たっ」
「現実」
玲緒菜は少しだけ唇を噛む。
でもその後、小さく言った。
「……でも、負けたくない」
雷斗は横目で見る。
「なら大丈夫」
短い言葉。
でも妙に重かった。
☆
HR。
担任が教室に入る。
担任教師
手には一枚の紙。
教室の空気が一瞬で凍る。
「結果を発表する」
誰も息をしない。
「まず、A組残留」
名前が読み上げられていく。
1人ずつ。
静かに。
そして。
――読まれるたびに誰かが救われる。
結衣は目を閉じていた。
(お願い、残って)
一将は前を見ている。
動かない。
瑠姫愛は唇を噛む。
茉優は祈るように手を組む。
☆
そして。
担任の声が止まる。
「以上で……A組残留はここまで」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
空気が変わる。
「今回、B組へ戻る者がいる」
教室がざわつく。
「名前を呼ぶ」
誰かが息を呑む。
そして――
名前が読み上げられる。
その瞬間。
空気が崩れた。
誰かが机を握る音。
誰かの小さな声。
そして。
名前を呼ばれた者は、 立ち上がるしかなかった。
☆
結衣の視界が揺れる。
結衣
「……そんな」
隣で一将の表情がわずかに変わる。
天野一将
瑠姫愛が息を呑む。
茉優が目を見開く。
☆
廊下の先。
雷斗は静かに聞いていた。
武田雷斗
「……想定内」
小さくそう言う。
でもその目は、わずかに細まっていた。
隣で玲緒菜が震える。
篠田玲緒菜
「……これ、ほんとに現実?」
雷斗は短く答える。
「これが学校だ」
☆
教室の空気は、 もう元には戻らない。
誰が落ちたか。
誰が残ったか。
その差が、 人間関係そのものを変えていく。
結衣は小さく呟く。
「……次は、私かもしれない」
一将はその言葉を聞いて、 静かに言う。
「守れ」
たった一言。
でもそれは、 今までで一番重かった。
――そして、三年A組は知る。
順位は“数字”ではなく、
関係を壊す力を持っていると。




