第3話 「最初の崩落」
その日は、何の変哲もない朝だった。
――はずだった。
三年A組の教室。
結衣は、朝のプリントを受け取りながら小さく首を傾げる。
「……なんか今日、空気重くない?」
隣で天野一将が即答する。
「気のせい」
「またそれ!」
でも、結衣自身も分かっていた。
気のせいじゃない。
☆
朝のHR。
担任が教室に入ってくる。
担任教師
「今日は少し連絡がある」
一瞬で教室が静まる。
「次の模試、範囲を拡張する」
ざわっ。
「さらに、A組内での平均点が基準を下回った場合——」
その言葉で空気が止まる。
「一部再編成の可能性がある」
「……再編成?」
誰かが小さく漏らす。
瑠姫愛の顔から笑みが消える。
瑠姫愛
茉優も視線を落とす。
茉優
「……そんなに厳しくするんだ」
教室の空気が一気に重くなる。
☆
昼休み。
屋上。
結衣はフェンスに手をかけたまま動かない。
結衣
「再編成って……やばくない?」
天野一将は冷静だった。
「普通」
「普通じゃない!」
一将は少しだけ結衣を見る。
「落ちるやつが出るだけ」
結衣は黙る。
その“だけ”が怖い。
☆
廊下。
雷斗と玲緒菜。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜は足を止める。
「ねえ雷斗くん」
「ん」
「これ、かなりやばいやつじゃない?」
雷斗はプリントを見たまま言う。
「普通」
「どこが普通!?」
雷斗は淡々と答える。
「落ちるやつが出るだけ」
玲緒菜は固まる。
「それ一将くんと同じこと言ってる!」
雷斗は少しだけ目を細める。
「同じだろ」
その一言が、 妙に冷たく響いた。
☆
放課後。
教室。
兼次郎がノートを閉じる。
兼次郎
「再編成が入るなら、今の順位は意味が変わる」
龍也が顔をしかめる。
龍也
「最悪じゃんそれ」
瑠姫愛は笑えないまま言う。
「じゃあ、ほんとに“落ちる人”出るってこと?」
茉優は小さく頷く。
「……うん」
その瞬間、教室の空気が完全に変わる。
☆
夕方。
玲緒菜は帰り道で立ち止まる。
篠田玲緒菜
「落ちる……って、誰?」
雷斗は少しだけ間を置く。
「弱い順」
玲緒菜は息をのむ。
「そんな簡単に言うの?」
雷斗は前を見たまま言う。
「簡単じゃない。現実」
その言葉は、 優しさがないのに正しかった。
玲緒菜は小さく呟く。
「……怖い」
雷斗は少しだけ視線を落とす。
そして短く言う。
「だから上がれ」
その瞬間。
三年A組は初めて気づく。
――これは“順位争い”じゃない。
生き残りの戦いになり始めている。




