第2話 「崩れ始める影」
翌日。
三年A組は、昨日と同じ教室にいるはずなのに——
どこか違って見えた。
理由は単純だった。
「順位が動く前の空気」が、もう教室に染み込んでいた。
結衣は、朝から落ち着かない。
「ねえ一将」
天野一将はノートを開いたまま答える。
「ん」
「ほんとに次のテストで何か変わると思う?」
一将は少しだけ間を置く。
「変わる」
即答だった。
結衣は眉をひそめる。
「即答やめて怖い」
一将は淡々と続ける。
「今のままなら、上も下も入れ替わる」
その言葉に、結衣の背中が少し冷える。
☆
後ろの席。
瑠姫愛がペンを回しながら笑う。
「結衣ちゃん、顔こわばってるよ」
「だって……」
茉優が静かに言う。
茉優
「実際、ちょっとずつ差が開いてる気はするよね」
結衣はハッとする。
「え?」
茉優は少しだけ目を伏せる。
「同じように頑張ってるつもりでも、 伸び方が違う感じ」
その一言が、 やけに現実的だった。
☆
廊下。
雷斗と玲緒菜。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜は問題集を見ながら歩いている。
「ねえ雷斗くん」
「ん」
「なんかさ、最近みんな静かじゃない?」
雷斗は即答する。
「静かじゃなくて、集中してるだけ」
玲緒菜は少しむっとする。
「それ怖いってことじゃん」
雷斗は少しだけ横を見る。
「怖いなら上がればいい」
玲緒菜は止まる。
「……簡単に言うね」
雷斗は前を向く。
「簡単なことしか言ってない」
その言葉は冷たいのに、 なぜか正しかった。
昼休み。
屋上。
結衣はフェンスにもたれながらため息をつく。
「もう無理かも」
天野一将は即答する。
「無理じゃない」
「どっちなの!」
一将は少しだけ空を見る。
「やるかやらないか」
結衣は黙る。
そして小さく笑う。
「ほんと極端だよね」
☆
放課後。
教室。
兼次郎が静かに言う。
「次で序列が固まる」
龍也がため息。
「またそれかよ」
瑠姫愛は笑う。
「でもさ、今のまま固定される方が逆に怖くない?」
その言葉で、少し空気が止まる。
茉優がぽつりと呟く。
「……固定されないから、頑張れるのかも」
☆
夕方。
玲緒菜は帰り道で立ち止まる。
篠田玲緒菜
「ねえ雷斗くん」
武田雷斗
「ん」
「もしさ、私が落ちたらどうする?」
雷斗は少しだけ間を置く。
「落ちるなら上げるだけ」
玲緒菜は目を見開く。
「それ、優しいの?」
雷斗は少しだけ言う。
「事実」
玲緒菜は笑ってしまう。
「……ほんとズルい」
雷斗は前を向いたまま言う。
「お前も上がれ」
その一言だけが、 やけに重く残った。
そして——
誰も気づかないまま。
“順位の均衡”は、確実に崩れ始めていた。




