第2章 「崩れ始める順位と、選ばれる関係」 第1話「静かな違和感」
朝。
三年A組の教室は、 一見いつも通りだった。
シャーペンの音。 ページをめくる音。 誰かの小さなあくび。
でも、その“いつも通り”の中に、 ほんのわずかな違和感が混じっている。
結衣は、 机の上のプリントを見ながら呟いた。
「……最近、ちょっと空気変わった気がする」
隣で天野一将が即答する。
「気のせい」
「出た、即否定」
結衣はむっとする。
でも、一将は本気でそう思っている顔だった。
☆
後ろの席では、 瑠姫愛がペンを回している。
「ねえ、結衣ちゃん」
「ん?」
「最近さ、みんなちょっと余裕ない?」
結衣は少し考える。
「余裕……あるようでないような?」
茉優が静かに頷く。
茉優
「成績上がってる人ほど、逆に焦ってる感じはあるかも」
その言葉に、 教室の空気が少しだけ重くなる。
☆
廊下。
雷斗と玲緒菜。
武田雷斗
篠田玲緒菜
玲緒菜は歩きながら言った。
「ねえ、雷斗くん」
「ん」
「このまま行けると思う?」
雷斗は少しだけ間を置く。
「無理なやつは落ちる」
玲緒菜が顔をしかめる。
「言い方!」
雷斗は続ける。
「でも今のままだと、 順位は簡単に動く」
玲緒菜は黙る。
その言葉が、 妙に現実的だった。
☆
昼休み。
屋上。
風が少し強い。
結衣はフェンスにもたれていた。
結衣
「一将」
天野一将
「ん」
「最近さ、みんなちょっと怖くない?」
一将は空を見たまま答える。
「普通」
「普通って何!?」
一将は少しだけ間を置く。
「本気のやつが増えただけ」
結衣は少し黙る。
その言葉は、 否定できなかった。
☆
放課後。
教室。
兼次郎は、 静かにノートを閉じた。
「次のテストでまた変わる」
龍也がため息をつく。
「また順位の話かよ」
瑠姫愛が笑う。
「でもさ、実際そうじゃない?」
茉優が小さく頷く。
「うん……みんな伸びてるから」
その“伸びている”という事実が、 逆に不安を生んでいた。
夕方。
玲緒菜は帰り道で立ち止まる。
篠田玲緒菜
「……最近、静かじゃない気がする」
隣で雷斗が歩く。
武田雷斗
「嵐の前」
玲緒菜が見る。
「え?」
雷斗は前を見たまま言う。
「次の結果で分かる」
その言葉は、 いつもより少しだけ重かった。
玲緒菜は小さく息を吐く。
「……怖いね」
雷斗は短く言う。
「だから面白い」
その瞬間。
静かだった均衡が、 ほんの少しだけ揺れた気がした。




