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還らずの街のルート急便 ~過労死した元ゲーム開発者は「ミニマップ」と「煙魔法」で泥臭く成り上がる~  作者: わかば めぐる
第1章

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第4話 青い髪の少女

 数日後。


 午前の配達は、たまにいつもと違う道を走ることがある。


 今日は三件目の届け先が変わった。商業区を外れ、職人通りをさらに奥へ行った先にある染物屋。普段は行かない場所だ。


 荷物を届けて銅貨を受け取り、帰り道を探す。来た道を戻ればいいんだけど、ミニマップに白い道が見えると、つい足が向く。配達少年の性分だ。知らない道は歩いておきたい。


 路地を一本入ったところで、声が聞こえた。


「だからお前がやれって言ってんだよ」


 男の声。少年の声、というほうが正しい。まだ声変わりしていない。


 路地の奥を覗くと、三人と一人が向かい合っていた。


 三人組は見習い冒険者だ。ギルドで見たことがある顔だった。僕より少し年上。たぶん十一か十二。三人とも腰に安い短剣をぶら下げている。


 その前に立っていたのは、小柄な少女だった。


 青い髪が肩の少し下で揺れている。背は僕より少し低いくらいだが、体の小ささに反して目つきが強い。怯えていない。怒っている。


 三人組の一人が札を振っていた。ギルドの依頼札だ。


「蜂の巣の駆除なんてやってられねえよ。お前、暇そうじゃん。やっとけ」


「は? あんたたちが受けた依頼でしょ」


 少女が言い返す。声が低い。怒りを抑えている声だった。


「別にいいだろ。見習いなんて誰がやっても同じだって」


「よくないわよ。自分で受けたなら自分でやりなさいよ」


「うるせえな。やれって言ってんだ」


 三人組の真ん中の一人が、少女に詰め寄る。


 少女は一歩も引かなかった。


 拳を握っている。小さな拳だった。でも、握り方が本気だった。殴れる。殴りたがっている。でもギリギリ堪えている。


 僕は荷物を抱えたまま、路地の入口に立っていた。


 前の人生なら、関わらなかったかもしれない。他人のトラブルに首を突っ込むのは、会社員時代に散々懲りた。余計なことをすれば余計な仕事が増える。


 でも、ここは前の人生じゃない。


 それに、三人で一人を囲む絵は、単純に気に入らなかった。


「何してるんですか?」


 荷物を抱えながら歩き寄った。


 三人組がこっちを見る。荷物を抱えた小柄な少年。配達の途中だと一目で分かる格好だ。脅威には見えないだろう。


「関係ないだろ。あっち行けよ」


「蜂の巣駆除の依頼なら、受けた人がやるものじゃないですか?」


 正論を言っただけだ。


 真ん中の一人が顔をしかめた。


「だから関係ないって——」


「ギルドの依頼って、受けた本人が完了しないと実績にならないですよね?」


 これは本当だ。ギルドに登録していれば誰でも知っていること。依頼を受けたのに別人にやらせたら、最悪の場合は依頼放棄で処分がつく。


 三人組の顔が少し変わった。処分、という言葉が頭をよぎったのかもしれない。


 少女がそのタイミングで畳みかけた。


「聞いたでしょ。さっさと自分たちでやりなさいよ」


 拳はまだ握っている。でも声のほうが先に出た。


 三人組は互いに顔を見合わせて、舌打ちをした。


「……覚えとけよ」


 捨て台詞を残して、路地の奥へ去っていく。蜂の巣駆除に行くのか、それとも逃げるのかは分からない。


 足音が遠ざかるのを待ってから、少女のほうを見た。


「大丈夫?」


「大丈夫よ」


 即答だった。


 少女が僕を見る。青い目。空の色に近い。さっきまでの怒りが少し残っているけど、こちらに向けたものではないらしい。


「あんたこそ何よ。配達中でしょ?」


「まあ、そうだけど」


「だったら行きなさいよ。遅れるわよ」


「……もう終わったから大丈夫」


「じゃあ暇なの?」


「暇じゃないけど」


「どっちよ?」


 面白い子だなと思った。


 助けてくれてありがとう、とは言わない。そもそも助けられたと思っていないんだろう。自分でなんとかできた。たぶんそう思っている。


 実際、殴っていたら三人組に勝てたかもしれない。あの拳の握り方は素人のものじゃなかった。


「僕はルート」


 名乗ったのは、なんとなくだった。この子の名前が知りたかった。それだけだ。


 少女が少しだけ間を置いて答えた。


「アウロラよ」


「アウロラ」


「そう」


 それだけだった。握手もしない。笑顔もない。名前を交換しただけ。


「じゃあ、僕は行くね」


「行きなさいよ」


 荷物を抱え直して、路地を出た。


 走り始める。午後のダンジョンへ向かう道。いつもの道。


 走りながら、さっきの青い髪を思い出す。


 怒っていた。でも、怯えていなかった。三人に囲まれて、一歩も引かなかった。あの目は強い。


 前の人生では、ああいう目をした人は少なかった。会議室で「それはおかしいと思います」と言える人間は、あまりいなかった。みんな空気を読んで、黙って、流す。


 あの子は流さない。たぶん、そういう子だ。


 名前だけ知った。アウロラ。青い髪。小柄で、拳が強くて、礼を言わない。


 また会うかどうかは分からない。でも、なんとなく会いそうな気がした。


 この街はそんなに広くない。走り回っていれば、どこかでまた顔を合わせる。


 そう思いながら、僕は午後のダンジョンへ向かった。

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