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還らずの街のルート急便 ~過労死した元ゲーム開発者は「ミニマップ」と「煙魔法」で泥臭く成り上がる~  作者: わかば めぐる
第1章

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第17話 3Dマップ

 3層の地図が完成した。


 ミニマップの線が網目のように広がっている。主要な通路、分岐、行き止まり、広間、狭い抜け道。全部歩いた。全部覚えた。


 敵のパターンも頭に入っている。上位ラットが出やすい場所、二匹で待ち構えている角、三匹が固まっている広間。全部知っている。三匹同時でも、今は余裕がある。


 ステータスを開く。


 ルート

 シーフ Lv8


 上がった。夜勤を再開してから、じわじわと。3層の敵を倒し続けた結果が数字に出ている。


 でも、余裕があるということは、ここにいても成長が鈍るということだ。2層のときと同じ。慣れた場所では体が学ばない。


 今夜、4層に降りる。


 深夜0時。ダンジョンに入り、1層、2層を通過して3層に降りると、奥へ進む。いつもの道。ミニマップの線をたどるだけ。


 3層の最奥部。下へ続く階段。前に一度見つけて、そのまま引き返した場所だ。


 今は違う。


 階段を降りた。石段が暗い。3層の階段より長い。光石が少ない。


 最後の段を踏んで、4層に降り立つ。


 空気が少し重い。3層との差はわずかだ。劇的に変わったわけじゃない。でも暗さが一段深く、光石の間隔がさらに広がっていて、影が濃い。壁に黒い染みが目立つ。


 通路の幅が不規則だった。3層まではだいたい同じ幅が続いていたけど、4層は急に狭くなったり、唐突に広くなったりする。天井の高さも一定じゃない。


 ミニマップに白紙の地図。また一から。


 歩き出す。壁沿いに。慎重に。


 角の先にミニマップで赤い点が一つ映った。


 角を曲がると、上位ラットがいた。3層と同じ顔だ。一回り大きい体。赤い目。長い爪。


 踏み込んで右の短刀で首筋を裂いた。一撃で煙になる。


 3層と変わらない。反応速度も動き方も同じ。拍子抜けするくらいだ。


 先に進む。次の赤い点はバットだった。天井近くから急降下してくる。避けて着地を突く。これも3層と変わらない。


 さらに進むと、赤い点がまた一つ、すぐ先にもう一つ映った。


 この密度だ。


 3層では通路を歩いていても、敵に会わない時間がそこそこあった。4層は違う。歩けばすぐ赤い点が映る。遭遇頻度が明らかに高い。


 一匹ずつの強さは変わらない。でも、数が多い。休む暇が少ない。次から次へ来る。


 上位ラットを二匹処理して、バットを一匹仕留めて、また上位ラット。そしてスライムが一匹。スライムは3層にもたまにいた。動きが遅いから、短刀で核を突けば終わる。


 数が多い分、倒す数も増える。魔石が溜まる。ドロップ品も溜まる。魔法袋に次々放り込んでいく。


 効率がいい。3層より明らかに稼げる。


 しばらく回っていると、天井が高い広間に出た。


 4層には時々こういう場所がある。普通の通路は3層と同じくらいの天井だけど、広間だけ急に高くなる。暗くて天井が見えない。


 広間の手前にミニマップで赤い点が二つ映った。


 一つは近い。もう一つも近い。でも二つの点がほとんど重なっている。同じ場所にいるように見える。


 角を曲がった。


 地上にラットが一匹。見える。構える。


 その瞬間、頭上から甲高い鳴き声がした。


 反射的に横へ飛ぶ。黒い影が、さっきまでいた場所を突き抜ける。バットだ。天井に張りついていたらしい。


 ラットが正面から来た。左の短刀で受けながら、バットが再び上昇する。


 ラットを斬って煙にする。バットが旋回してまた急降下してきた。避けて、着地を突いて倒した。


 息が少し上がっている。


 倒せた。でも、天井のバットに気づくのが遅れた。ミニマップの赤い点は二つ映っていた。でも平面で見ると、二つの点が重なって一つに見えた。地上のラットと天井のバットの区別がつかなかった。


 3層では気にならなかった。バットが少なかったし、天井も低かった。ここは天井が高い。バットが上に張りつくと、平面マップでは地上の敵と重なる。


 立体で見られたら。


 ミニマップに意識を向ける。いつもは平面だ。上から見下ろした図。2層でも3層でもこれで十分だった。


 でも、これは神様のおまけだ。もしかしたら。


 意識の向け方を変えてみた。平面を見るのではなく、空間を見る。上から見るのではなく、中から見る。


 変わった。


 ミニマップが立体になった。


 通路の壁が線で浮かび上がる。床の位置。天井の高さ。広間の空間が、箱のように見える。そして——通路の先、天井近くに赤い点が一つ浮かんでいる。


 バットだ。天井に張りついている。地上にはいない。


「……見える」


 3Dマップ。立体表示。


 平面では分からなかった上下の情報が、全部見える。天井のバットと地上のラットが、はっきり区別できる。


 試しに周囲を見回す。通路の先にある赤い点が、床の高さにあるのか天井近くにあるのか、立体なら一目で分かる。


 小さな発見だ。でも、大きい。


 《空間把握》にまだ知らない使い方があった。平面しか見ていなかったのは、僕が平面しか見ようとしていなかったからだ。意識を変えれば、見え方も変わる。


 3Dマップのおかげで、4層はさらに楽になった。


 天井のバットが事前に分かる。地上の敵と区別できる。どこから何が来るか、立体で把握できる。


 数日通った。


 4層にはすぐ慣れた。敵が多いぶん忙しいけど、一匹ずつの対処は3層と同じだ。地形が不規則でも、ミニマップがあれば迷わない。3Dマップがあれば、不意打ちもない。


 4層も日常になり始めている。


 エリアナの店に魔石とドロップ品を持っていく頻度が上がった。


「4層に行き始めたのね」


「分かるんですか?」


「量が増えた。あと、バットの翼膜が混じってる」


 商人の目は怖い。


 少しずつ貯まっていく。50,000ロアへの道。まだ遠いけど、確実に近づいている。


 4層を回りながら、時々思うことがある。


 ミニマップの端、4層の奥に、まだ白い場所がある。下へ続く階段があるはずだ。その先の5層はボス階だ。


 5、15、25……末尾が5の層には小ボスがいる。それはギルドの掲示板にも書いてある常識だ。5層の小ボスを倒せば宝箱が出る。脱出魔法陣も起動する。


 ソロで倒せばボーナスがつく。通常より良いドロップ。魔法書が出る可能性もある。


 まだ先の話だ。4層にも完全には慣れていない。5層のボスがどんな敵かも分からない。


 でも、見えてきた。


 小屋に帰って、朝の訓練。


 寝台に座る。目を閉じる。背筋を伸ばす。手は膝の上。


 体の奥、胸の真ん中。意識を向ける。


 何も感じない。


 でも、今日は少しだけ思うことがある。


 4層で3Dマップを見つけた。《空間把握》にまだ知らない機能があった。平面しか見ていなかったのは、僕が平面しか見ようとしなかったからだ。


 自分の体にも、同じことが言えるんじゃないか。


 《魔力操作》。体の奥にある何か。「何もない」と思っているのは、僕が「何もない」としか見ていないからかもしれない。意識の向け方を変えれば、ミニマップが立体になったように、何かが見えるのかもしれない。まだ感じない。


 でも、あると信じている。


 ミニマップだって、立体に切り替わるなんて思っていなかった。意識を変えたら、見えた。


 体の奥も、同じかもしれない。

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