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原作開始前にフラグを全部折ったら、世界が平和になりました  作者: あめとおと


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第22話


夜明け前の空は、まだ淡い群青色だった。


王都が目覚めるには少し早い時間。


アルヴェイン公爵邸の庭園には、静かな朝露の気配が満ちていた。


リシェリアは一人、東屋の椅子に腰掛けていた。


眠れなかったわけではない。


ただ——今日という日を、静かな気持ちで迎えたかった。


入学式当日。


原作『聖光のレガリア』が始まる日。


本来ならば、ここから運命は決定されていた。


聖女が現れ、悪役令嬢が転落し、婚約は破棄される。


けれど。


「……全部、変わりましたわね」


小さく呟く。


半年間。


未来を知る者同士で話し合い、笑い、時に悩みながら、一つずつ選び直してきた。


足音が近づく。


規則正しく、迷いのない歩幅。


「ここにいたか」


振り返る前に分かった。


「おはようございます、アルヴィン様」


彼は軽く頷き、隣へ立つ。


朝の光が少しずつ差し込み、金の髪を淡く照らしていた。


「早いな」


「落ち着かなくて」


正直に答えると、アルヴィンはわずかに口元を緩めた。


「同じだ」


珍しい告白だった。


二人は並んで庭を眺める。


まだ誰もいない時間。


世界が、自分たちだけのもののように静かだった。


「覚えていますか」


リシェリアが口を開く。


「転生の話をした日」


「ああ」


即答だった。


「君が必死に説明していた」


「信じてもらえるか、不安でした」


「信じない理由がなかった」


当然のような声音。


その言葉に、胸が少し温かくなる。


「私はあの時、決めた」


アルヴィンが続ける。


「未来がどうであれ、君の味方でいると」


リシェリアは視線を上げた。


彼はまっすぐこちらを見ている。


逃げ場のないほど真剣な眼差し。


「……なぜですの?」


思わず聞いていた。


アルヴィンは少しだけ考えるように沈黙し、それから答える。


「君が未来を恐れていたからだ」


予想外の言葉だった。


「強く振る舞っていたが、あれは覚悟ではなく——孤独だった」


図星だった。


言葉を返せない。


「だから思った」


彼の声は静かだった。


「一人で戦わせてはいけないと」


朝日が差し込む。


庭園の影がゆっくりと消えていく。


リシェリアは小さく笑った。


「……今はもう、怖くありませんわ」


「理由は?」


問い返される。


少しだけ照れながら答える。


「隣にいてくださいますもの」


一瞬、アルヴィンが言葉を失った。


珍しく、完全に。


そして小さく息を吐く。


「それは——反則だな」


「なにがですの?」


「理性が働かなくなる」


さらりと言われ、頬が熱くなる。


沈黙。


だが気まずくはない。


彼がそっと手を差し出した。


「リシェリア」


名前を呼ばれる。


正式な呼び方ではなく、個人として。


「約束しよう」


その声音には、王族としてではない、ただ一人の青年の決意があった。


「どんな未来になっても、私は君を選ぶ」


心臓が大きく跳ねた。


「原作も、運命も、立場も関係ない」


手を取る。


温かい。


確かな現実。


「君は?」


問われる。


答えは決まっていた。


「私は」


迷いはない。


「未来を、あなたと選び続けます」


指が重なる。


それは契約ではなく、願い。


縛るためではなく、共に進むための約束。


遠くで鐘が鳴り始めた。


入学式を告げる朝の鐘。


原作が始まる時間。


けれど。


もうそれは、決められた物語ではない。


アルヴィンが微かに笑う。


「行こうか」


「ええ」


立ち上がる。


二人並んで歩き出す。


選び直した未来へ。


新しい物語の入口へ。





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