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原作開始前にフラグを全部折ったら、世界が平和になりました  作者: あめとおと


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第18話


午後の陽射しが、アルヴェイン公爵邸の温室をやわらかく照らしていた。


花の香りに満ちた空間で、リシェリアはティーカップを静かに置いた。


向かいにはフィアナ。


そして今日は珍しく、セレティアも同席している。


「……それで?」


セレティアが腕を組む。


「今日は“議題”があると聞いたのだけれど」


リシェリアは頷いた。


少しだけ、言葉を選ぶように間を置いてから口を開く。


「“悪役令嬢とは何か”について、整理しておきたくて」


フィアナが吹き出しかけた。


「急に哲学始まった」


「重要ですわ」


真顔だった。


セレティアは興味深そうに目を細める。


「理由を聞いても?」


「ええ」


リシェリアは指先でカップの縁をなぞった。


「原作では、私は悪役令嬢でした」


嫉妬し。


誤解し。


孤立し。


最後には断罪される存在。


「ですが今、その条件はすべて消えています」


フィアナが指を折る。


「聖女と親友」


「婚約者とは相思相愛」


「周囲とも良好」


「断罪ルート消滅済み」


数えてから、首を傾げた。


「……じゃあもう悪役令嬢じゃなくない?」


沈黙。


温室の外で小鳥が鳴いた。


リシェリアは小さく笑った。


「そこです」


セレティアが身を乗り出す。


「つまり?」


「役割とは、行動ではなく“物語上の位置”なのではないかと」


フィアナがぽかんとする。


「難しい」


「簡単に言えば」


リシェリアは続けた。


「誰かが主人公になるために、必要とされる対立役。それが悪役令嬢です」


セレティアが静かに頷く。


貴族社会を知る者の理解だった。


「なら今は?」


「対立構造そのものがありません」


だから。


悪役令嬢という概念も成立しない。


フィアナが腕を組む。


「じゃあさ」


少し考えてから言った。


「悪役令嬢って、“運命”じゃなくて“環境”だったってこと?」


リシェリアの目がわずかに開かれる。


「……ええ」


それは、核心だった。


誰かが悪になるのではない。


そうなる状況に置かれるだけ。


誤解。


孤立。


比較。


期待。


それらが積み重なった結果の役割。


セレティアがふっと笑った。


「なら簡単ね」


二人が視線を向ける。


「環境を変えれば、悪役令嬢は生まれない」


その言葉に、リシェリアはゆっくり息を吐いた。


まるで長く抱えていた答えに辿り着いたように。


「……ええ。その通りですわ」


フィアナがにこっと笑う。


「つまり今のリシェリアは?」


少し考えてから言った。


「元・悪役令嬢?」


「やめてください」


即答だった。


三人の笑い声が温室に広がる。


しばらくして、フィアナが真面目な顔になる。


「でもさ」


「はい?」


「もし原作の強制力がまた来たら?」


空気が少しだけ静まった。


リシェリアは迷わず答える。


「その時は」


窓の外を見る。


穏やかな庭園。


笑い声。


守りたい日常。


「また選び直します」


恐れはなかった。


未来は決まっているものではないと、もう知っているから。


その時、扉がノックされた。


「失礼いたします」


現れたのはセシルだった。


完璧な礼と穏やかな微笑み。


「殿下がお迎えに」


フィアナが小声で囁く。


「来たよ溺愛枠」


聞こえているはずなのに、セシルは表情を崩さない。


「本日も大変“仲睦まじい議論”だったようで」


「情報早すぎません?」


「職務ですので」


さらりと返される。


リシェリアは立ち上がった。


「では参りましょう」


温室を出る直前、彼女は振り返る。


花々の中。


笑い合った時間。


ここで一つ、確信した。


悪役令嬢とは。


与えられる役ではなく。


選び直せる未来の途中にある名前なのだと。


そして彼女は歩き出す。


もう、物語に従うためではなく。


自分で物語を選ぶために。





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