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ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制的に保護しました【連載版】  作者: 紅 与一


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第21話~夜~

「まずい……どうしよう……」


もうすぐ彼が帰ってくる。


『帰りはもっと過激なのを期待していてね』


今朝、彼を見送った時を思い出し、あの言葉を意識してしまって何をされるのかと動悸が激しくなる。


「あーもうっ!落ち着かない……」


リビングをウロウロし、時計を数秒置きに見てしまう。


――その時、エレベーターの方から音がした。


おそるおそる、ドアを開けて音がした方を見る――


エレベーターのドアがゆっくり開き、彼の姿が少し見えた。慌ててドアを閉めてそのまま寄りかかる。


(あーもう!顔合わせづらいよ……)


変な妄想をしてしまい、火照った顔を静めるように両手で顔を覆いながらその場に座り込む。


「アカリー?僕のアカリちゃん?でておいでー」


彼が何か言いながらこちらに近付いてくる……


見つかったら何をされるんだろう……!と思い、静かに立って隠れようとしたその時――


リビングの扉がそっと開いた。


「なんだ、いるじゃないか……なにをしていたんだい?」


「う……えーっと……」


扉の目の前で彼に見つかり目を逸らす。


彼は後ろ手にドアを閉めると、私の後ろの壁に手をつき、顔を近づける――


朱里(あかり)


「は、はい……なんでしょう!?」


吐息がかかりそうなほどの距離まで彼が近くなり、私の顔はどんどん熱くなり胸の動悸が激しくなる――


「今日はとても仕事を頑張ったんだ」


「はぁ……」


「ご褒美をもらっても、いいかな?」


瞬間、今朝の言葉を思い出して口が半開きになり彼から目を逸らす――


「あ、う……えーっと……」


曖昧な言葉を漏らした瞬間、彼にそっと顎を持ち上げられ視線を合わさせられる。


――背中は壁、左側には彼の腕、右側はドア。


(あ……だめ、逃げられない……)


そう思った瞬間、目をきゅっと瞑り、彼を受け入れた……


唇が触れ、彼は私の背中に手を回して、力強く抱きしめた。


その瞬間、彼の吐息が頬にかかる。


最初はそっと触れるだけだった唇が、少しずつ、確かめるように重なっていく。


息が触れる距離で、彼が小さく囁いた。


「あかり……」


名前を呼ばれた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。


次の瞬間、彼の腕に引き寄せられて、さっきより深く唇が重なった――


(息、苦しい……)


イヤ、じゃないけど……これ以上は怖くて、彼の胸をトントンと叩いた。


すぐに彼の唇が離れて、私の顔色を窺うように覗き込んだ。


「ごめん、我慢できなくて……イヤだった?」


「イヤ、じゃないけど……」


目を伏せて、少しだけ悩んだ。


けど、この気持ちは彼に伝えた方がいいと思って、口を開く。


「少し……嬉しかった、でも……」


「……怖くなっちゃって……」


なにが、とは言えなかった。


けど、彼は優しく笑って、私の頭を撫でてくれた。


「いいんだよ、僕はこうして君に触れられるだけで、幸せなんだから」


そう言われて、顔がぶわっと熱くなる。


「……もう!」


照れ隠しに早足でキッチンの方へ向かい、夕食のシチューを装い始める。


彼はくすっと笑って、上着を脱ぎながら自室の方へと向かって行った――




いつも通りのやり取りをして、私は自身の部屋へと向かいパジャマに着替え始める。


もともと私はパジャマなんて持っていなくて、いつもTシャツで寝ていたけど、引っ越した時に彼が用意していてくれた物だ。


薄いピンク色のゆったりとしたパジャマで、袖が手の甲まで隠れてしまうぐらい大きい。


ベッドを見つめて、眠気はあるのに、少しためらいながら潜り込む。


目を瞑ると、いろいろなことが頭の中に浮かんでは消えていく……


次第に、思い出したくない過去が頭の中に蘇りハッ!として起き上がる。


慌てて時計を見ると、ベッドに入ってから少し時間が経っていて、浅い眠りについていたみたいだった。


――心臓がバクバクして、とても痛い。


胸をぎゅっと掴んで痛みに耐えた後、眠気が覚めてしまったので仕方なく起き上がる。


ドアを開けると、廊下がしんと静まり返っていた。


まるでホラーゲームの中にいるような不気味さがあって、急に心細くなる。


外に出るのが怖くなり、自室に戻るが、先程の夢の記憶が頭に残っていてまだ眠れそうにない……


「どうしよう……」


記憶が戻ってから、悪夢を見ることがとても多くなった。


今までは記憶を封印していたおかげか、断片的に思い出すことはあっても全部を思い出すことはなかった。


以前は寝る時に不安にならなかったけど、最近は毎日のようにうなされる……


自室でウロウロしながら考え、ふと彼のことが思い浮かぶ。


(迷惑じゃないかな……)


そう思ったけど、『少しでも不安を感じたら、頼ってほしい』と彼に言われたことを思い出して、私はパジャマの袖をぎゅっと握る。


部屋の外が怖かったので、なにかお守りが欲しくなり、咄嗟に武器になりそうな枕を抱いて外に出た――


ガチャ、とドアを開けると、少しの音でも廊下に響き渡るぐらい静かな空間を移動する。


絨毯はふかふかなので足音はしないけど、それがかえって不気味だった。


彼の寝室の前にきてノックしようと思い、少しためらう。


(夜中に……迷惑かな……)


自分の枕を胸の前で抱えて、ここまで来てそんな考えが浮かんでしまい、ノックしようとした手をドアに当てたまま固まる。


(いや、とりあえず声をかけて反応が無かったら帰ろう……)


そう思って、遠慮がちにコン、コンと叩いた。


すると、部屋の中で動く気配を感じて私は少しドアから離れる。


ガチャ、とドアが開くと、私の姿を見て彼は一瞬、目を見開いて固まった。


「えっと……夜中にごめんね……」


彼が何も言わなかったので、とりあえず謝ってしまう。


すると彼は息を吹き返したかのようにハッとして、メガネをクイっと押して口を開いた。


「……あまりにかわいい生き物が目の前にいて、呼吸を忘れてしまったよ」


「どういうこと……?」


「迎えが来たのかと思った……」


「私は死神か?」


「どちらかというと、天使かな」


そんないつものやり取りをしたおかげか心が温かくなって、顔が自然と綻んで、枕をぎゅっと抱き締めた。


「ぐぅっ……尊いっ!……やはり迎えがきたのか……」


……彼はなぜか大ダメージを負い、胸を抑えながら膝から崩れ落ちた。


「もう……中、入ってもいい?」


彼は驚いた顔をしたけど、すぐに中に招いてくれた。


彼のベッドに腰掛けて、最近眠れないということ、悪夢を見るということを話し出した。


話を聞き終えた彼は、くすっと優しく笑って、頭を撫でてくれた。


「僕を頼ってくれてすごくうれしいよ」


私の手を優しく包みながら、嬉しそうに言った。


「せっかくなら、大きなベッドで一緒に寝るかい?」


そう言われて、ここに来た初日、ダブルベッドが置いてある共用の寝室があるのを思い出した。



――私は照れながらも頷いて、彼と一緒に新しい寝室へと向かった。


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