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ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制的に保護しました【連載版】  作者: 紅 与一


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第19話~今この時を~

すべて、思い出した。


私は、自分の心に向き合わず、逃げ出したんだ。


そのせいで、彼に迷惑をかけてしまった――




  卑怯者だ、都合のいいことしか、見ていなかったんだから。




――だれかの、こえが聞こえる。


私は、ゆっくりと目を開いた――




「アカリッ!?よかった……」


目を開けると、彼が私の手を握っていた。


そんな彼の目は、赤く腫れていた。


消毒液の匂いが鼻を刺す。


私は白い布団に包まれ、周囲を同じく白いカーテンで囲まれていた。



(また、病院……)



彼と視線を合わせ、口を開く。


「さとる、ごめんね」


私は、彼に謝る。


許してほしいわけじゃない、むしろ、責めてくれた方が楽だったかもしれない。


でもきっと、彼は許してくれる。


「いいんだ、僕がもっと気を付けていれば……」


「違うよ、さとる」


彼の言葉を遮って、首を横に振る。


「全部、思い出したんだ」


私は握られた手をそっと外した。


そして、首元に指を添える。


「あの日のことも……全部ね」


そう言うと、彼は察したのか目を見開いて驚いた。


「体調管理を誤って倒れたんじゃない、私は……自分で……」


彼はそっと、私の手を優しく包み込む。


「いいんだ、僕は、君が生きていてくれるだけでうれしい」


「よく……ないよ……」


涙が溢れる。袖で涙を拭い、彼と視線を合わせた。


「あなたに、迷惑ばかりかけて……自分が、許せない……」


「私にはもう、これぐらいしかあなたに返せるものがない……」


乱暴に自身のシャツの前を引っ張り、ボタンを全て外す。


彼は喜ばないだろう、でも、これぐらいしか返せるモノが思い付かなかった。


「なんでもする、あなたが喜びそうなことなら、すべて……」


はだけた患者用の衣服のまま、彼に抱きついた。


後の私が知ったら、この時の私を引っ叩くだろう。


こんなこと、喜ぶはずがない――そう言いながら。


でも、もう、私が彼にあげられるモノなんて何もないんだ。


なら、せめて……


彼はそっと私を引き離し、自身の上着を私にかけた。


「アカリ、言っただろ?」


「君が居てくれるだけで、僕はうれしい」


「何かをしようなんて、思わないでくれ」


私は顔をくしゃくしゃにして、泣いた。


「でも……!わたしはもう、むりだよ……」


「あなたの傍にいるのが、つらい……」


彼は泣いている私を優しく抱きしめてくれた。


「アカリ、僕はね、ずっと君が好きだった」


優しく、背中を擦りながら話し続ける彼。


「覚えてるかな、僕と君が一緒にやっているMMOで初めて出会った時」


「あの時、ギルドに入りはしたけど、メンバーの輪の中に馴染めない僕を誘って毎日ダンジョンに連れて行ってくれたのは君だった」


「最初は、いい人だな、ぐらいに思っていたけど、他のメンバーにも気を遣う君を見て少し興味が沸いたんだ、とても気が利く人だなって」


トン、トン、と優しくあやすように背中を叩いてくれる――


「今から、丁度3年ぐらい前の出来事だったかな」


「その頃、社運を賭けた大きなプロジェクトがあってね。仕事が忙しくてゲームにログインできない日々が続いた」


「ある時、ふと思い出して数カ月ぶりに入ってみたら、真っ先に君は声をかけてくれた」


『久しぶりだね、最近仕事が忙しいの?』


『体、大事にしてね』


『ここに来たら愚痴ぐらい聞いてあげるからさ、また来なよ』


「日々の仕事、そして社長としての重圧に押し潰されていた僕の心は、君の言葉にとても癒された」


彼はくすっと笑い、私の頭を撫でた。


「そこからだよ、ゲームの中に入る度に、君の姿を追い続けた」


「そして、君と初めてボイスチャットをしたあの日、僕は恋に落ちた」


彼は困ったように笑った。


そして、私の肩を掴んで視線を合わせる。


「先に助けられたのは、僕なんだ」


「だから、君が思い悩むことなんて何もない」


「君は誇っていい、君の優しさが僕という一人の男を救ったんだから」


そう言われ、私はまた涙が溢れだして、くしゃくしゃに泣きだした。


彼は優しく私を抱きしめてくれる。


「この先、何があっても僕は君の味方だよ」


「うん……」


「僕が先に惚れたんだから、君さえよければこの先もずっと一緒に居て欲しい」


「うん……」


「君が倒れたとしても、僕はいつも傍にいるから」


「……うん」


彼は、再度私の肩を掴んで視線を合わせた。


「君が記憶を取り戻したら、ずっと言おうと思ってたんだ」


すうっ、と彼は息を吸い、目を合わせたまま真剣な表情で口を開いた。




「僕と、付き合ってほしい」




言葉を聞いて、目を伏せる。


「わたしなんかで、いいの?」


「君がいいんだ」


「……僕が、きらいかい?」


首を横に振る。


「そんなこと……!」


彼は、優しく私の手を包み込んだ。


「なら、これからもよろしくね」


「……うん……」


嬉しさが胸いっぱいに広がって、私は涙が溢れ続けた。


そんな私を、彼は優しく抱きしめてくれる。


彼の胸を涙で濡らし続けて、そのまま彼の腕の中で眠った――




――この日を境に、私は彼に対して劣等感を抱くのを止めた。


――今、この時を生きることこそ、彼への償いなのかもしれない……


――そして、記憶を取り戻した私は新たな朝を迎える。


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