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ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制的に保護しました【連載版】  作者: 紅 与一


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第18話~過去~

――白で統一された無気質な部屋。


窓には鉄格子がはめられており、部屋の中にはベッド以外の物は何もない。


許可がなければ廊下に出ることもできない。


――これは、夢か……


私が初めて現実の彼と会った場所――


これは、その記憶――





――DAY2――



相変わらず、頭の中でガンガンと音楽が鳴り続け、全く眠れなかった。


外から日が差したので朝が来たんだと思い、仕方なく布団から顔を出す。


周囲を見渡しても、そこには何もない。


窓に嵌められた鉄格子を見ると「お前は病人なんだ」と告げられる。


首に触れると痛みは治まっていたが、腫れは残っているようで少し違和感を感じる。


視線を白い布団に落とす。


(どうして、私を助けたんだろう)


私物は全て没収されてしまい、会社は、仕事はどうなってしまうんだろうと思い、胸がぎゅっと締め付けられる。


「はぁ……はぁ……」


(いやだ……外に出たらまた怒られる……)


そう思うと息が出来なくなり、涙が滲んできた。


「う゛っ……ぐすっ……」


涙が一気に溢れだしたので、布団に顔を埋め声を押し殺した。


――その時、カチャッという鍵の開く音がして、ドアがすっと横に移動する。


「アカリっ!?」


彼――ゲームでの名前はスレイ――は私を見ると慌てて駆け寄り、背中を擦ってくれた。


「どうした?何かイヤなことがあったのかい?」


彼に優しくされると、さらに涙が溢れ続ける――


(こんな惨めな姿……人に見られたくなかった……)


私は、彼の顔を見て、口を開く。


「"なんで、――――?"」


そう言うと、彼は目を見開いて固まった。



――とても、ひどいことを言ってしまったと、その日の夜、布団の中でうずくまり泣きながら後悔した。



――DAY4――



――カチャッと音が鳴り、病室のドアが開く。


「アカリ、今日はいい天気だね」


彼は飽きもせず、毎日決まった時間に面会に来てくれる。


私は口を開く元気もなく、一瞬だけ彼を見て、すぐに窓の方へ視線を向ける。


「この部屋何もなかったから、今日は花を持ってきたんだよ、いい匂いがするだろう?」


彼は私に近寄り、落ち着く匂いのする花束を寄せた。


「花瓶とか用意しようと思ったんだけど、持ち込み禁止って言われたから置いていくことはできないんだけどね」


苦笑しながらそう言って、彼は私の近くに花束を置いた。


「ここは何もないからね、今度携帯ゲーム機でも持ってくるよ。」


「僕がいる間ならやっても大丈夫みたいだから、一緒にやろうね」


彼は優しい声で、話し続けてくれた。


私は、もう口を開く勇気もなかったのに――



――DAY6――



今日も彼は隣で話し続けてくれる。


最近出たゲームのこと。


彼と一緒にやっていたMMORPGの次のアップデートの内容。


近くに私が好きなスイーツのお店があるなんて話もしてくれた。


「今度一緒に行こうね、君はショートケーキが好きだって言ってただろ?そこのケーキはとても美味しいんだ」


私は返事をしないのに、彼は嬉しそうに話をしてくれる。


「……ねぇ」


私が口を開くと、彼はとても嬉しそうな顔をした。


「ん?なんだい?」


「どうして、そこまで私に優しくしてくれるの?」


「私なんか……」


放っておけばいいのに、と思い視線を落とす――


すると、彼は私の手を優しく包み込み視線を合わせた。


「僕たちは親友だろう?」


「友達の心配をしちゃいけないのかい?」


「……。」


彼の言葉が胸に染みて、涙が溢れてくる……


そんな私を、彼は何も言わずに優しく背中を擦ってくれた――



優しい彼を、これ以上心配させたくない……


そう思った私はその日の夜、心の中で暗示をかけた。


ピシッ、ピシッ、と心が何かで覆われる音がして、弱い自分を覆い隠した――



――DAY7――



カチャッと音が鳴り、いつもの時間通りにドアが開く。


「お、今日も決まった時間にきたね」


「……アカリ?」


私は彼を驚かそうと、今日はドアの前で待ち構えていた。


「スレイ……ってそういえば、お互い自己紹介してなかったよね」


「私は燈村 朱里、あなたは?」


「神原 聡だ……」


「アカリ、同じ名前だったんだね……いやそんなことより」


ガシッと彼は私の肩を掴む。


「ど、どうしたんだ?いったい、何があったんだい?」


「え?いや……何がって言われても……」


何かおかしいことしたかな、なんて思い、頬を掻きながら今までの事を思い出す。


「気付いたらこんなとこに居て……何となく記憶が曖昧なんだけど……」


「たしか、聡が助けてくれたんだよね?……ありがとね」


私がそう言うと、彼は目を見開きながら後退り、壁を背にずりずりと床に座り込んだ。


「えっと……大丈夫?」


驚いた顔をして固まってしまった彼に、手を差し伸べる。


「……あぁいや、すまない……先生を呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」


彼は足早に廊下を歩いて行った。


「うーん……何かまずいことしちゃったかな……」


(如何せんここ数日の記憶がないんだよなぁ……)


最後に残っている記憶は、おそらくここに来た初日に彼と顔を合わせた時で終わっている。


なんで病院に居るのかすらもわからない。


「まぁ……いっか」


深く考えても記憶がないのだからしょうがない。


そう思い、彼が来るまでベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせて待つことにした。


――その後、色々検査されたけど、みんな驚いた顔をしていた。


特に……聡はすごく悲しそうな顔をしていた――


なんでなんだろう……



――DAY13――



カチャっとドアが開く。


「毎日来なくてもいいのに……仕事は平気なの?」


「君の体の方が心配だからね」


「問題ないって言ってるのに……」


私がそう言うと彼は苦笑し


「それだけ君が重体だってことだよ、もっと自分の体を大切にしてね」


「えぇ……?」


怪訝な顔をして彼を見る。


(体も心も至って健康だと思うんだけどなぁ……)


まぁでも、体調管理を怠ってぶっ倒れたらしいから心配されるのも仕方ないか……


「あぁ、それと君の退院が決まったから」


「えっ!?本当!?」


「うん、おめでとう」


「やったー!ようやくこの退屈な場所から解放される!」


私は両手を上げてその場で飛び跳ねた。


「で、いつ出れるの?」


「明日だよ」


「明日ぁ!?」


「そう、明日」


彼はメガネの位置をクイっと直し


「昼前ぐらいに僕が迎えに来るから待っててね」


「うん、わかった……ごめんね、色々とやってもらっちゃって」


「かまわないさ、僕は君のためなら何でもできる」


ドヤ顔でそう言われたので少し引いた。


「はぁ……そうですか」


塩対応をしていると、彼は私をそっと抱き締め、耳元で囁いた。


「これからは、僕が君のことを守るよ」


そう、囁かれた瞬間に顔がぶわっと熱くなる。


「やっ!離してっ!」


恥ずかしくなり彼を突き放す――


「ははっ、ごめん、ついね」


「ついで済まされるかぁ!」


セクハラ案件ではないのか?これは……


まぁ、でも……少しだけ嬉しかった、気はする……




――そして、退院して、彼と一緒に住むことになった。


――私は、弱い自分に蓋をして、無理やり強くあろうとした人格を作り上げていた。


そうか……


私はあの時、もうすでに壊れていたんだ――


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