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古紙屋 帳記の正体

久々の更新です!

 全員が大満足でお土産と共に『家』へ戻る。

 見慣れない景色に視線をあちらこちらへやりながら、ふと疑問が浮かんだ。

 家の中や庭らしき所から見られている気がする。

「……なんか、見られてます、よね?」

「ああ、新しい住人が『どう』なのかはやはり人も妖も皆気になりますからね。良い人だと思えば、ある程度の距離を保って交流しようとするでしょう。まずはこの辺りの自治会長なんかが挨拶に来ると思いますよ。まぁ、暮らし始めて一週間後位を目途にといった所でしょう」

「自治会長ってことは、町内会みたいなものがあるんですね」

「ええ。人と妖が生活するうえでお互いが気持ちよく過ごせるよう、人間・あやかしとそれぞれ二人ずつ会長を置いているんですよ。ここの会長同志はとても仲がいいんです。人間、といっても元人間といった方がいいでしょうが、それでも彼女はとても頼りになります。何かあれば相談して下さいね。役場よりも相談しやすいでしょうから」

 確かにいちいち役場などに連絡するのは面倒だ。

 頷くと集住さんは嬉しそうに目じりを下げた。

「いやぁ、こよりさんが良い人で本当に有難いです。何せ、ご時世柄なのか若い方は『町内会やら自治会なんて面倒なものに加入したくない』っておっしゃる方が多くて」

 汗を拭いながら、ふぅふぅと息をする集住さんはどこからどう見ても人間にしか見えない。話す内容も人間っぽいし。

 そんなことを考えながら、自分の考えを口にする。

「確かに、ちょっと面倒だなって思う気持ちがないわけじゃないんですけど……長く暮らすなら、仲がいい方が良いかなって。変な人って意外と近くにいるってよく聞きますから。いち早く情報を伝えてくれたり、緊急時に手助けしてくれるのってご近所さんでしょう?」

 役所は時間外の仕事をしない。

 一人で暮らす以上、地域住人との軋轢は少ない方が間違いなく暮らしやすい。

「助け合い、というのは昔からあるようだな。交流があるならば村八分にもなりにくい」

「村八分って……随分古いなぁ。そんな大層なことじゃなくって、田舎出身だから抵抗がないだけだよ」

 そうなのか、と視線が集まったので頬をかきながら昔のことを思い出す。

 いい所に住んでいたと思う。子供だったから、大変だったり面倒な部分が見えていなかっただけかもしれないけれど。

「小さい頃、近所のおばあちゃんやおじいちゃん、婦人会のおばさま方に挨拶をするのは普通だったんだ。土日は会社に行ってる近所のおじさん達にも挨拶してたし、人見知りっていうのはあんまりないかも。田舎って独特のルールがあるけど、大体が理由あるものが多いしね」

 挨拶をして、誰なのか分かったら住民たちも安心だし親しみも持ってくれる。

 誰だって怖い思いも嫌な思いもしたくないだろう。

 最低限のルールなんかを教えてもらえるかどうかも、長く居心地よく暮らすには大事だと私は考えている。

「ルールってのは、安全を守る為にあることが多いしなぁ。わかるわかる。土地にも家にも歴史があるからな。ま、この辺は陽気で気のいい奴らが多い。陰気なのは、ここらにゃ少ないな──ヤバイ土地ってのも当然あるからその辺は後で教えてもらうといい」

 自治会は全て掌握している、といわれて頷く。

 ちなみにここら辺の町内会費は年間で一律五千円。

 高いということなかれ、ごみ処理代金やら街灯代金、特殊結界の費用にあてられ、余った分は年末に商品券として戻ってくるという。

「意外と安いですね……会費」

「この辺り一帯、割と人が多いので安いんですよ。ただ、子供会はなくなったようで……座敷わらし系の一族も昔に比べて減りましたからなぁ。古来種と呼ばれる今でも力が強いのは強いんですがあ、外国勢の対応に追われる毎日ですよ……この辺りにも居ますが比較的穏やかな方が多いので安心して下さい」

 外国勢とはいったい。

 外国人的なものだろうか、と脳内変換しつつ集住さんへ視線を向けていると気づいてくれたらしい。フォローするようにやや慌てて口を開いた。

「すいません、あっちの世界の方には『ドラキュラ』や『ゾンビ』といった方が良いでしょうか。あちらのサブカルチャーでは人気ですし」

「あ、なるほど。あっちの『妖』がこっちでは外国勢って呼ばれてるんですね」

 というか、こちらの世界にも別の国があることに驚いた。

 詳しく聞こうかとも思ったけれど、その内でいいかと頷いておく。

「こちらでは基本的に『日本語』をあるレベルまで離せるもの以外は永住もしくは半住できないことになっているので、気軽に話しかけて大丈夫ですよ。悪いもしくはグレーの行動をとったら永住権の剥奪もしくは等級降格処分になるので」

「……い、色々あるんですね」

「人間中心の社会よりも『存在』と『環境』が尊重されるんですよ。特に外国勢は個人主義が多く、成り立ちが異なります。近年の怪異は外国と同じような発生の仕方をすることも多いので、そちらへの取り締まりなんかも今後厳しくなるんじゃないでしょうか──お陰で、あちら側への影響も出て来ていますしね」

 そういって肩をすくめる集住さんの横でお土産を眺めていた遠野さんが「そーそー」と相槌を打った。

「こっち側の影響があっちに行くこともあれば、逆もアリ。ま、健全な生活ってのが一番いいわけよ。難しいってのは分かってるんだけどな」

「仕事はどうしても付きまといますしね。大人が窮屈になれば、子供も同じように」

「そーそ。ついでに妖も窮屈になるっつーこと。特に日本のあやかしは、人と生活してきたからな。人によって産まれたものも多いし」

 そうなのか、と頷いてチラリと帳記を見る。

 イマイチよくわからないこの男。種族を聞いた方が良いのだろうか……なんて考える。

「帳記って何の妖怪なの?」

「聞いてないの? だーめだよ、従業員にはある程度話しておかなくちゃ!」

「そうですね、今後なにか不都合が生じても困りますし早めに特性など話しておいた方が良いと思います。正し屋案件に多く関わる以上は」

 遠野さんに続き、集住さんにも言葉を向けられた帳記は息を吐く。

「中で話す。とりあえず……建物の確認が先だろ」

 それもそうか、とそのまま話が流れた。

 ただ、妙に気になるのは長期の雰囲気や態度だ。

 最初に会った時と随分違う気がする。

「人見知りするタイプ、とか?」

 よくわからないけど、と首を傾げつつ契約した建物へ無事辿り着いた。

 見た目は変わらない。

 でも、一歩足を踏み入れて明らかな違いがあった。

 いない間に人が入ったのかと思うくらいには。

「え、すごい。埃がなくなってる! コンクリートはむき出しだけど、これから色々運び入れるだろうし、ありがたいかも。壁もキレイになってるし、助かる。二階が居住スペースでしたよね?」

 ソワソワする私の横で遠野さんが口を開いた。

 視線は一番大きな柱で固定。

「──二階は掃除と証明関係は終了。水・電気の関係は後で業者を呼んで欲しい……あー、それと女の子は今日から住んで欲しい。だと」

「住人指定してきたか」

「今日からって……電気と水道仕えないと困るんですけど」

「日用品を買っている間に業者を呼べばいい。日用品の買い出しにも時間がかかるだろうし丁度いいんじゃねぇか?」

 確かに、と頷けば遠野さんが視線を柱へ。

 そして少し考えて私に柱を触るように伝えてきた。

「柱に触るって、手の平をくっつける感じですか?」

 このあたり、と指示された場所へ立ったものの、目の前にあるのは普通のコンクリートの柱だ。

 生きているとか、顔があるとかそういうのもない。

「触れる前に、家の守り神ってのはどんな姿をしてると思うんだ」

「守り神? ええと、ヤモリとか? あ、でも座敷童もそうですよね」

「……なるほど。んじゃ、そのままでいいか。両手を柱につけて額も触れさせてくれ。んで『今日から宜しく』って心の中で挨拶してくれりゃいい」

 よくわからないけれど、右手と左手をピタッと柱につけて、額をつける。

 ひんやりとした温度が伝わってきた。微かにコンクリート特有の無機質な匂いもする。

 変な質問だったなと思いつつ、挨拶をして一歩離れると遠野さんは酷く満足した顔で頷いていた。

「これで俺の仕事は終了。んじゃ、なんかあったら連絡してくれ……といっても、この家の守護契約は完了。大事にしてくれりゃ、守りは強くなる。人が増えても、あやかしが増えても大丈夫だ」

 曰く、迷い家物件は多くはないらしい。

 驚く私に遠野さんは困ったような笑顔を浮かべた。

「家を建てると必ず迷い家になるわけじゃないんだ。人間みたいに男女の迷い家が結婚してってパターンが一般的だな。人間みたいに赤ん坊が出てくるんじゃなくて、同サイズの珠が産まれる。それを両親が『ここ』と決めた土地に埋めてそこに建物が立つとそれが迷い家になる」

 人とは違うらしいことはわかった。

 なるほど、と頷いたのを見て彼は腕を組んで他にもいくつか種類があるという。

「次に、今みたいな守護契約をした場合だな。人間に大事に想われ続けると成長して、迷い家になることもある。後は、突然迷い家が産まれるパターンだな。体の一部に家紋が浮かべば『○○家系』みたいな感じでわかる。ただ、そういうのがないことも多い。そいつが子孫を作れば、祖になれるが……だいたいそこまで育たないんだよなぁ」

「育たないって、体が弱いとかですか?」

「いやぁ……住む人間の質に影響されるからね。うん。毎日綺麗にしろって訳じゃなくて、大事にして安らぐ場所として手をかけてくれりゃいいだけなんだけどさぁ──子々孫々、全員が家を大事にしてくれるってのは割と珍しくてね」

 建て替えやリフォームをしてもかまわない。ただ、そこに前の家の思い出と自分たちが受けついた土地であり家であるという意識さえあれば『迷い家』は生き続けるらしい。

「ま。コッチの話は善いとして、ちゃんと話しておけよ。入居者の重要度でいえば、断然こよりちゃんなんだから。家だって味方してるしな」

「……わかった」

 こくり、と帳記が頷いたのを確認し、遠野さんはひらひらと手を振って建物から出て行った。

 残ったのは私と帳記、そして集住さんだ。

 ふくふくとした指をパンパンと鳴らして、ついでにお腹もポンポンと叩いて、彼は口を開いた。

「本来なら私はいない方が良いと思うんですが、建物の状態が万全でなかったり、人間とあやかしでは『認識』や『前提』が違うこともありますから第三者として立ち会わせてもらいますね。いやぁ、今後何かあっても私が介入しやすくしておくっていう思惑もあるんで申し訳ないとはおもうんですが、我慢して頂けますか」

 汗を拭きながらこちらを窺う姿を見ると、彼のしている仕事がどれほど大変なのかが窺い知れるようだった。

 頷けば、うんうんと頷いて帳記へ視線を向ける。

「じゃあ、勿体ぶる必要もないことですし! パパッと話をして、さささっと業者を呼びましょう。いくつかあるので選んで頂きたく」

 座る場所がないので、とりあえず地面に腰を下ろすことに。

 ひんやりとしたコンクリートに心地よさを感じて、思わずそっと床を撫でた。

 一瞬、室内を照らす裸電球が一層明るくなったように感じたけれど、気のせいだったかもしれない。

「俺は付喪神の一種だ。付喪神については?」

「知ってるよ。昔アニメとかソシャゲで流行ったし。アレだよね、長く大事にされた物に魂が宿るとかなんとかっていう」

「その認識であっている。俺の元はコレだな」

 そういって帳記が取り出したのは古いノート達だった。

 元はよく見るタイプのノートばかりだ。小学生が使うもの、自由帳、包含ノート、紙を束ねただけのものもある。

 その表紙には『○○駅ノート』と様々な駅名が書かれていた。

 落書きがあったり、日付だけのシンプルなものがあったりと本当に多種多様な古いノートばかりだ。

「これって、なに?」

 私の疑問に答えてくれたのは集住さんだった。

 その顔に浮かぶのは苦笑。

「最近は地方にあるかどうかっていう所だろうね。今はあまり見かけないし、知らないのも無理はないよ。これは駅やなんかに置いてあるノートだ。まぁ、旅行の記念に書いていく人が多かったかな」

 見てもいいか、と帳記に確認すると一冊のノートを差し出された。

 受け取って開いてみると確かにいろんな人の文字がまるで寄せ書きのように書いてあって意外と面白い。

 子供のような字、子供の描いた落書き、大人の綺麗な文字で誰と旅行に行くのか等がかいてある。

「へぇ、これが帳記の?」

「俺は概念、みたいなものだな。一冊ごとにあるわけじゃなく『駅ノート』というものの存在が形になった付喪神だ。特製は『ノート』だな。つまり、紙だ」

 ここで瞬間的に書類の内容を覚えていた姿を思い出した。

「ってことは、書類を一瞬で覚えていたり、紙屋ってよばれていたのも?」

「そうだ。俺は紙の記憶を読めて、辿れる。付喪神とは言ったが、俺の場合は少し怪異も混じっているんだ──オレが産まれたきっかけは、駅ノートに血液と肉片がついたから。決定打は駅ノートの上で首を刺して死んだ」

 懐かしいものをもいだす様に目を細めた帳記の口元には笑み。

 うすら寒くなるほどの、冷えた空気を感じて眉を寄せる。

「俺の口調が安定しないのは『駅ノート』の特性だ。寄せ書きのように色々な人間がかいていて、様々な感情が文字として残された。口調やなんかは、日によって変わるな。なにせ、古いものから新しいものまで様々だ」

 歴史も古く、物によっては和紙でつくられたものも存在し、黒板式の者もあるのだとか。ホワイトボードのような物も『駅ノート』として認識されるらしく、その辺りの詳しいことはよくわからないと言っていた。

「なんか、何でもありなんだね」

「基本的に『駅』にある『想いを書きのこすもの』が、俺の一部として認識されるようだな。陶器やなんかは壊れたら終わりだが『駅ノート』は様々な場所に存在している。長く親しまれていたり込められた感情が多く濃いから付喪神になったんだろう」

「へー。ってことは、その日によって微妙に反応が違ったりするってことね。お客さんの評判に響きそ……接客マニュアル作っておいた方がいいんじゃない?」

「まにゅある……手引書のことか? まぁ、そうだな。考えておくか」

 ふむ、と納得した所で集住さんのスマホが鳴った。

 断りをいれて、対応を始めた彼の表情がパッと明るくなる。

 一度電話を切った後、懐から業者名が書かれたリストをこちらに掲示した。

「今回、急きょ工事を頼めないか連絡したのですが、この業者が近くにいるから十分以内に来られるとのことです。どうします? 私としては水回り・電気系統がこの業者だけで済むのでお勧めですよ」

「ふむ。それなら頼もう。役所的にも都合がいいみたいだしな」

「お。わかりますか。昔から世話になっているんですが、最近統合しましてね。水回りと電気系統、ガスに関することも受けてくれるので助かっているんですよ。妖と人が協力している優良業者です」

 早速お願いしますね、といそいそと電話をする集住さんから外出してもいいと言われたので有難く外出することにした。


 なにせ、やらなくてはいけないことが盛りだくさんなので。


割とスピーディーなようで、そうでもない

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