魔女クエスト(7)戦争で人は何を得るのカナ?
私は、何故このような席に居るのでしょうか?
野心を抱いてカワサキに留学したものの、入学するはずだった学園はテロで消滅。戻るに戻れずにいた所に、お供を連れてヨコヤマに行くという幼女が現れて。
ただ、ほんのちょっとだけ地元に帰れれば、それで良かったのに。私は、それだけで良かったのよ?
「えー、では手打ちの儀式を始めますよー」
中華街の中でもトップクラスの料理店。王女の私だって、このお店には滅多に来れないのに。そこの個室で、今から手打ちの儀式というものが始まります。円卓を囲んでいるのは、ヨコヤマ帝国と周辺3国のトップ4人。トップが対等に会談をしようと言うのだから、円卓は都合が良いでしょうね。この店を選んだのも納得だわ。
でも、なんで私がヨコヤマ帝国のトップとして参加しているのよ!?
いっそ殺してーってやつよ。これは。
「じゃあ、まずは皆さんのご紹介からですねー。まあ、ご存知かとは思いますけどねー」
こんな緊迫した場で、進行を務めている巫女の能天気さはどういうことなのよ?成人したばかりの年齢に見えるのだけど、どんな修羅場をこれまで潜って来たというのかしら。こんなのヨコヤマ帝国の貴族には居ないわよ。
「まずはー、この世界のトップ。トップ・オブ・ザ・ワールド。リーザ帝国の皇帝陛下、リーザ様ですー。この世の人類を創造なされた女神リーザ様の二代目ですからねー。この方より上は居ません」
「シウマイうまいのじゃー」
いきなりの超大物。っていうか女神じゃないのよ!?私と同じ6歳児くらいなんだけど。一国の主というだけでも、ぶっ飛びなのに、女神ってどういうことなのよ?
「では次ー。陛下の右隣に居られるのがー、神聖ダモン王国のコルサ王女殿下ですー。ここだけの話、大天使様ですよー。今回の戦争には横入りした感じですけどー?見事、ヨコヤマ帝国の王家を殲滅しちゃいましたー」
「なのよ」
大天使コルサ!?え?魔法少女メルリちゃんの敵幹部って実在したのよ!?アレは絵本の中だけのお話じゃないのよ!?というかお父様もお母様もお兄様もお姉様も叔父様も叔母様も殺されてしまったのよ!?だから、王位継承権最下位だったはずの私が、ヨコヤマのトップなのよ!?
ああ、もうヤケなのです、私もシウマイを食べます。シウマイうまいーなのよ。
「次は、クソ雑魚です。カワサキ連邦の王です。はいはい。ワロスー」
私は、そのクソ雑魚に会う事すら出来なかったのに。クソ雑魚に取り入る任務でカワサキに留学したというのに。このおっさん、このメンツの中で唯一の大人なのに、確かにしょぼいわ。無精髭に上下スウェットでサンダル履き。ある意味大物なのでは?私、こいつの娘と結婚するのよね?その娘も魔女だそうだから、早く結託して、このダメおやじを粛清してやらないと。
「最後は、これまた超大物ですよー!なんと魔女でーす!」
え?私の肩書ってヨコヤマ帝国のトップである事よりも魔女が先に来るの?
「つえー魔女かと思ったら雑魚じゃったのじゃ」
「いやいや、こいつの従者には戦場で巫女が2人殺されてますから。あれよりは強いんじゃないですか?」
「ほうかのー?カワサキの王女とどっちが強いかのー?」
「それは後で戦わせてみましょうね、おやびん」
「楽しみなのじゃー」
「えー、ちょっと話がソレましたがー。シケたおっさんが一匹混ざってる以外は、全員6歳の幼女なのでーす!前代未聞の巨頭会談ですよー!ラジオの前のみなさーん」
え?なんかものものしい機械が沢山あると思ったら、これラジオで中継しているのよ!?さっきここだけの話って言ってなかった?あちこちで聞かれちゃっているのよ!?
「んー、そのおっさん邪魔じゃなー?そこのカワサキ王女と交代せん?」
「え?あ、はい。喜んで代わりますよ」
「あー、騎士のみなさーん。手違いで庶民のおっさんが混ざってました。手厚く退場願って下さい」
「さあ、どうぞこちらへ。あなたはもう庶民なので自由ですよ」
「うぅ、やっと地獄から解放される…」
おっさんが喜びの涙に打ち震えながら、騎士に連れられて出て行ったわよ?カワサキの王様って恵まれた立場じゃないのよ!?なんで、更迭されて歓喜の極みなのよ!?
「はい、じゃあ正式なカワサキのトップを紹介しますねー。カワサキの魔女でーす。こいつも6歳の幼女ですよ」
6歳の幼女が4人集まって何をするというのよ?
「なんと彼女はですねー。カワサキを脱走していたのですがー。昨日、偶然にもこのお店でアルバイトをしている処を、魔女探しをしていたうちの陛下に捕まってしまいました!」
ほんとどういう偶然なのよ!?語尾のアルアルが不自然だから捕まえるのじゃー、って捕まえたらカワサキの王女様だったのよ!?
「え?ちょっと私、カワサキの女王になんかなりたくないアル。こんなのないアル!」
「ははっ。あるのかないのかどっちなのじゃー」
私、この子と結婚するのよね?あ、その前に戦わされるんだっけ?カブトムシみたいに。
「それでー、手打ちはどうしますか?陛下ー」
「うーん。カワサキの魔女とヨコヤマの魔女を戦わせて、負けた方の国を取り潰すのじゃ」
「くくっ、無茶をするね…。だが、それがいい」
うっかりアハトさんは、この集団の中では良心だと思っていたのに、もう救いがないわ。
「魔女同士の勝負とは、どのように行うのですか?戦場の魔女は、腹に爆弾を巻き付けて投石機で飛んで来ただけでしたが?絵本や紙芝居みたいに、魔法が使えるのですか?」
「ほいじゃあ、爆弾を括り付けて投石機で投げるかの?どっちが遠くまで飛ぶのじゃ?」
ひ!?キナコとかいう近衛騎士隊長が余計な事を言うから、皇帝陛下の女神がとんでもないことを言い出したのよ!?
「いやいやマスター、魔女は死んだらそれまでらしいですよ?」
「あれ?そうなん?死んだらそれっきりとは珍しい生き物じゃな?」
この人達の常識は一体どうなっているのよ!?
「カワサキはリーザ帝国にあげるアル!私も庶民にして欲しいアルよ!」
「あっ、あっ、わ、わたくしも!ヨコヤマは無条件降伏なので!ダモン共和国に差し上げます!」
「え?要らないですけど?じゃんじゃんうるさい連中なんか」
な、なんなんですか!?このキナコとかいう近衛騎士隊長は!?だったら何で参戦したんですかね!?
「ほいじゃあ、ヨコヤマ帝国は解体してー、ダモンの民主化研究会の実験場にでもするかの?」
「ヨコヤマはそれでいいんじゃないカナ?カワサキ連邦はどうするの?陛下」
「うーん。巫女共で治めてみる?再建した学園でエリートを育てて任せればいいじゃろ?」
「ヨコヤマの魔女は、学園に通うんですよねー?」
「え?あ、はい」
もう逃げられないみたい。覚悟を決めたわ。
「カワサキの魔女も夫婦なんだから、一緒に通うんですよねー?」
「え?あ、はい、分かったアル、いえ分かりました」
私はカワサキの魔女と見つめ合うと深く頷き合いました。今、確かに心が通じたわよ。いつか、夫婦でこいつらを見返してやるわ。カワサキの学園でどんな試練にでも耐えてやるのだわ。




