第21話 逃走
「トワイラル軍曹! ご無事ですか!?」
数人の兵士達がトワイラルに近づいてくる。すでに政府の援軍も到着し、後方に着陸した軍艦を制圧していた。余力の出来た政府軍は兵の一部をトワイラルの方に回したのだ。
「クッ、政府の……クソ共かっ!」
クラスタは左腕を押さえながら、立ち上がる。その腕からはおびただしい量の血が流れ出ていた。トワイラルは左腕ごとコンピューターを撃ったのだ。
トワイラルはクラスタが左腕につけているコンピューターでピューリタンを操っている事を最初から見抜いていたのだ。ミュートは分からなかったが。
左腕を撃ち抜かれ、重傷を負ったクラスタはトワイラルに背を向け、本部要塞の方に向かって走り出す。
だが、その行く手をミュートが塞ぐ。彼女はピューリタンに斬られたが、物理シールドを張っていたおかげで重傷には至らずに済んだのだ。
「逃がさないよ、クラスタ」
「ミュート……! …………!」
クラスタは不気味な笑みを浮かべる。ミュートのすぐ後ろに、アサルトソードを握ったピューリタンがいた。その右脚からは血が出ていた。トワイラルに撃ち抜かれたものだ。
「ピューリタン! その女を人質に取れ!!」
クラスタはミュートを指差しながら、叫ぶように言う。彼女はミュートを人質にファンタジアシティから脱出する策を思いついたのだ。
だが、命令をされたピューリタンは動かない。アサルトソードを握ったまま、顔を上げ、クラスタの方を向くと冷たく言った。
「却下」
「……は?」
唖然とするクラスタ。そんな彼女ははっと思い出したように左腕のコンピューターを見る。血の付いたコンピューターには穴が開けられていた。さっき、トワイラルに撃ち抜かれたものだ。
クラスタはこのコンピューターでピューリタンを操っていた。このコンピューターに打ち込まれた命令はピューリタンの脳内に埋め込まれたコントロールチップに送信され、命令を遂行するようにコントロールチップが脳に命令を下す。
「し、しまった……!」
真っ黒になった画面はもう何も表示しない。コンピューターが壊れれば、脳内のコントロールチップも自動的にストップするようになっていた。つまり、もう、クラスタはピューリタンを意のままに動く“奴隷人形”として扱う事は出来ない。
「クラスタ、今まで私の世話、ありがとう。今度は私が世話してやるよ」
そう冷たく言うとピューリタンはアサルトソードを強く握り締めると、走り出そうとした。その瞳には深い恨みがこもっていた。
だが、走り出そうとした瞬間、脚に鋭い痛みが走り、その場に膝を着く。トワイラルに撃ち抜かれたところだ。
「…………ッ」
「あ、ごめん、ピューリタン」
トワイラルはピューリタンの手を取り立たせると、彼女を守るかのように彼女の斜め前に出る。大切な仲間。もう、これ以上傷付けない。もう、“使わせない”。
彼は手にアサルトソードを強く握り締めると、クラスタの元に向かって走り出す。連合軍将軍クラスタ。かつて負けた将軍。だが、今度は……
「ク、クッ……」
クラスタはトワイラルに背を向けると、全力で走り出す。向かう先はファンタジア防衛師団の本部要塞。逃げ出した事は明らかだった。
そんな彼女を行く手を阻むように政府軍の兵士が現れる。特殊軍強襲部隊の兵士たちだった。その数は3人。彼らの手にはアサルトソードが握られていた。
「敵将クラスタ、降伏しろ!」
「とっ捕まえろ!」
兵士たちはクラスタ飛びかかる。武器を持たない彼女は素手で戦う事になる。1人の兵士を殴り倒す。だが、それまでだった。
クラスタの体は雨に濡れるアスファルトに押し倒され、無理やり腕を後ろで組まされる。撃ち抜かれた左腕を乱暴に扱われ、苦痛の声を上げる。
「ぐッ、離せぇっ!」
クラスタは必死で暴れるが、3人の兵士に彼女はあまりに無力だった。もはや彼女の運命は定められたも同然だった。その手に手枷がハメられようとする。だが、彼女にはまだ味方がいた。
突然、別の場所から銃弾が飛んでくる。その銃弾は兵士らを次々と撃ち抜く。トワイラルは驚き、銃弾の飛んできた方向を見る。
「誰だ!」
そこにいたのは蒼い服に黒いブーツを履いた少年や少女だった。彼らの手には銃口から煙を上げるアサルトライフルが握られていた。
彼らは射撃を繰り返しながらクラスタに近寄ると、1人の少年が彼女を背負い、元来た道を引き返す。他の少年らも同じように威嚇射撃を繰り返しながら引き返す。
「トワイラル軍曹! 逃げられます!」
「追え! クラスタを逃がせば新手の軍を率いてくる! また戦いになる! 戦いになれば――」
クラスタを捕えれば連合軍は大きな損失となり、弱体化につながるだろう。連合軍が弱体化すればそれだけ早く戦争を終わらせれる。
だが、彼女を逃がせば復讐とばかりにまた攻めてくるだろう。そうなればまた戦いが起こる。戦えばまた誰かが死ぬ。もしかしたら次はピューリタンやミュートかも知れない。
トワイラルはそれを恐れていた。もう、仲間を失いたくない。もう、こんな事はごめんだった。やっと再会したのにまた離れ離れにはなりたくなかった。
「逃げられます!」
「クソッ……!」
本部要塞の陰から小型の飛空艇が現れ、着陸すると彼らはその中に姿を消していく。全員が乗り込むと、小型飛空艇は再び浮かび上がり、暗い夜空へと一気に消えていった。
「逃げられたか……」
「…………」
「…………? ピューリタン、どうした?」
クラスタの去った夜空を見つめるピューリタン。その瞳はどこか遠くを見ている感じだった。
「…………。いや、なんでもない。助けてくれてありがとう」
そう言うと、ピューリタンは少しだけ微笑んだ。




