第19話 ファンタジアシティの戦い
所詮、道具でしかない。
道具は用がなくなれば捨てられる。
ピューリタンがそうだった。
彼女は捨てられた。
使い物にならない道具として、政府に彼女は捨てられた。
そして、もう1人捨てられる人がいた――
【ファンタジアシティ】
夜のファンタジアシティ。魔法クリスタル運搬隊は出発し、数日前の静けさとは打って変わって街は静まり返っていた。
部隊を送り出し、軍艦7隻をファンタジアシティ外延部に配置したクラスタは本部要塞の個室で静かに寝ていた。その寝顔は安らかなものだった。
彼女は気が付いていない。情報はすでに政府軍にバレ、4人の将軍率いる大軍がファンタジアシティを目指して進軍していることを……
*
「異常なし!」
2人の少年と3人の少女がマグナムと呼ばれる強力なハンドガンを手に廊下を歩く。5人とも青い服と同色のズボンに身をまとい、黒のブーツを履いていた。クラスタ親衛隊。優秀な少年少女で構成された親衛隊だった。
元々、クラスタが戦争で家族と家を失った子供を保護したのが始まりだった。救ってくれた彼女を慕う子たちの一部が自主的に立ち上がり、彼女を守る親衛隊を構成した。それがクラスタ親衛隊だった。
「クラスタ将軍、大丈夫かな……?」
1人の少女が不安そうな表情で呟く。
「ん? どうした?」
「もし、政府軍が攻めてきたら防げないよ……」
「……確かにな」
少年は右腕につけた無線機で外延部に配置した軍艦と連絡を取る。すぐにバトル=コマンダーの立体映像が表示される。
[こちら、N5553BH。なんでしょう?]
「異常はないか?」
[はい。全く……]
そのバトル=コマンダーがそこまで言った時だった。突然、映像のバトル=コマンダーが揺れ、映像に乱れが走る。何かが起きたのは一目瞭然。いや、その何かは言われなくても分かる。政府軍の攻撃が始まったのだ。クラスタが最も恐れていた事が現実になりつつあった……
[た、大変です! 政府軍の艦隊が現れ……!]
バトル=コマンダーの姿が消える。そして、激しい砲撃戦。何度も映像が乱れる。煙と炎が映り、遂にはその映像は途絶えてしまった。
それとほぼ同時にクラスタ親衛隊の耳にも遠くから爆音が聞こえてきた。窓から外を見れば、遥か遠くで炎が上がっていた。そして、市内に数機の政府軍のガンシップが飛んできていた。
「ヤバいぞ! 政府軍だ!」
「私、クラスタ将軍に知らせて来る!」
1人の少女が走り出す。だが、その瞬間、建物が爆撃を受ける。その爆撃は少女をも巻き込んだ。彼女の体はバラバラに散り、辺りに血と肉片と瓦礫が飛散する。
「クッ……!」
「お、俺が知らせて、来る……」
1人の少年もまた走り出す。
この時、連合軍の軍艦1隻分にも匹敵する政府の大型飛空艇プローフィビは次々とファンタジアシティへと侵入してきていた。市内では市民の暴動を抑える為に配備されていた軍用兵器との戦闘が始まっていた。
ファンタジアシティ。幻想の街。クラスタの確実な作戦は今、崩壊を迎え始めていた――……
*
「……そうか」
クラスタ親衛隊の少年からの知らせに、クラスタは椅子に座り込み、目をつむりながら呟くように答える。彼女の後ろに位置する窓からは両軍の飛空艇が何隻も飛んでいた。
「お前たちは好きにしろ」
「……えっ?」
クラスタはコンピューターを素早く操作すると、左腕に小さなノートパソコンを装備する。それを操りながら立ち上る。
親衛隊の少年はクラスタの言葉に呆然としてしまう。好きにしろの言葉の意味が分からないでもない。でも、彼らはクラスタを慕って親衛隊を結成した。彼女を守る為に。今がその時ではないのだろうか……?
*
【政府艦隊旗艦 最高司令室】
一方、政府軍は優勢に戦いを進めていた。元々、数が多いから連合軍は優勢に戦争を進めれていたのである。それが同兵力では勝ち目などない。連合軍は次々と撃ち破られていた。
「第1から第8連隊、侵攻完了!」
コンピューターを操作する将官の報告を聞いたディンター将軍は満足そうに頷くと、無線機でトワイラルと通信を取る。彼はすでに第1大隊を率いてファンタジアシティに乗り込んでいた。
[はい、こちらトワイラル。何でしょう?]
「ディンター将軍だ。お前たちはこれからファンタジアシティの中央、ファンタジア防衛師団本部へ乗り込み、敵将クラスタを捕えよ」
[はい、将軍]
ディンター将軍は通信を切ると、再び最高司令室からファンタジアシティを見下ろす。無数のガンシップが飛びあい、撃ち合いを続ける。市内ではバトル=アルファと政府軍兵士・政府軍用兵器が激しい戦いを繰り広げていた。
*
【ファンタジアシティ 中央市内】
バトル=ベータが倒れ込み、トワイラルは魔法発生装置をしまう。彼の部下である特殊軍強襲部隊の兵士たちもアサルトライフルの銃口を下ろす。
ファンタジアシティのメインストリート。広いアスファルトの道路だった。そこには無数の破壊されたバトル=アルファやバトル=ベータが転がっていた。そして、道路の先にはファンタジア防衛師団の本部要塞。
「あと少しだな」
「うん、あそこにクラスタ将軍がいるんだよね」
「アイツを捕まえれば連合軍は有能な人材を失う事になる。それに……」
トワイラルは少し下を俯むくも、再び顔を上げて言う。
「ピューリタンのその後も聞けるハズだ。だから、絶対にクラスタを……!」
「うん、頑張ろう!」
トワイラルとミュートはお互いの顔を見て頷き合と、走り出す。この広い道路の先にある本部要塞。あと少しだった。
だが、突然、建物の背後から軍艦が現れる。連合軍の軍艦だ!
「軍艦……!」
連合軍の軍艦はトワイラル率いる部隊の真後ろに着陸すると、ハッチが開き、中から大勢のバトル=アルファが出てくる。
政府軍の兵士たちとバトル=アルファたちはお互いアサルトライフルの銃口を向け、撃ち合いを始める。
「ここは我々に任せてトワイラル軍曹はお先に!」
「……分かった! すぐにクラスタを引きずって来てやるよ!」
そう元気よく言うとトワイラルは走り出す。だが、本部要塞の前まで来たとき、トワイラルとミュートの前に2人の人間が飛び降り、立ちはだかる。
「お、お前は、クラスタ……!」
「……久しぶりだな、トワイラル」
黄色の髪の毛をした女性。間違いなく連合軍将軍のクラスタだった。そして、その横にいる灰色のフードを被った女性はプレリアシティでトワイラルと戦った女性だった。
「よくここまで来た。まさか、またお前と会う事になるとはな」
「お前には聞きたい事があるかならな」
それは消えた仲間。大切な、大切なトワイラルとミュートの仲間、ピューリタンの事だった。彼はそれを知る為に参戦したようなものだった。
「……お前の聞きたいことくらい分かるぞ。仲間のピューリタンの事だろう?」
「…………」
クラスタは側にいる灰色のフードを被った女性に近づくと、半ば強引にそのフードを取り、投げ捨てる。
「……えっ……?」
雨が降り始める。それは冷たい雨だった。
「な、なんで……?」
「…………」
フードの下に隠れていたのは短いキレイな蒼色をした髪の毛。ピンク色の瞳。美しい顔立ち。トワイラルの知る“あの人”と何ら変わりはなかった。
「お前の仲間ならしっかりとここにいるぞ、トワイラル」
「ど、どういう事だ、“ピューリタン”……」
そこにいたのはかつての仲間、ピューリタンだった。
冷たい風雨は次第に強くなっていく。絆もまた幻想でしかなかったのだろうか――……?




