第18話 魔法クリスタル
【ファンタジア防衛師団本部 最高司令室】
暗い最高司令室。不気味な薄い青色をした立体映像に映るのはバトル=オーディン。彼の話を聞くのはクラスタだけだった。
[もし俺の援軍が欲しければ直ちにファンタジアシティにて保管されている大量の魔法クリスタルを全て運搬しろ!]
「バカな、膨大な数だぞ…… それに全魔法クリスタルを運搬しようとすれば間違いなく政府はそれを狙って大軍を送り込んでくる」
ファンタジアシティにはこれまで長い時間をかけて採掘したおびただしい数の魔法クリスタルが保管されていた。それら全てを運搬するなら連合軍の軍艦10隻は必要だった。
それにそれだけのクリスタルを運搬するとなれば政府は絶対に阻止するだろう。大軍を送り込んで軍艦を撃ち落す。幸いクリスタルは炎で燃える事はない。
運搬する軍艦はクリスタルで埋め尽くされる故、ほとんどの戦力を乗船させる事が出来ない。だから、護衛の為の軍艦も必要となる。無論、出来るだけ多くの軍用兵器を詰め込んで……
[俺の兵力は知っているだろう? デスピア軍と俺の軍。合計して軍艦100隻。兵力は500万以上。軍用物資も豊富にある]
「クッ……」
[もしお前が全ての魔法クリスタルを我が軍の下に運び込んだら、全軍でお前を支援しようではないか、クラスタ将軍よ]
もし、バトル=オーディンの軍勢がクラスタ軍に加わればコスーム大陸南東部は完全に両将軍によって支配される。政府特殊軍の4将軍も、トワイラルとミュートも確実に敗走し、殺されるだろう。
政府軍を恨み抜くクラスタにとっては何としてでもこの戦い、バトル=オーディンに協力して欲しかった。バトル=オーディンが加わればもはや勝ったも同然であった。
「……分かった。ファンタジアに集結させた軍を使ってお前の下に届けよう」
[さすがだな、クラスタ将軍よ! ハッハッハッ!]
そう笑い声を上げながらバトル=オーディンの姿は消える。クラスタは通信機を使い、自身の部下達に連絡を入れる。
「全将校に命令を下す。これより全ての魔法クリスタルを軍艦に積み込め。運搬用に軍艦を10隻。その運搬する軍艦の護衛に30隻の軍艦を使え。ガンシップも最低限の数だけ残し、全機を護衛に回せ」
運搬に10隻。護衛に30隻。これでクラスタの元に残る軍艦は僅か7隻。それに護衛の軍艦には戦闘を想定してなるべく多くの兵力、武器弾薬を乗せるつもりだった。これではファンタジアシティの防衛さえ危うくなる。
[将軍、全将校と連合兵を軍艦に乗せる気ですか?]
「そうだ。この街の防衛は私と“スレイヴ・ドール”と“クラスタ親衛隊”だけで行う。私たち以外は皆、バトル=アルファとバトル=コマンダーだけだ」
[将軍、危険ですぞ。ここが手薄と知ればプレリアシティの大軍が一気に押し寄せてきますぞ]
「大丈夫だ。私が全力で防ぐ。お前たちはその間にオーディン将軍にクリスタルを届けよ。そして、オーディン軍と共に、連中を殲滅し、プレリアシティをも陥落させろ。将軍4名は即殺害せよ」
[わ、分かりました]
そう言うと、その将校は通信を切る。クラスタは少しだけ不安そうな表情を浮かべるが、すぐにいつも通りの表情に戻り、最高司令室を後にする。
廊下に出ると、1人の少年が近寄ってくる。蒼い服に身を纏った子だった。その腰にはアサルトソードとハンドガンが装備されていた。
「クラスタ将軍、危険です。もし政府軍が気付いたら防げません」
「大丈夫だ。連中が気付くには時間がかかる。まさか、この時期に軍艦40隻を離れさせるとは思わんだろう。気付かれても、もうその時にはオーディン軍が動いているハズだ」
「しばらくの間、兵力は10万体です。政府軍はそれよりも多いとか…… 我ら連合軍が政府軍に勝る点は数だけです。政府軍の何十倍もの兵力を有しているから戦争を優位に進められるんです。同じ数ならすぐに敗北します」
政府軍と連合軍。耐久力の少ないバトル=アルファ。この軍用兵器が連合軍の主力だった。この機械のいい点は数だけだった。これまで連合軍が勝って来れたのも数で圧倒的に勝っていたからだった。
「心配するな。私を信じろ」
そう言ってクラスタは少年の蒼い帽子に手を置き、少しだけ微笑んだ。その微笑みの中に僅かに不安そうな表情があった。
【プレリア防衛師団本部 最高司令室】
明るい最高司令室。薄い青色をした立体映像に映るのは元老院の最高議長マグフェルト。彼の話を聞くのはスロイディア将軍、ディンター将軍、ビザンティア将軍、ウェスベ将軍ら4人とトワイラル、ミュートらの将校だった。
[これは先ほど入手した情報だが、これよりクラスタ軍の軍艦40隻がファンタジアシティを離れ、北上する]
「なんだと!?」
「本当ですか、議長閣下」
「信じられん……」
マグフェルト議長の言葉に大勢の将校から驚きの声が上がる。てっきりこれからクラスタが大軍を率いてプレリアシティに攻め込んでくると思っていた。彼らはそれをどう防ぐか対応を練っていたのだ。
[間違いない。軍艦40隻がファンタジアシティを離れ、オーディン将軍の元へ向かう。お前たちはこの隙を逃さず、直ちにファンタジアシティに攻め込め。このチャンスを逃せばファンタジアシティを奪回するのは難しくなるだろう]
「はい、閣下。お任せを」
将軍のディンターが頭をすっと下げる。それと共に他の将校も頭を下げ、礼をする。
[いい報告を待っているぞ]
議長は笑みを浮かべると、立体映像は消えていった。それと共に将校たちは再び頭を上げる。その表情にはまだ信じられない様子が見て取れる。だが、またとないチャンスに恵まれ、少しだけ明るかった。
「ディンター将軍」
不意にトワイラルがファンタジア侵攻戦の総指揮官であるディンターに声をかける。ディンターはさっとトワイラルの方を振り向く。
「なんだ?」
「どうかこの攻撃に俺とミュートも連れて行って下さい。ファンタジアシティに攻め込んで自分の目でピューリタン将軍がどうなったか知りたいんです」
ピューリタンの行方はいまだ不明。死体が見つかったワケではないから生きているかも知れない。だが、今日まで戻ってこないとなると、生存の希望は皆無に等しかった。
「そうだな。確かに彼女がどうなったか知りたいだろう」
「…………」
「よかろう。お前たちも我々と共に来るといい」
「ありがとうございます!」
トワイラルは明るい表情で元気に返事をすると、頭を下げる。
ファンタジアシティの敗北。幻想と消えた勝利。相手はあの時と同じくクラスタ。トワイラルとミュートは心に誓う。彼女に勝って、ピューリタンを捜し出す、と。
まだ、2人は知らなかった――……




