第11話 歪んだココロ
【プレリアシティ 中央市内】
雨の降る外の出たトワイラルとミュートはそれぞれの武器を手に銃撃の繰り返される薄暗い市内を歩く。トワイラルはアサルトソードを、ミュートはボウガンという弓矢を手にしていた。
「ねぇ、なんで“原因をなんとかする”みたいな事言ったの? 空気凄い悪かったよ?」
「絶賛大発生中のウォプルを何とかしないと第2、第3のウォゴプルが出てくるだろ? 問題は原因から取り除かないと解決した事にならないんだ」
「そうだけどさ、そんな面倒な事しなくても……」
市内を走る2人の前に2体のウォズプルが現れる。その大きさはトワイラルとさほど変わりない。近くにいた傭兵が射撃する。火花がほとばしり、ウォズプルの体が貫かれる。
トワイラルの剣がウォズプルを斬りつけ、ミュートの放った3本の魔法アローがウォズプルの胸を貫く。トドメにトワイラルがウォズプルを頭から胸にかけて大きく斬る。
トワイラルとミュートの攻撃していたウォズプルは倒れる。隣りの傭兵達が攻撃していたウォズプルも同じように倒れた。
「ウォプルが大量発生してんのも気になるんだ」
「でも、ヴァランさんは傭兵が何とかするって言ってたじゃん」
「あの様子だと街のウォプル討伐だけしかしないな。それに何となく俺らに余計な事して欲しくなさそうな感じだった」
トワイラル達の前にウォプルが現れる。1匹だけ。ミュートが魔法アローを放つ。それは一直線に飛び、ウォプルの体を貫く。トワイラルが素早く近づき、横に斬りつける。ウォプルは倒れる。所詮、弱小の魔物であるウォプルはさほど強くはなかった。
「……確か、地下から出てるって言っていたよね? でも、最初は郊外からだった。なんで今は地下からなんだろう?」
「ここに来る前に調べたんだが、プレリアシティは雨が多いから下水道も他都市に比べてかなり大規模に造られてる」
プレリアシティの下水道は2009年から2011年にかけて大規模な整備が行われた。より大きく、より効率よく雨水を処理する為の大規模な工事だった。
この工事を主導したのは今はなき民間企業“財閥連合”であった。2010年、軍用兵器・生物兵器開発の事実が露見した後、財閥連合は崩壊。その後は政府が主導となって工事は進められ、2011年に終了したのだった。
「その地下にウォプルに関係する何かがあるって事?」
「……たぶんな」
トワイラルは予測していた。ウォプルは何らかの方法で生み出されている。最初は郊外で生み出され続け、プレリアシティの人間がいなくなった後はその生み出す場所を地下の下水道に変えた。
一連の作業は“誰か”が意図的に行っている。意図的にウォプルを発生させ、街の人間を追い出した人間がいる。そして、それをこの街の警備軍を率いるヴァランは知っている、と。
ウォゴプルは意図的に創り出されたのか、本当に偶然なのかは分かっていないが……
「じゃぁ、まずは地下に行く方法を探さないとね」
「ああ、そうだな。まずはそこからだ!」
*
【プレリア防衛師団本部 本部要塞 最高司令室】
テーブルのような立体映像投影装置に薄い青色をした立体映像が映し出される。映し出されているのはファンタジアシティにいるクラスタ将軍だった。
そのクラスタの立体映像を囲むように並んでいるのはヴァランを始めとした政府警備軍の将校たちだった。
「クラスタ将軍、政府より特使が来た」
[……何名だ?]
「2名。トワイラルとミュートという青年と少女だ」
[私がファンタジアから追っ払った連中か]
「連中、地下を調査するつもりだぞ。地下にはウォプル量産機がある」
トワイラルの予測通りだった。ウォプルは量産され、街に解き放たれていた。その量産を行っている舞台は地下だった。
[…………。“スレイヴ・ドール計画”のテストをしよう。お前たちは彼らに何もするな]
「スレイヴ・ドール? どうでもいいが、アイツらをほっとけとはどういうつもりだ?」
もし地下でウォプル量産機が見つかればヴァランのクビは飛ぶ。何しろ、警備軍が魔物を量産し、市民を追い出したとなれば間違いなく大問題となるだろう。
その警備軍のTOPであるヴァランは当然の事ながら全ての責任を取らされ、政府によって何らかの罰を与えられる事となる。彼はそうなる事を恐れ、内心焦っていた。
[私が軍を送る。その指揮官にお前たちは従え……]
そう言うと、クラスタの立体映像は消える。話を聞いていた将校達は誰もが納得のいかない顔をしていた。特にヴァランは苦悩に満ちた表情を浮かべていた。
「……援軍が来るのでしょうか?」
「その援軍が大軍なら政府からも援軍が来る。そうなれば我々は終わりだ」
重苦しい表情と共にそれだけ言うと彼はマントをひるがえして最高司令室を去ってゆく。後に残った将校たちからはクラスタと、彼らの上司であるヴァランへの不満の言葉が出ていた。
「クラスタの野郎、この街を自軍の補給路にするだけでは飽き足らず、実験場にしているんじゃないのか……!」
「ああ、ウォゴプルの話なんて聞いてなかったぜ」
「大体なんでヴァランはあんな女にペコペコしてんだ! 普通は戦うべきだぜ!」
【プレリア防衛師団本部 本部要塞 廊下】
ヴァランはため息を付きながら足を引きずるように歩く。その表情は最高司令室で見せた表情よりも暗く、重かった。
彼は自身の手帳を開く。そこに1枚の小さな写真が挟まれていた。写真に写るのは1人の女性。白い半袖に短いスカートをした女性。浮かべる表情はとても、にこやかなものだった。
「……あの頃のお前に邪悪な考えはなかった。戦争がお前を蝕み、美しい心を歪ませてしまった……」
ヴァランは悲しそうな声で呟くと、手帳を閉じ、そっと懐に入れる。拳をぐっと握り締め、大股で薄暗い廊下を歩み出した。その顔には後悔と無念が滲み出ていた。
「――すまない、“クラスタ”。俺はもう、お前を守れない」




