ブラックマーケット
レインは朝が苦手だった。
少年時代から夜に仕事をしていたということもその理由になるかもしれないが……
それでも体質的に夜型なのだろう。
そんなレインだが、今日は確かな痛覚と共に目を覚ます。
(誰だよ……。こんな朝から……)
そう思って目を覚ましたら、横に白猫の月光丸が立っていて、顔を軽く叩かれたのだ。
「あれ?月光丸。お前トレントにいたんじゃなかったのか?」
昨日は任務の疲れで報酬を受け取りにいかず、美術品を置いて、そのまま寝てしまったのだ……
(まぁ、いいか……。)
思考を放棄し、また寝る。
しかし、バシッっと月光丸に叩かれた。
一回目よりも強めにだ。
「もぅ~。寝させてくれよ~。」
そう言って月光丸を抱いて寝ようとするが、今度は引っかかれたのだ。
「ぐぅぅぅ!!」
レインは溜め息をはきながら起き上がる。
(はぁ……。お腹が空いてるのか?)
月光丸に引っかかれて血が出ている腕を止血しながら、昨日オロチのアジトでくすねた食料を食べる。
月光丸が寄ってきたので、分けてやった。
せっかく起きてしまったので、レインはいつも日課としているトレーニングを始める。
月光丸と一緒に走り込みを行う。ここで重要なのは全力で走ること。へとへとになる位に自分を追い込むこと。そうしないとトレーニングにならない。
次は筋トレだ。片足スクワット、逆立ち腕立てをやっていると、月光丸が上に乗ってきた。
月光丸が意外と重い…
次は武術だ。息も絶え絶えになっているが、もとひと踏ん張りだ。武術の訓練は素振りを行う。ここで重要なのはしっかりと相手をイメージすること。もちろんイメージするのは今まで戦ってきたなかで一番強かった父親だ。
そして、それが終われば魔道書を読み込み魔法の訓練だ。月光丸は疲れたのか、今は寝ている。
自分自身が扱える魔法を磨くのもいいし、新しく覚えるのもいい。
そんな中、エルザがやってきた。
「おはよー。」
手をひらひらさせながらエルザが声をあげた。
「おはようございます。申し訳ありません。今から準備しますね」
「ゆっくりでいいよ~」
そう言って、エルザは床で寝ている月光丸を撫で始めた。
そしてエルザが今気がついたかのように言った。
「あれ?この子。昨日、トレントに置いてこなかったっけ?」
「ええ。僕はここに来て直ぐに寝ましたからね……。でも気づいたら横にいました」
「あらあら。ご主人様が恋しくて脱走してきたのかなぁ~」
そう言って、月光丸の下顎を撫でた。
とても気持ち良さそうだ。
準備が出来たレインは月光丸を連れて、エルザと共にまずはトレントにいった。
エルザが昨日起こったことを一通り説明してくれていた。
レインは暇だったので、月光丸と戯れていた。
(そういえば、月光丸って悪魔憑きって呼ばれてたな……。ちょっと見てみるか…)
レインは千里眼で月光丸を見た。
(なんだ?この魔力は……)
今まで色々な人間の魔力を見てきたが、こんな暗くてドロッとした魔力は初めて見た。
この千里眼でも悪魔とやらは見えなかった。
そもそも千里眼では見えないのか、月光丸と完全に同化して見えなくなっているのか…。
それは今のレインには判断できなかった。
そしたらエルザと話し終わったザックが近づいてきた。
「よう!昨日はすまんな…。そいつ気がついたら居なくなっちまってよ!」
「問題ないよ」
手を上げて、そう言った。
「今回はよくやってくれた!またよろしく頼む!」
えらく上機嫌なザックはレインにそう言った。
どうやら今回の結果に満足してもらったようだ。
「このくらいなら、御安い御用だよ」
「さすがだな…」
「まだ依頼があるんだが、聞いていかないか?」
レインはそれに意気揚々と答える。
「それは明日にするよ!」
「今日はやることがあるからね!!!また来るよ!」
そう答えたレインはエルザと共に店を出た。
◆
トレントを出たあと次に訪れたのは、ブラックマーケットだ。
オロチの屋敷でくすねた美術品を売り払うためだ。
さっき50金貨が手元に入ったばかりなのに、まだ増えるのだ。
(さらにこの後にはエルザさんとのデートがある…。最高だね…。)
舞い上がったことを考えていると、ディランがやってきた。
「おう!!昨日は帰ってこねぇから心配したんだが、無事で何よりだ」
(このおっさん 。見た目が厳ついくて言葉使いも荒いが…。もしかしたら良いおっさんなのか?)
そうレインは感じた。
美術品をディランに見せたところ、骨董品の売買を行っている人間を紹介してくれた。
「レインはまだここの事知らねぇだろ。案内してやるよ」
ディランがそう言った。
エルザが鑑定が終わるまで待つと言ってくれたので、レインはディランと一緒にマーケットをまわることにした。
ブラックマーケットは基本的に衣類や食料品などが売っているが、裏に行けば怪しい薬であったり、武器や呪術具などが置いてある。
このブラックマーケットは誰でも場所代さえ払えば、自由に出展できるらしい。
(だからこういった違法なものが集まるのか……)
店の1角に近づき店主に聞いた。
「おじさん。これは何?」
そう言って、ある笛を1つ手に取った。
「それは魔獣寄せの笛だ。それを吹けば魔獣がぞろぞろと集まってくるらしい」
「へぇ~。これいくらくらい?」
レインは使いどころがあると思い立って値段を聞いた。
「金貨10枚だ」
(高っ!!)
レインはそう思ったが、その笛を購入した。
「レイン。お前正気か?」
ディランがそう言って、見つめてくる。
「正気だよ。これを使って試してみたいことがあるんだよ…。」
「お、おお…。ならいいが…」
そう言って、レインは笛をバッグに入れる。
「あと、ここって魔道書とか魔術教本は売ってるの?」
「ここにはねぇな…。だが、仕入れられないことはない」
「なら、王立魔術研究所の論文とかは?」
研究所の論文は魔法に関する最先端の知識が詰め込まれている。魔術を扱うものとしては是非とも読んでおきたい。
ディランは少し考えた末に答える。
「多分…。可能だ」
「なら、よろしくお願いします。出来ればここ1年以内に出たものを」
そう言って、ディランに金貨2枚を渡した。
「了解した。物が来たらザックに渡しておくわ」
「ありがとうございます」
他に良いものがないかと歩いていたら、レインは妙な視線に気がついた。先ほどからずっとこちらを見ている。
その1角には妙な宝具と大量の本が置いてあり、黒いフードを被り痩せこけた男性が座っていた。
少し迷ったが、あえてその男の元にレインは赴いた。
「いらっしゃい…。何か用かい?」
その男は不気味に笑い。レインを見たその瞳には何か強い激情を訴えかけるような顔をしていた。
「うーん。商品を見に来たんだけど、僕に用があるのはおじさんの方だったり?」
そう言って、レインは目を細めた。
「随分と熱心に見つめられたからね。居心地が悪くて仕方ない」
無表情になったレインは告げる。
「ここ以外で絡まれたらうっかり殺してしまいそうだからね…」
「フッフフフフフフフフフ!!」
男はレインの圧に屈することなく、気が狂ったかのように笑う。
「お前さんのことは見ていないさ…。私が見ていたのはお前の連れているその猫さ!」
そう言って、レインの肩にのる月光丸をみる。
「私が焦がれたあの方の雰囲気によく似ていたからついね…」
そう男は呟いた…。そして本題に入る。
「その白猫悪魔憑きだね…」
その言葉はをきいて,レインは目を見開いた。
「知っているよ。それがどうかしたのかい?」
そう冷静を装ってレインは言った。
「どうだい?その子を譲ってくれんか?」
その男はレインに手を差し出した。
「断る!月光丸は家族だ!売り物じゃない!!」
だが、これはレインのエゴだ。
月光丸が望むのであれば…。
「どうしてもというなら、月光丸を手懐けてみれば?そしたら考えるよ…。」
月光丸が自ら進んでついていくのなら、僕に止める権利はない。
「フッフフフフフフ!言ったね?」
そう言って、レインの肩にのる月光丸に男は手を伸ばした。だが…
ブシュッっと音がなる。
月光丸はその男の腕を爪で切り裂いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
周りに響くような悲鳴をあげる。
(月光丸よ…。やり過ぎだ…。)
男が手を押さえて転げ回るので、やれやれと言ってレインは治癒魔術をかけてやった。
「はぁ…はぁ…。君魔法が使えるんだね…。」
そう言って、頭を下げながらレインに言った。
「なんで悪魔憑きとわかっていて、その猫の世話をしているんだ?」
「家族のようなものだからね…。悪魔憑きというのは捨てる理由にはなり得ないよ」
レインはそう淡々と答えた。
男はしばし考えると感極まったように言った。
「どうやら、僕達は同志だったようだね!!」
「は?」
レインのその言葉は口を滑らすかのように自然に出た。
「私は元王立魔術研究所職員。オルストン=ティンジャーと言います。」
(オルストン=ティンジャー?どこかで聞いこと…いや見たことがある。)
「もしかして、論文とかよく出してました?」
おそらく論文の著者名で見たのだと思い、そう聞いた。
「ああ!出してはいたね…。だが…あれらは僕が本当にやりたかった研究ではないからね…」
「やりたかった研究って…もしかして悪魔に関するものだったり?」
そう言って、レインはチラリと月光丸を見た。
「そう!!…その通りだよ!!」
男が前のめりになって、顔を近づけてくる。
風呂にはいってないのだろうか…臭い。
レインは体勢をのけ反らせながら聞いた。
「でも、悪魔の研究って聖教の規制に引っ掛かると思うけど?」
「そう!そうなんだよ!!あのクソ共が!!」
聖教への恨みはレインよりも根深そうだ…。
「悪魔の研究に手を出して、異端審問にでもかけられましたか?」
「ああ!そうさ!!」
(適当に言ったつもりがまさか当たってた…)
「まぁ…。疑惑だけどね…。だから逃げて来られたんだけど」
(聞いてる感じだと疑惑じゃなくて、もろやってたんだろうな…)
そう思っていると、オルストンは猫を見ながら言った。
「悪魔憑きになってこれほど、自我が残っている生物は始めて見た!是非ともその猫を調べさせて欲しい」
「断る!妙なことするつもりだろ?」
「そんなことしないよ!大事な大事な検体だからね!」
そう言ってオルストンは目を血走らせながら言う。
(説得力が無さすぎる…。こいつはマッドサイエンティストだ。)
「信用できないね…」
「なら、君が目を光らせていればいいじゃないか…僕は観察するだけにするからさ…。」
そう言って、頭を下げる。
(断るのは簡単だ…。だが、オルストンが魔術に関する知識をもってるのは確かだろう…。それに月光丸の状態を知っておきたい気持ちもある)
レインは考えた末に答えを出した。
「話は変わるけど、その本は何?」
「これは悪魔に関する僕の論文さ…。悪魔様の素晴らしさをみんなに知って貰いたくてね!!」
(なるほど…。この人は頭がイカれてる悪魔信者というところか……)
「これ…。全部でいくら?」
「金貨5枚…。だけど君が買うならおまけして4枚にしようかな…」
そう言って、ウィンクをする。
男がするウィンクなんて吐き気しか湧いてこない。
レインは金貨を渡し、本を全て買い取った。
「僕は北部の東側、3階建てレンガ造りの家にいます。」
「7日経ったあと、昼であれば来ていただいてもいいですよ?月光丸もいます」
「お、いいのかい?」
オルストンは目を輝かせながら言う。
「でも今言った以外の日時で来た場合、殺すので…」
「よろしくお願いしますね」
レインは殺気を飛ばしながら言う。
「もちろんさ。約束だよ」
そう言って、オルストンはウィンクをする。
(吐き気がするからやめてくれ)
「あと、来るときにはシャワーぐらいは浴びてきてくださいね」
それだけ言い残して、レインはその場を去った。
◆
「おい。いいのかよ!あんな怪しい奴に寝蔵を教えて…」
これまで黙っていたディランは口を出した。
「問題ないよ…。あの人では僕をどうこうできないだろうから…」
「ま、まあお前がそう言うならいいけどよ…」
そう言って、ディランは口を噤んだ。
その後は武器エリアで投擲用のナイフを20本と希少な魔獣の毒を数種類購入し、エルザの元に戻った。
こちらに気がついたエルザは手を大きく振る。
「随分といっぱい買ったのね!!」
そう言って、エルザはレインの荷物を見た。
「ごめんなさい。ちょっといっぱい買いすぎました」
「いいのよ。気持ちはわかるわ…」
「それより査定の結果出たわよ」
そう言って、紙の明細書をレインに渡した。
「金貨200枚……ですか……」
レインはあまりにも現実離れした金額に思考が停止する。
(そうなれば、1人100枚?)
「…………」
レインが黙っていると、エルザはレインの肩に手を置く。
「軍資金はバッチリってところね?」
にこりと笑いながら、エルザはレインに言う。
何故かいつもより目がギラついている。
「は、はい。…まだどこに行くか聞いてないんですけど…」
「カジノよ。」
「え?」
そうレインは聞き返す。
「だからカジノよ!このお金を賭けて勝負する場所よ!!」
(…………なんか面白そう!!)
レインは好奇心旺盛かつ無知だった……。
「お、おい!いくらなんでも子供にカジノは……」
そう言ってディランはエルザはを止める。
「あら?大丈夫よ!私が行ってるところは年齢制限ないし……」
「それに……。私がついてるのよ?」
(それが不安だって言ってるんだよ!!)
そうディランは突っ込みをいれた。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




