暗殺者エルザの回想 (要塞都市クレダールの攻略)
※次回から前話の続きが始まります。
私はレイン君の顔に少し見覚えがあった。
私が知っているある人間と雰囲気が酷似していたからだ。
レイン君に似ているその少年の名はレイス=クロード。
クロード一族の神童と呼ばれていた少年だ。
私は元々男爵家の生まれで兄弟達と暗殺、工作員としての教育を幼い頃から受けてきた。
その時からクロード一族のことはよく聞かさせれていた。
王国においての暗殺者の一族の名門だったこともあるが、私がクロード一族の長兄ライアン=クロードと同学年ということもあるだろう。
ライアンはとても優れた暗殺者であった。次男のギールも同様だ。
2人は自分にとって1段も2段も格上の暗殺者だった。
でも、全く手が届かない相手ではないと思っていなかった。
私も必ず彼らと肩を並べて戦いたい、功績を残すことが御家の発展に繋がると思っていた。
その少年を見たのは父親と兄弟達の命日となった
レギア帝国との戦争での重要な任務のときだった。
要塞都市クレダールの攻略だ。この要塞都市はかつて王国が占有していたが、10年前の戦争で帝国に奪われた都市だ。
王国の騎士団、聖騎士団の総力を賭けて挑んだ。
しかし、4日間かけて攻めても攻略できずにいた。
帝国は王国から奪ったときよりも、より強固な要塞に作り変えられていたのだ。
そこで夜襲を仕掛けて城塞都市の守りを突破せよという司令が国の上層から通達された。
正攻法での突破では戦力的に難しいと判断したのだろう。
集められたのは暗殺者の名家。クロード子爵家を筆頭に様々な暗殺貴族がこの任務のために召集された。推定50人程度だ。
この要塞都市の最も厄介なところは、要塞を包み込むように拡げられた強力かつ巨大な3重の防御結界だ。
これを作動している装置は広い城壁に面した3つの塔に存在している。
これを全て破壊することにより、結界が解除されることがわかったのだ。
ただし、この塔は昼の段階。つまり王国騎士団、聖騎士団でも破壊できていない。
この指揮を預かっていたのは、王国最恐の暗殺者と呼ばれるシリウス=クロード。その補佐として、まだ当時11歳だったクロード家の三男、レイス=クロードだった。ライアン、ギールは別任務のために不在だった。
そのレイス=クロードという少年は黒髪で父のシリウスが持っているのと同じ、赤い瞳が特徴的だった。
(こんな子供にこんな重大な任務を任せて大丈夫なの?)
私は当時それが心配になったのを覚えている。
作戦は単純明快。一番今警戒が強く、守備の多い塔を暗殺貴族たちを全て動員し、他の2つの塔をシリウスとレイスが単独で攻略する。その後、城壁とその付近にいる兵士を襲撃するという内容だ。
正気ではないと感じた。自分の息子を殺すつもりなのかと…
だが、結果は私の予想を反する結果となった。
私を含む暗殺貴族達が決死の覚悟で挑んだ塔には帝国の将軍が控えており、その将軍と直属の兵達により敗北した。
結果として暗殺者の8割以上が死亡、1割が再起不能な重傷を負った。エルザは命辛々逃走することに成功したが、父、兄弟たちはこの塔で命を失った。
目の前で家族が殺されたのだ。これ程の屈辱はない…。
その後、聞いた話では要塞都市クレダールの攻略は成功に終わったと聞いた。私達が攻略できなかった塔はレイスが単独で攻略し、シリウスが敵の総大将を暗殺したとのことだった。
さらに城塞内の戦闘でたった2人で5000人以上の守備兵を殺してまわって、退散したそうだ。
暗殺者の家系で子爵位を与えれているのはたったの3家だ。これ程の差があるのかと実感した。
私には自分の無力さを呪うことしかできなかった。
その次の日には要塞都市はあっさりと攻略され、王国の勝利は確実なものとなった。
その後、エルザの御家は解体されることになった。
母親は精神的なショックによる病を発祥してしまった。
そんな路頭に迷っていた私達を拾ってくれたのがザックとその雇い主の貴族である。
本当に感謝しかない。
今は母親の入院費をその雇い主に返すために仕事をこなしている。
だが私はあの任務以降、明らかに伸び悩んでいた。
要塞都市クレダールの攻略作戦で父と兄弟たちを失ったのが、自身にとってトラウマになっていた。
それにより性格が臆病になり、危険な任務は断るか撤退するような逃げ癖がついてしまった。
こういった臆病な行動は自分の命を守ることができるが、それでは成長できない。
いつでも逃げても良いという。自分の中で甘えが生まれてしまったからだ。
逃げてはダメだ……そんなことはわかっている。
だが境地に陥った時、どうしても後退りしてしまい、恐怖心が脳を支配してしまうのだ。
そんな中、この少年と出会った。
ザックがバケモノと言ったほどの少年だ。
任務前に話に聞いた内容では、「貴族」、「幻覚魔法の使い手」、そして「レイン」という名前。
そして、目の前で見せられた圧倒的な成果。
それだけでわかってくることもある。
おそらく、レインというのは偽名だろう。
今回、私は実質何もできていない。
ほとんど彼がやったようなものだ。
私がやったのは屋敷の前に幻覚の結界を張って貰い、案山子となった敵を狙い撃ちするだけの仕事だった。
だが、確かな成長も実感できた任務でもあった。
今回は自分の命の危機にも関わらず、逃げずにグラン立ち向かうことができた。
まぁ、結局最後は助けてもらったけど……。
私を守るように立つ。その小さな後ろ姿を今も思いだし、体から熱いものが汲み上げてくるのを感じる。
これは恋よりも憧れに近いかもしれない。
この年下の小さな少年にだ……。
だが、無理もないことだろう。
この少年の実力はかつて格上だと思っていた。ライアンやギールをはるかに上回っていた。
おそらく、彼の本名はレイス=クロード。
聖教の暗殺者達に狙われ、相討ちとなり死んだはずの少年だ。
今思えば、あの塔を攻略できるような人間が数人の暗殺者相手に簡単に死ぬとは思えなかったのだ。
この少年は自分がレイスであることを隠し通したいのだろう。
バレればまた聖教に命を狙われる。
ならば、私は気づいていないふりをする。
この少年と今後共に戦うことにより新しく得られるものあるかもしれないから…
◆
荷物を輸送する水玉に乗りながら、その少年に問うた。
「レイン君。屋内、敵いっぱいだったけど、怖くなかったの?」
屋敷内の死体はとてつもない量になっていたからだ。
「命のやり取りですからね…。怖いですよ。」
そう言って、レイン君は遠くの方をみた。
「よく立ち向かえたわね」
その質問に少し驚きながら、少年は答えた。
「暗殺の仕事をすると不利な状況に陥ることが多いですからね…。馴れました。」
「それって馴れるものなの?」
「ごめんなさい。ちょっと言い方が悪かったですね…。」
そう言って、レイン君は苦笑いをした。
「正確には自分自身の恐怖心に対処することに馴れたんです。」
そう言って、レイン君は話を続けた。
「僕が思うに恐怖心をやわらげる方法って、2つありましてね」
レインは指で2本の指を立てる。
「1つは無心になること、余計な思考が恐怖心を煽ってしまいますから……。
「雑念を捨てて、剣を向けられても、死体を見ても、血を浴びても、相手を殺すことだけに集中するんです。これは父親から教えられました」
確かに要塞都市クレダールの攻略ではシリウスもレイスも不気味なくらい表情がなかった。
自分もその境地に立つことができるのか……?
そう思っているとレインが続ける。
「2つ目他の感情で恐怖心を上書きすることです。例えば、憎しみや怒りとかはわかりやすいですね。あとは報酬に関する貪欲さとか…。騎士であれば責任感や愛国心、忠誠心ですかね」
確かにエルザがグランに立ち向かったのは、レインを境地に追いやることはできないという責任感なのかもしれない。
それか、私自身が好感をもったこの子を死なせたくないと思った故なのか…
「エルザさんが戦っていた相手は魔力が比較的高く、技量によっては僕は敗北する可能性だってありました」
「それでも戦いに赴くことができたのは、多分恐怖心からです。」
「恐怖心?」
エルザは首を傾げながら聞いた。
「ええ…。自分に近しい人が苦しんだり、死ぬ姿を見たくなかったんです…。」
そう言って、レイン君は顔を曇らせた。
「ごめんなさい。暗いし、話が長かったですよね」
そう言って、口を閉じた。
「そんなことはないわ。さすがは一流の暗殺者ね」
これは私のの本心だ。
「おだてても。分け前は変わりませんからね!」
「わかってるわよ…」
そう言って、エルザは目を閉じた。
敵軍がひしめく塔に1人で挑んだ少年にも恐怖はあったのだ。
この少年の話を聞き、自分自身も変われるような気になった。
この時見た少年の後ろ姿は何故かとても大きく感じた。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。
※前話の続きは次回から




