無法都市の巨大カジノ
※この話では未成年の飲酒シーンがありますが、未成年の飲酒は本来、法律上禁止されております。
「なんかここだけギラギラしてませんか?」
エルザに連れられて来たレインが始めて言った言葉がそれだった。
その建物は無法都市北部に存在する。
街灯の明かりすらないこの街にそぐわないような、煌びやかな装飾品と必要以上に光にライトアップされた外壁。
そして巨大だった。敷地面積だけなら王宮にも匹敵するだろう。
そのカジノの周辺には無法都市ではあまり見ることのない酒場や飲食店が立ち並んでいた。
「まぁ、確かにそうかもね…。でも分かりやすくていいじゃない?」
全くこの光景に疑問を抱いてなさそうなエルザがそう言って、レインを連れて大きなゲートに入った。
どうやら、カジノにはドレスコードと言うものがあるらしい。
レインは全身を覆うような黒いローブを着ている。家を出てからずっとこのローブを着ており、洗濯はしているもののやはり汚れは目立っている。
「ドレスコードのレンタルをお願いできますか?」
エルザは入ってすぐにスタッフにそう言って金貨を渡す。
「かしこまりました。いつもありがとうございます。始めての方に対しては当施設に関する説明をさせて頂いておりますが、いかがなさいますか?」
そう言って、男性スタッフはレインを見た。
「ああ。私の方で説明しておきます」
「かしこまりました。」
他にもスタッフはいるが、基本的にみんな上品だ。振る舞い、受け答えはとても丁寧だった。
魔力封じの腕輪を渡した後、男性スタッフはレインの肩にのる月光丸を見て言った。
「申し訳ありませんお客様。当施設は猫を含む、動物の入場が禁じられておりまして…」
「こちらで預からせていただくことは可能ですが、いかがなさいますか?」
(さすがに月光丸を野放しにするのは危ないか…)
そう思い、月光丸を預けることにした。
月光丸はそれに反発せずに大人しくスタッフに連れられて行った。
◆
タキシードに着替えたレインは、エルザと共に施設中央にあるバーカウンターに向かった。
「あら…。中々、様になってるじゃない?」
「ありがとうございます。ま、まぁ…その…エルザさんのドレス程ではないですよ」
照れながらもレインはそう返した。
それも無理もない。エルザが着ているドレスは肌の露出面積こそ少ないが身体のラインがくっきり出るようなものだった。それに髪も綺麗に後ろで纏められていた。
(な…なんかエッチだな…)
そんなことを思いながら、レインはそれを悟られないように煩悩を必死に押し殺そうとする。
「ありがと…」
そう言って、エルザはにこりと笑う。
だが、エルザだけが特別な訳ではない。辺りを見渡すと女性は皆同じような格好をしていた。
(体が熱いし、落ち着かない…。)
そんなそわそわした気持ちでバーカウンターに座る。
「いらっしゃいませ。こちらドリンクメニューになります」
座ると同時に店員がそう話しかけてきた。
「私は赤のワインを…。レイン君はどうする?」
レインはそれを聞いて少しだけ沈黙した。
メニューに書いてある商品が何なのかがわからなかったからだ。
(これ…。1つ1つ聞くのも悪いしな…)
レインはそう思い、注文を言った。
「すみません。僕も同じものをお願いします」
「かしこまりました。」
そう言って、店員は豪華そうな瓶を1つ手に取り、瓶の底を持ち上げ、グラスに注いでいく。
(なんか…注ぎ方が上品だ…)
そんな事を考えていると、顔を覗きこむようにしながら、エルザが声をかけてきた。
「レイン君。お酒飲むの?」
レインはエルザの胸元が目に入ってしまい、勢いよく正面を向いた。
「いえ…。飲んだことはないです…」
「え?大丈夫なの?ごめんね…。ちょっと配慮が足りなかったわ」
「アルコールを失敗されてるのかも知れませんが、問題ありません。僕は何種類もの毒に耐性を持っている人間です!アルコールなんぞの影響は受けないと思います!」
レインは自慢気に胸を張って言った。
「そう?なら良かったわ!!」
そう言って、店員が持ってきたワインを前に出してくれたら。
「乾杯!!」
「か、乾杯」
そう言って、互いのグラスを合わせた。
(いい…!!なんか大人っぽい)
そう思い、レインは舞い上がっていた。
そう言って人生で始めてのお酒を飲む。
(な…なんか。苦い…。)
「どう美味しい?」
エルザがそう聞いてくる。
「味は正直なところ苦いですね…。でもなんか不思議な感じです。何か身体の芯が暖かくなってくきて…」
そう言って、ワインをもう一度飲んだ。
「なんか…ちょっと癖になりそうですね…」
それになんだかとても気分がいい…。
王国においてお酒を飲んでいいのは16歳からだ。だがレインは14歳だった。
禁じられていることをする背徳感に妙な興奮を覚えていた。
「ねぇ…。レイン君は貴族だったんだよね?何というか…大丈夫?」
「ここの暮らしって貴族の生活に慣れてる人からしたら耐えられないこととかあるんじゃない?」
ふとそんな事をエルザは問いかけた。
「まぁ…。大変なことは多いですけど、ちょっと刺激的で楽しいと思うことが多いです」
「そうなの?」
「ええ。貴族であるときの僕は常に親の監視がある状態でした。仕事に関するもの以外のことはさせて貰えませんでしたからね…」
「何というか世間一般から隔絶されたような家だったので、生きていても楽しいことなんてありませんでした」
遠くを見るような顔でレインは言った。
「だからこそ、家を出ることによって得られたものもあると思っています」
「あの…エルザさんはどうして無法都市に来たのですか?」
少し暗い顔をしながらエルザは答えた。
「私は親と兄弟が死んでしまったからね…。家が解体されることになったんだよ。今は仕事を受けながら、母の治療代を払ってるってところかな…」
レインはそれを聞いて無神経な質問をしたことを後悔した。
「すみません。ちょっと無神経な質問をしてしまいました…」
エルザは首を振った。
「いいのよ…。だってレイン君もそうでしょう?」
「僕…家族の事って言いましたっけ?」
何か自分が失言をしてしまったのではと思い、焦る。
「いいや?何となくそう思っただけだよ。」
(エスパーかよ…)
レインはエルザの察しの良さに戦慄した。
「ええ…。僕も家族は亡くなっています。ただ…両親はまだ生きている可能性があります。どこに行ったのかすらもわかりませんが…」
そう言って、グラスのワインを飲み干した。
その時エルザがもう1杯注文したので、レインも同じようにいただく。
「お母様は何かご病気なのですか?」
「ええ…。父親と兄弟が亡くなって塞ぎこんでしまってさ…。どうも精神的な病だそうだ」
精神的な病?そんなのがあるのか…
レインは父親の教育である程度の医学知識は持っていた。そんなレインでも聞いたことがなかった。
「あの…。もしエルザさんが僕を信用してくれるのであれば、お母様に合わせてもらえませんか?」
「え?」
エルザはキョトンした顔でレインは見る。
「僕は精神干渉魔法にはかなりの自信があります。精神的な病気というのは聞いたことがないですけど…。もしかしたらお役に立てるかもしれませんよ?」
「そ…そう。」
(エルザは少し考えて言った。)
「レイン君の事は信用してるけど、簡単に会わせることが出来ない事情があるのよ…」
「その…事情は僕が聞いても良いものですか?」
少し思案顔をすると耳元に口を近づけて言った。
「ここだけの話にしてくれる」
エルザの香水の香りがレインに漂ってくる。
(いい匂いだ…)
うんうんとレインは首を縦に振った。
「お母さんね。ザックのクライアントの所で療養してるの…」
「マスターに依頼をまわしてる人ってことですか?」
「ええ…。そうよ。この国ではかなり影響力のある人でね。私の口からは言えないの」
(まぁ、言われて見れば納得だ。あれだけの金。ただのバー店の店主が出せる額ではない)
「まぁ…。それなら仕方ないですね」
ここから先は面倒事の臭いがする。レインはそんな感じがした。
かつて父親は色々な貴族から強制力のある依頼を受けさせられていた。今レインは自由なのだ。自分の働きたいときに働くのが一番いいに決まってる。
(かかわり合いになると録な事がないような気がする)
「会わして貰えるように頼んで見るわ…」
それを聞いてレインは冷静に言った。
「お母様が外出できるなら、ありがたいですね…。僕はマスターのクライアントとは別に会いたくはないですから…」
「…そうね。外出は多分できると思う。だからお母さんと会ってくれる?」
「ええ…。それであれば…。ただあまり期待はしないでくださいね」
レインはそう言っておく、自分もまだまだ未熟だと理解しているからだ。
「フフ…。お母さんきっとビックリするわね。私が男の子を紹介したら…」
(え?……もしかしてそういう意味になるのか?)
レインは眉間に皺を寄せて考える…
(いや…全然いける!!)
「フフッ…冗談よ。私も貴族の端くれだったけど、婚約者なんていなかったから…。そういう意味でね。レイン君は婚約者とかいたの?」
「はい。いました…。ただ僕の家もなくなってはいるのでね…。今はもう解消されているはずです」
興味ありげにエルザは聞いてきた。
「そうなんだ~。可愛い子だったの?」
「少なくとも僕はそう思っていました。ただその子のことは正直よくわからなかったです。何を考えているのか…。どんなことが好きなのかも…」
「まぁ…向こうからしても僕の事はそんな感じに見えていたのかもしれません。」
そう言ってレインはワインをぐいっと飲んだ。
「ふーん。そうなんだ?」
エルザが面白くなさそうにそう呟いた。
「あの…。何か気にさわりましたか?」
そう言うと、直ぐにニコッと笑って言った。
「いいや…。何でもないわ。」
「それよりもそろそろここの事、説明をしておくわ」
そう言ってエルザはカジノのルールを丁寧に説明してくれた。
・ゲームは貨幣をコインに変換し、それを使用することで遊べる。そしてこのコインは後に換金できる。
・不正防止のために魔力封じの腕輪を装着すること
そしてゲームの種類だ。
ここのカジノでは大きく分けて以下の4種類のゲームがあるらしい。
・ルーレット
・トランプゲーム
・ダイスゲーム
・スロット
地下のVIP専用エリアに入ると賭ける金額が跳ね上がるそうだ。さらにこのエリアには賭博用の闘技場もあるとのことだ。
さらにVIP専用エリアには独自のルールがあるようで、カジノコイン以外も賭けの対象にできるということだ。
例えば自分の持っている宝石や服、知識などの形の無いものでも可能だそうだ。
そして自分自身や家族、恋人、奴隷など。人の人権を賭けることもできるらしい。
イカれてる…。レインはそう思った。
リスクはあるのかもしれないが、VIPエリアに入らなければ、損失はカジノコインに費やした前払いの金のみ。
それなりに楽しめるかもしれない。
レインはそう思った。
飲み物をもち、まずはルーレットがあるエリアに移動した。
そこにはいくつものテーブルがあり、その真ん中にはルーレットがあり、カジノコイン積み重ねられていた。
その側に立っているのが、ルーレットのディーラーだらう。
人はテーブル毎に疎らにいた。刺青が入った男達もいれば、えらく優雅にゲームに勤しむ品のある人間もいた。
ここにいるのは、無法都市に生きる裏社会の人間。もしくはお忍びで来ている貴族が主な客層なのだろう。
エルザの後に続き、周りをキョロキョロしながら歩いていると、礼服に身を包んだ禿頭で巨漢な男がこちらに近づいてきた。
「よう!久しぶりだな!」
そう言ってその男はエルザに話しかけた。
「久しぶり!今日も勝負しにきたよ」
エルザがそう言うと、男は大げさに笑って言った。
「は!また金を捨てにきたのか…。いいぜ!あそこが空いてる良かったら使ってくれ!」
「そんな生意気な口は今日は聞けないからね?」
「あ?」
訝しげにその男はエルザを見た。おそらくこの男は運営側の人間なのだろう。
「これまでは使えるお金が少なかったから勝てなかっただけ!!今日は100枚以上持ってきている。これを倍にして今日は帰るつもりだから!!」
男はそれを聞いて高らかにわからった。
「そこまで言うなら見せて貰おうじゃねえか?…お?今日は連れがいんのか?お前の弟とかか?」
「違うわ。仕事仲間よ。だからあまり舐めない方がいいわ。」
「へぇ…」
そう言って、男は不敵な眼差しでレインを見た。
「ここは始めてか?坊主。」
「まぁ、そうだね。よろしく頼みます」
「おう!わからないことがあったら聞いてくれや」
そう言って、その男は2人をあるテーブルに案内した。
そのテーブルに着いたところでレインはその男に話しかけた。
「あの…。トイレってどこですか?」
「ああ…。ちょっと遠いがあそこの地下にいく階段の奥ににあるぞ」
「わかった。ありがとう」
そう言って、テーブルにワインを置き歩き出した。
◆
僕はここに来た時、エルザさんとのデートができると思っていたし、今もまだそれを信じている。
だが、トイレに向かっているときに遊戯をしている人間を観察してわかったことがある。
ここいる多くの人間は2種類に分けられる。
遊戯に勝利し、目を血走らせ歓喜の声をあげる人間。そして遊戯に負けたのか人生が終わったとでも言いたげに俯く人間。
これだけでここが何かおかしいのはわかる。
精神に異常をきたしている人間が多いのだ。
デートには似つかわしくない場所だとさすがの僕でもわかる。
(みんな薬でもやってるのか…?)
そんなことを考えていると、体がふらつく…。
(な、なんか…。頭が少しくらくらする…。)
そんな事を思っていると、すれ違う表紙に男とぶつかった。
「痛ぇな!!酔っ払い!!ちゃんと前向いて歩けや!!」
(僕が酔っ払ってる?そんな馬鹿な…。僕は何種類もの毒に耐性をもつ人間だ…。アルコール程度…)
「おい!!聞いてんのか!!」
そう言って、酔っぱらいの男は僕の体を掴んだ。
「うるせぇ…」
自然に出た言葉を呟き、男を殴り飛ばした。
(ヤベッ…)
そう思い、コソコソとその場を離れた。
少し時間がかかってしまったが、エルザさんのいるテーブルに戻ろうとして、近づいていると大きな声が聞こえてくる。
(…?どうした?)
「こい!こい!!こいこいこいこい!!!いよっしゃああああああ!!!」
そう言ってエルザさんが叫んでいた。
(えぇぇ…………。誰?)
当作品をご覧いただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




