ギャンブル沼とトリック
※この話では未成年の飲酒、ギャンブルをするシーンがありますが、未成年の飲酒もギャンブルも本来、法律上禁止されております。
(ええ……。なんか戻りづらい……)
そんな事を思っていると、エルザがレインに気がついた。
「レイン君!!」
そう言って、隣の席をバンバンと叩いた。
「あの…。酔いがまわってきたんじゃないですか?」
エルザの顔が赤くなっているうえに言動が明らかにおかしかった。
「んん?まだこんなのは酔ったうちに入らないわ。」
(あ……。うん。そうなのか?)
そう言って、困惑しながら座った。
「坊主。心配すんな。嬢ちゃんはいつもあんな感じだ?酔いの方もまだ大丈夫だろう……」
禿頭の男がそうレインに言った。
「え?いつも?」
「ああ……。」
そう男は頷いた。
自分の中でこれまで感じていたエルザのイメージが音をたてて崩れていくのをレインは感じた。
(もしかして、エルザさんって結構ヤバい人?)
「あ!レイン君。グラス空いてじゃん。ついであげる~」
さっきまではなかったワイン瓶が傍に置いてあった。新しく買ったのだろう。
「あ、ありがとうございます……」
いつもと違う雰囲気に狼狽えながら、グラスを差し出す。
「それにしても戻ってくるの遅かったじゃん!!」
「ちょっと変なおじさんに絡まれたので……」
本当は道がわからなくて迷っていた時間の方が長い。でもそれは恥ずかしいので、隠したかった。
「大丈夫だった?私がしめてこようか?」
そうエルザがキョロキョロしながら言った。
「勘弁してくれ。ここは暴力厳禁だからよ」
そう禿頭の男は突っ込んだ。
(やば…)
「ま、まぁ解決したのでもう大丈夫ですよ」
そう言って、レインは誤魔化した。
◆
ルーレットのルールは極めてシンプルだ。
ディーラーが盤を回し、ボールを投入する。
それに対してどこに入るのかをチップを投じて、賭けるゲームだ。
入る数字、色を直接賭けることもできるが、
赤か黒か、奇数か偶数か、大きい数字か小さい数字かを選択して賭けることができる。
もちろん後者の方が的中率は高いだろう。
そして的中させた場合、賭けた場所によって配当倍率が決定する。
先ほどの歓喜の声を聞いた限りではエルザは勝っているようだ。
(ここは一回様子見しようかな…)
「1回だけ見させてもらっていいですか?」
レインがそう言うと、エルザが頷いた。
「今日は赤が来てるから…赤!!」
そう言って、エルザがコインを10枚赤に賭ける。
(いや…そんなに?)
このコインは2つで金貨1枚分ぐらいの価値がある。
「あの、そんなに賭けて大丈夫なんですか?」
そう言うと、エルザはぐいっとレインに近づいて言った。
「いい?レイン君。賭けに勝つ方法を教えてあげる。それはね…。大局を見極めて勝負時に大胆に打ってでること!!」
「だから!!怖じ気づいてはダメなのよ!!」
(目が怖い…。それにそのおじさんにいつも負けてるとか言われてなかった?)
「は…はぁ。」
そうして、ルーレットが回り始めた。ボールが弾き出されてマスの仕切りにあたり、カタカタと音がなる。
入ったのは【黒11】
「…………。」
それを見て、エルザが押し黙る。
「ま…まぁ?こんなときもあるわよ!」
エルザは平静を装っているが、顔は引きつってる。
「じゃあ、僕もやってみます。」
レインはコインを30枚用意して、エルザの方を見る。
「いや…。今日は赤がきてる!だから……」
そうして、コインを10枚赤に賭けた。
それを見て、レインは黒に5枚賭けた。
そして盤が回り始めて、玉が転がっていく。
【黒33】
そしてレインに報酬のコインが入る。
(おいおい……。これだけで倍以上に増えたよ……。)
そんなレインの横でうぅぅ……とエルザが唸り声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
「ええ……。大丈夫よ」
そう言いながら、エルザは顔をあげてワインを呷った。
そしてもう一度、開始する。
エルザは賭け額を5枚に減らし、黒に賭ける。
今度はエルザを真似て、黒に5枚レインは賭けた。
そして入ったのは【黒2】
「よっしゃああ!!」
エルザがそう言ってる横でレインも小さくガッツポーズをする。
「こ、これがキテるってやつですか!!?」
「そうそう!流石はレイン君だわ!!」
「よし!!」
そう言って、レインは黒に10枚賭けた。
それに続き、エルザも黒に10枚賭けた。
しかし、入ったのは【赤18】
「「…………」」
(ま、まぁ…。1回負けただけだ……)
そう思い、レインは赤に10枚賭ける。
エルザもレインと同じように赤に10枚賭けた。
しかし、入ったのは【黒35】
「ちっ……」
レインは自然に舌打ちをしてしまった。
横でバンッという音がなった。エルザが机を思いっきり叩きつけていた。
その後、また挑戦したが、2人は2回連続で負けた。
(おかしい……)
「はぁぁ…。もうなくなっちゃった……」
そう言って、エルザはため息をついた。
「ハハッ!残念だったな~。またコイン買うか?」
そう禿頭の男笑いながらが言う。
エルザは一回休み。レインのみでやる。
赤に5枚賭ける。
そうして、ルーレットが回り始めた。ボールが弾き出されてマスの仕切りにあたり、カタカタと音がなる。
レインは血眼になりながら、ルーレットを凝視した。
(ハァ…ハァ…。よし!!これは入る!!!)
【赤3】
「…………」
「お待たせ~。」
そう言って、エルザはレインの隣に座った。
そして禿頭の男も来てレインに話かけた。
「お?坊主。また負けたのか~」
「…………。ちょっと次は見てるよ」
「お、おお…そうだな。いい判断だと思うぞ。あんまりのめり込みすぎないのがいい」
そう禿頭の男がレインに助言した。
そして次はエルザがルーレットに挑む。
「絶対に取り返す!」
そうエルザは意気込んだ。
そうして、ルーレットが回り始めた。ボールが弾き出される。
だが、今回も予想が的中することがなかった。
項垂れるエルザ。
だが、カジノの負けでレインは冷静にディーラーを見ていた。
レインはゆっくりと席に立ち、ルーレットのマスを挟む仕切りに触れる。
「お、お客様!どうなさいましたか?」
ディーラーは驚きながら、レインに言った。
「…………」
「おい……坊主……。」
禿頭の男がそう言ってレインに近づく。
(……立証は難しいな。それに揉め事を起こすのもよくないだろう……)
数秒考えて、レインはその結論にいたる。
項垂れるエルザに向かってレイン言った。
「エルザさん。今日はルーレットはキテないのかもしれません。別の所に行きませんか?」
「ええ……。私は構わないけど……」
そう言って、エルザとレインはその台から立ち去った。
ディーラーと禿頭の男がその姿を見送る。
その姿を見ながら、禿頭の男が呟いた。
「まさか……。あいつ気づいたのか?」
「可能性は高いでしょう。申し訳ありません。」
「いや…。別にお前は悪くないだろう。俺だって事前にわかっていなかったら気付かねぇよ」
◆
レインとエルザは中央のバーに戻っていた。
「え?ルーレットが細工されてる?」
エルザはビックリしたような声で言った。
「あくまで個人的にそう思ったというだけです。確証なんてありません……」
レインは頼んだワインを飲んで続きを話した。
「ただ動いてるボールの軌道が不自然に変わったから、そう思ったんです。あのルーレットの仕切りって金属でできてますよね?そこに微弱ですが、魔力を感じたんです。属性は雷。」
「雷は通す金属によっては磁力を発するものがあるんです。この磁力によってボールの軌道を変えていたんだと思います。しかも、客に気取られないような極めて微弱な魔力で…です。」
「私は全然気づかなかったわ。」
そう言って、エルザは顔の前でてを組んだ。
「無理もありません。僕も気づいたのは偶然です。それにあれほど微弱な魔力なら磁力与えても玉の速度によっては制止させられない可能性は十分にあります。」
「それでも元々は赤か黒。5部の勝負でした。その磁力を使い、ある程度玉を誘導させることができるなら、向こうの勝率は5割は確実に超えるでしょう」
「ただこれを正確にする場合、これを使うディーラーは玉がどのマスに入るかを正確に把握できる能力が必要です。そうじゃないと、磁力を使用しても思った通りに玉を誘導できませんからね」
「その能力があるかは判断できないですし、あの場で指摘してもいくらでも言い逃れはできます。」
「なるほど~だから問い詰めなかったのね~」
エルザはそう思った。
「はい。僕が言ったことが正しいとは限りませんし、それにせっかくエルザさんに紹介してもらったのに出禁を食らう可能性だってありましたから……」
「うんうん。私に気遣ってくれたのね~。ありがとう~」
そう言って、レインはエルザに抱き締められながら、頭を撫でられた。
「あ、ああの…。恥ずかしいのでやめてください」
顔を真っ赤にしたレインはエルザの腕を掴んでほどいた。
(随分と酔っ払ってる。だがこれは美味しい情況かもしれない)
レインはしれっとそんなことを思っていた。
「恥ずかしいがらなくてもいいのに~」
酒で赤くなった顔でエルザはそう言った。
◆
ある程度酒が回った2人はトランプゲームができるエリアを目指していた。
(おかしい……。また足元が……)
顔が赤くなり、少しだけフラフラし始めたレインはそう思った。
すると、近くのテーブルから大きな声が聞こえてきた。
「ちょっと!!これイカサマじゃないの!?」
その大きな声の主は背丈が大きく、筋肉と色々なところが盛りあがった体型をしている女性だ。
「おいおい!何を根拠に言ってんだ?」
そう反論するのは警備係とディーラーだ。この警備係も大きい体型だが、女性の方がわずかに大きい。
「だって、もう6回も連続で負けてるのよ!!こんなの不正に決まってる!!」
そう癇癪を起こす女性。
「だから、証拠を出せよ!!あんまりしつこいようなら出禁にすんぞ!!!」
そんな騒ぎを聞いて、他の警備員やギャラリーが集まってきていた。
「なら!!お金返してよ!!」
女性がそう切実に訴えるが、聞き入れられるはずもなく…
「事前に言っただろうが!!負けた分はかえせねぇってよ!!」
それを見た白髪で短髪の男が群衆の中から出てきて、その女性と警備員の間に割って入る。どうやら知り合いのようだ。
「すまんな!うちのもんが……」
そう言って警備員ではなく、女性の方を押さえつけた。
「おい!お前ももうやめろ……」
必死に女性を食い止めるが、女性にジリジリと押し負ける。
(凄いパワーだな……。てか、あのオッサン。昨日戦った傭兵じゃないか……。)
「エルザさん。人が多くなりすぎたので、離れませんか?」
「え、ええ…。そうね」
そう言って、巻き込まれないように警戒しながら、離脱しようとするが、クローバーと目が合ってしまう。
「ん?お前……。レインじゃねぇか!おい!こいつ押さえるの手伝え!!」
(なんで俺が……。そして俺の名前を大声で呼ぶな!知り合いだと思われたくない!!)
「ん?おじさん。どこかであったかな?」
そう演技じみた声でいいながら、ずらかろうとする。
「ふざけてる場合じゃねえんだ!頼む!!」
(ふざける?僕は至って真面目だよ…)
だが、ギャラリー達の目はもう僕に向いてしまっていた。
「はぁ……。」
レインは頭の後ろを掻きながら、女性の後ろ側に静かに回り込んで、両足首を抱えて思いっきり横にタックルした。
どれだけ体重が重くても重心を崩されれば、人間は意外と簡単に倒れる。
倒れた女性に対して、クローバーは覆い被さり押さえつけた。
(女性にするような仕打ちではないが、まぁ仕方ないか…)
そして、女性は落ち着きを取り戻した。
「はぁ……。助かったぜ!ありがとな!」
「おじさん。これは貸しだからね。」
「わかったよ!あっちでなんか奢ってやるよ」
そんなやり取りをしてるとエルザが近づいてきて、耳元で囁いた。
「ねぇ。この人って昨日の…」
(やっぱり、姿を視認してたか……)
「はい。昨日オロチのアジトにいた傭兵です」
それを聞くとエルザが警戒した目を男に向けた。
それを感じたクローバーはエルザに言った。
「おいおい!そう警戒するな。俺は金にならない無駄な争いはしない主義だ」
「昨日はレイン君を殺そうとしてたんでしょう?そう簡単に警戒するなというのは難しいわ……。」
「仕事だからな。そしてそれはお互い様だ。なんなら俺らの方がこっぴどくやられたと思ってるんだが?」
クローバーは続けて言う。
「それに俺たちとお前らでは争う理由がないはずだ。お互いこの都市の勢力争いに興味なんてないだろ?」
「はぁ……。まぁ、それもそうね」
「だろ?だからあっちで酒でも飲もうや……。お互い武器も預けてるうえに魔力も使えねぇんだ」
(なんでこのオッサンはこんな距離が近いんだ…)
レインは純粋にそう思った。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




