聖騎士襲撃作戦④
聖都は通常の町とは違いある結界が空高くまで張り巡らされている。
その結界は人の肉眼では見えないほどの薄く、そして高度なものだ。
聖光結界。聖教の御神体となった聖女が太古の昔に張った結界だ。これは悪しきものの力を弱める効果がある。
魔物にも一定の効果はあるが、この結界で特に弱体化するのは悪魔族だ。
低位の悪魔ではこの結界内で存在を維持することすらできない。それほどの効力を持った結界だ。
この結界をものともしない悪魔はアスモデウスのような上位悪魔を上回る支配者階級の悪魔ぐらいだ。
そのため聖都では悪魔に関する事件や騒動は歴史上一度たりとも起こったことはない。
今日…この日までは……
オルストンにとってこの結界は邪魔なものでしかなかった。
だがこの結界は通常の魔法や物理攻撃では結界をすり抜けるため破壊できない。
「クライ。出てきてくれるかい?」
オルストンはそう言うと、クライが姿を現した。
このクライには実体がない。
「少しの間、僕を守ってもらえるかい?」
オルストンはそう言った。
「やるのか?」
クライがオルストンにそう問いかけた。
「ああ…。レイン君の機嫌を損ねてしまうかもしれないけどね…」
オルストンはある男からもらった【崩玉】という魔導具を取り出す。
この魔導具はあらゆるものを崩壊させる力をもつといわれている。物や魔法、魂などもそうだ。
闇市場でも出回ることがほとんどない珍しい一品だ。
この魔導具を魔法で空に向かい飛ばす。
すると空の結界に衝突した瞬間、みるみると結界が崩壊していく。
そして、オルストンはトライザントから持ってきた荷物を開ける。
そこに入っていたのは魔物の死骸。
綺麗な状態で保存されている。
そこにもうひとつの魔導具【黒い聖杯】を取り出す。
この魔導具は周囲にある瘴気を集める魔導具だ。
【崩玉】ほどではないが、珍しいもので闇市場でしか取引されることのない魔導具だ。
魔物の死骸とヒドラが殺した従騎士達の死骸から瘴気を集める。
それに反応したヒドラが逃げるようにトライザントの方向に飛んで行った。
集まった瘴気は黒く大きな靄となって上空に浮遊する。
準備は完了した。
オルストンは自分自身が契約している。真なる悪魔の名を呼ぶ。
「マモン」
黒い魔力がオルストンを包み込む。
オルストンに黒い翼と黒い角が生え、肌が臼黒く変化する。
オルストンは空に手をかざし、権能を発動する。
すると、大きな紋様が空に大きく浮かぶ。
そして、そこに自分自身が編み出した魔法を使用する。
「悪魔門。」
紋様の奥に大きな門が現れる。
そこから中位、低位の悪魔達が大量に流れ出してくる。
その悪魔達が紋様を通過したとき、その悪魔達は強欲の信徒となる。
オルストンが契約する真なる悪魔。
その名は【強欲のマモン】。悪魔王から分離した悪魔の1柱だ。
上位、中位、下位の悪魔を再現なく支配でき、その能力を自由に使役することができる能力だ。
本来人間は1体しか悪魔を使役することができない。
しかしマモンの力により複数体悪魔を使役し、支配することができる。
現在、オルストンには使役できる上位悪魔はクライしかいないが、中位、低位で使役している悪魔なら大量にいる。
強欲の信徒と成った悪魔達は聖なる都に向かって破壊活動を始めた。
目指す理想郷。悪魔憑きが安心して暮らせる世界を作る大きな一歩となる。
そう信じてオルストンは力を奮った。
◆
「おい!ドスケベ悪魔!!」
身体の主導権を渡してしまったレインがそう叫ぶ。
『誰がドスケベ悪魔だ!!』
レインの言葉に聞いてアスモデウスは反射的に怒鳴り返す。
「お前に決まってんだろ!!てか、何やらかしてくれてんだお前!!」
『何のことを言ってるのかわからないな?エロガキ!』
ドスケベ悪魔と言われた腹いせにアスモデウスはそう返した。
「何で結界を破壊したんだ!!」
『その方が奴らがわらわらと集まってくるからに決まってるだろ?』
「オルストンとエルザが撤退できてないだろ!」
『アイツらなら大丈夫だ!それよりもそろそろぶつかる!集中しろ!』
すると、アスモデウスは強大な魔力を感じ空を見上げる。
『この力はマモンか。正直、本当に使うとは思っていなかった。』
【強欲のマモン】の権能は他の悪魔の支配。
しかし、悪魔は階級が違うと強さに大きな差ができる。
オルストンが使役できる上位悪魔はクライしかいない。
だから、いくら中位や低位の悪魔を大量に使役していてもクライと釣り合う戦力にするには千体は必要になる。
だから、戦闘においてマモンの力は使わないと思っていた。
『なるほど…。聖騎士の注意が分散させるのが狙いか。』
数千体の悪魔達が聖都の隅々に散り破壊活動を行っている。
「アスモデウス」
レインは疑問に思ったことをいくつかアスモデウスに問いかけようとすると5匹の犬型の聖獣が噛みついてきた。
『中々だな…。だが…』
犬型の聖獣全てに攻撃を拳を叩き込みんで振りほどく。
聖獣はアスモデウスの拳により破壊されるが砕け散った粒子は再度集合し、聖獣は元の姿に再生される。
「投降しろ少年。今止まらなければ怪我だけではすまんぞ?」
聖騎士リーゼロッテがアスモデウスの前に来てそう言い放つ。
リーゼロッテの後ろには背中に翼が生えた一際大きな犬型の聖獣が控えている。
リーゼロッテの言葉を聞き、アスモデウスは小さく笑う。
『お前に私は止められないぞ?』
そう言うのがわかっていたかのようにリーゼロッテは聖獣に合図をおくった。
背後にいる聖獣は翼を振ると辺り一面が渦潮のように強力な回転力を持つ流水に包まれる。
そこから水の槍が次々と襲いかかってきた。
それに合わせるように5体の聖獣達が一斉に攻撃を開始する。
『レイス。やれ…』
レインは舌打ちしながら、血操術を発動する。
アスモデウスはレインの力を借りなければ、この身体で血操術は使えない。レインは身体を渡す際にアスモデウスが暴走する可能性を考慮していた。
そのため血操術による主導権だけはアスモデウスに譲らなかった。先ほどのように暴走した際に捕らえるために。
レインは水の槍に対抗して血の槍を放つ。
しかしレインが作る槍のほうが強度が比較にならないほど強いため、水の槍を貫通して渦潮に直撃する。
すると渦潮は水飛沫となって霧散する。
そして血の鎖を場にいる全ての聖獣に向かって放つ。
数十本ほどの血の鎖がリーゼロッテの聖獣達を捉える。
リーゼロッテの背後にいる聖獣は力が強く引っ張られそうになったので、鎖の本数を増やしてより強固に締め上げる。
「…お前その技!!」
リーゼロッテは血操術を知っているようだった。
『レイス。そいつらの支配権を奪え!!』
(コイツ…俺を顎で使う気か!!?)
アスモデウスの態度に苛立ちを覚えた。
「支配権だと!そんなの奪えるものか!!」
リーゼロッテにとって自分の聖獣を奪われるなんで
恥もいいとこだ。
アスモデウスの発言に憤りを感じた。
「無茶言うなよお前!!でも…動きは封じた」
レインがそう言うと捉えられている聖獣はぐったりとした。
魔力の供給部分を抑えたため、聖獣達は魔力を自由に働かせることができなくなった。
『ふむ…。まあ及第点だ。』
(コイツ…)
アスモデウスの態度にレインは再度ピリついた。
聖獣を封じられたリーゼロッテにアスモデウスは悠然と近寄っていく。
「クソ!!」
リーゼロッテは自身の剣を抜き放つ!
突進して突きを放つがアスモデウスはそれを見切り、手首を掴んで引っ張る。
剣を封じられたリーゼロッテはアスモデウスに対して蹴りを放つ。
アスモデウスはそれをものともせずに手首を握る力を強める。
「ぐうっ!」
リーゼロッテは苦しい声をあげる。
リーゼロッテの顎下を持ち上げ、自分の顔に近ずける。
『中々可愛い顔してるじゃないか…。』
「なっ……」
アスモデウスの言葉にリーゼロッテの顔は紅潮し、動揺を露にする。
(コイツ!!!人の姿と声で何言ってやがる!!)
レインはその光景を見て怒りと焦りがこみ上げてくる。
「ちょっ……やめ…」
制止を聞かずにアスモデウスはリーゼロッテに口を近づけた時、アスモデウスの身体が動かなくなる。
『ぐうぅぅぅ!!』
レインの魔法を使用して近づいてきていたエルザが背後に回ってアスモデウスの首を締める。
「確か気を失えば身体は入れ替わるのよね?」
エルザは赤い眼光を光らせて、怒りを滲ませながらそう言った。
『貴様!!図に乗るなあぁぁ!!』
そう言って、エルザを殴り飛ばそうとするができない。屋敷を出る前にレインと魔法で誓約を交わしているからだ。
エルザに手を出さない代わりにレインもアスモデウスの邪魔をしないという誓約だ。
レインはリーゼロッテの方に意識を向けるが何故か失神していた。
それにより聖獣達も消滅している。
『く、うぅぅぅ……』
アスモデウスの唸り声が途絶えて意識を失った。それに連動してレインの意識も遠退いていった。
◆
オルストンは屋敷の高所から街全体の戦況を眺めていた。
数分前に聖騎士達が悪魔達の対処に乗り出してからだいぶ押し込まれたがそれでも聖都中に散った悪魔を全て滅することに苦労しているようだ。
序列1位のランスロットはまだ教皇の側を離れていない。
そして序列2位のアリアスは聖都を離れており、4位のモーゼスはレインにやられている。
そのおかげで当初想定よりも長い時間破壊活動を行えている。
「ほう…良い眺めだな。」
オルストンの横にフードを被った男が来た。
「【傲慢】…」
オルストンは怪訝そうな顔をしたが、その後ろにいる赤髪をツインテール結んだその少女を見てその表情が引っ込む。
「リズベル!!」
オルストンはそう叫んで少女に抱きつこうとするが、少女の前蹴りがオルストンに炸裂する。
「う……ううううう。」
腹に蹴りを貰いオルストンは蹲った。
「はぁ…はぁ…。リズベル!会いに来てくれたのかい?」
オルストンは満面の笑みでそう聞いた。
「うん。ていうか連れ戻しにきた。」
リズベル眉にシワを寄せてオルストンにそう言った。
それを聞いてオルストンは真顔になった。
「そっか……。うん。ありがと…。」
「すまんなオルストン。こいつ言い出したら聞かなくて…。怒り狂う前にここに来たんだ。」
男がそう言って、オルストンに謝罪した。
「【色欲】の所在はわかった。今回はそれで十分だ。」
「そのためにわざわざこの国まで来てくれたのかい?」
「まあ…それだけではないんだけどな…。」
男はそう言うとリズベルを見た。
オルストンは下を向いた時にリズベルの手が血で濡れていることに気づいた。
「リズベル!それ…」
「あ……ごめん。」
そう言って、リズベルはハンカチで手を拭いた。
「序列3位イグニスを始末した。」
「ここに来た理由はそれも兼ねてる。2位のアリアスが聖都を出ていて、【色欲】が4位のモーゼスを抑えているこのタイミングが絶好の機会だったんだ。」
「モーゼスの能力はリズベルと相性が悪いからな…」
「なるほどね……」
オルストンは男の意見に一切疑問を抱かずにそう言った。
「これで聖教の力は今日で大きく削がれることになる。」
「兄者」
リズベルはそう言って、屋敷内で倒れているモーゼスを指差す。
「あれ…死んでないよ?」
リズベルが指差した方向を男は見た。
「ふむ………」
男が少し考えた末に答えた。
「いや、あれは始末しなくていい。アイツは【色欲】の支配下に入っている。生かしておいたら今後便利に使えるかもしれないからな。」
男はそうすらすらと答えた。
「帰るよ…」
リズベルがそう言うとオルストンは立ち止まる。
「どうしたの?」
リズベルがそう聞くとオルストンは重い口を開ける。
「先に行っておいてくれないかい?最後に挨拶くらいはしておきたいから…彼らに」
「……わかった。」
男はオルストンにそう返し、先に聖都から出た。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




