聖騎士襲撃作戦 ~ RESULT ~
周囲が赤色に染まる部屋でレインは意識を取り戻す。
これと同じものをレインは見ている。
今はまだいないがおそらくここにアスモデウスが現れるはずだ。
すると、いつもここで見る姿でアスモデウスは現れた。
表情を見ると少し苛立ちを含んだ顔をしている。
怒りたいのはこちらの方だがレインは冷静を装いアスモデウスに声をかけた。
「やってくれたな…。ドスケベ悪魔。」
『お前マジでその呼び方やめろ。私の威厳関わる』
アスモデウスは低い声でそう言った。
「以前話してた前任者。そいつを破滅に追いやったのはお前だろ?勝手に潰れたみたいな言い方しやがって…」
レインの身体を掌握したアスモデウスの行動を見てレインはそう思ったのだ。
『私はただ実際にあった事実を述べただけだ。お前がそう勝手に解釈しただけだろう?』
『それに前任者はお前が耐えられていた衝動に全く抗えていなかった。半分以上は奴自身の責任だ』
ここで言う奴というのは前任者のことだろう。
「それでお前は今後どうする?もう一度俺の身体をどこかのタイミングで乗っ取る気か?」
レインはアスモデウスを睨み付けた。
『それは難しいだろうな。お前に警戒心と不信感を与えてしまったからな。』
「………」
レインは黙って次の言葉を催促する。
『私の欲しいものはわかってるだろう?それが満たされればひとまずはそれでいい……。』
「ひとまずは…か。」
『ああ…ひとまずだ。約束はできない。』
「いや…約束してくれよ。」
『できないな。お前は今後ずっとあの衝動に耐えられる自信はあるか?』
「正直自信はないな…。だが、それは関係ないだろう?」
『いや…ある。言っただろう?お前の感覚を私は共有していると…。今回私は我慢ができなかった。』
(言っていたなそういえば…。ということはこれの抑え方はアスモデウスも知らないということか…)
「わかった。考えはあるから解消できるようにするよ。それでいいか?」
『ああ。お前が理解したなら私が言いたいことはもうない。』
「後、お前はオルストンが使った『あれ』については知っていたのか?」
『ああ…』
「何で教えてくれなかったんだ?」
レインはそれが疑問で仕方なかった。
『お前が私に聞かなかったからな…』
(お前はそういえばこういう奴だったな…)
レインは頭を抱えたくなった。
「なら、俺の質問にいくつか答えてもらえるか?」
「まずはオルストンという人間についてだ。」
レインがそう聞くとアスモデウスは素直に語り始めた。
◆
エルザは意識を失ったレインを連れてベースキャンプに戻っていた。
聖都では悪魔達の破壊活動により騒然としていた。
それにより難を逃れることができた。
(アイツ…あそこまでやる?)
エルザはオルストンがあそこまでのことをやるとは思っていなかったのだ。
オルストンの過去についてエルザは何も知らない。
聖教に対して強い反感を持っていることは知っていたが、何も知らないな信者。つまりは大勢の一般市民を巻き込むような事をするとは思っていなかった。
あれではまるでテロだ。
レインからオルストンが何か企んでるというのは聞いていた。だからあれは予め計画していたことなのだろう。
悪魔が好きな変人。それだけではあそこまでの事をする動機としては弱い。
無法都市にいる人間はそれぞれ何かしらの事情を抱えた人間が多い。それ故にオルストンに対して深入りはしなかった。
だからこそ動機、理由がわからなかった。
そう考えていると森の奥から足音が聞こえてくる。
わざわざ警戒するまでもない。この足音の癖はオルストンだ。
「お疲れ様…」
オルストンはそう言って近付いてきた。
「お疲れ様。随分と…派手にやったのね。」
「ああ…。あの状況ではああするしかなかった。」
確かにそうかもしれないが、あれは咄嗟の思いつきでできるようなものではない。
「レイン君はいる?」
「気を失っているわ…。どうしたの?」
「そうか…。できれば直接言いたかったけど、僕はこの国を出ることにしたんだ。それでこれから出発するんだ…」
エルザは時が止まったかのように沈黙する。
「そ…そう。ちょっと待ってね…」
さすがにレインは起こした方がいいと思い、名前を読んで体を揺さぶった。
すると、今回は一瞬で目を覚ました。
「オルストン…お疲れ様。そしてエルザは…迷惑かけた…」
「レイン…。今は私の話はいいわ。オルストンの話を…」
エルザはレインの話を遮ってそう言った。
「レイン君。僕はこの国を出ることにするよ…」
レインは少し目を見開いた。しかし、驚きの様子はなかった。
「そうか……。とうとう帰るんだな…」
レインがそう呟いた。
エルザはレインの言葉が引っ掛かったが今は沈黙を貫く。
「世話になったな……オルストン。ありがとう。」
レインはそう言って頭を下げた。
「いつになるかわからないけど、またここに戻ってくるつもりだからさ…。その時はまたよろしく頼むよ。」
オルストンはそう微笑んだ。
「ああ…」
レインはそう言ってオルストンと握手を交わした。
そう言ってオルストンが立ち上がり、後ろを向いて歩き出す。
「ああ…言い忘れていた。オルストン!」
そこでレインが最後にオルストンに声をかけた。
「何だい?」
オルストンは振り返ってそう言った。
「向こうに着いたら言っておいてくれ。あまり俺の周辺を荒らすなってな…。」
そうレインは微笑みながら言った。
「えっと……誰にだい?」
「【憤怒】と【傲慢】にだよ。いや…リズベルとマルクスと言った方がいいか?」
レインの言葉にオルストンは冷たい汗が流れる。
(ま…まさか…。記憶を見られたのか!?)
オルストンから見たレインの顔はとても恐ろしく感じた。ということはアジトの所在なども知られているだろう。
「誰のことだい?」
そうオルストンが言った。
オルストンの言葉には返答せず、レインは続けた。
「次会うときも俺の恩人であるオルストンとして会えることを祈ってるよ。」
(これは…警告か?)
オルストンはレインの言葉をそうとらえた。
「勿論さ…。」
オルストンはそう言って、立ち去って行った。
それを見送るとエルザはレインに行った。
「良かったの?」
「ああ…。寂しいけど俺に止める権利はない。」
少し寂しそうにレインはそう言った。
「貴方がそう言うならいいけど、それよりも最後に言った言葉はどういう意味?」
エルザにはレインがオルストンに言った言葉の意味がわからなかった。
「オルストンの大規模な召喚魔法って見た?」
ふとエルザにレインはそう聞いた。
「ええ……。まさかあそこまでの大規模な魔法を用意してるとは思っていなかったわ。」
「あれをお膳立てした奴がオルストンの仲間だ。そいつに警告したってところかな…。」
「ああ…そういうことね。確かにあれはやり過ぎよね。」
エルザの言葉にレインは頷いた。
「仕事でターゲット以外の人間を故意に巻き込むのは俺の美学に反するからね…」
レインは自分が人殺しをする最低な人間であると自覚しているが、それでも自分なりの守りたいルールのようなものは持ち合わせている。
「詳しくはまた帰ってから話すよ。それよりエルザ。血…いる?」
今日は自分からそれを言った。
「…………いる。」
レインは発作がでないようにできるだけ肌の接触面積を減らして輸血する。
満足そうにするエルザ。
「じゃあ俺は先に無法都市に戻って、依頼完了の報告だけしてくるよ。」
レインはそう言って自分の荷物を纏め始める。
「え?何で?ここで一泊していけばいいじゃない?」
エルザはさも当然のようにそう言った。
「エルザと一緒にいると……ほら!あれだよ!発作が出るから。」
エルザと目線を合わさずにレインはそう言った。
「そう…。わかった。」
そう言って、エルザはベースキャンプを出る。
「じゃあ、私も一緒に行くわ…。1人でこんなところに寝てても怖いしね…」
「え?」
豆鉄砲を食らったような顔をしてエルザを見る。
「何で?」
少し間が空いてしまったが、レインはそうエルザに聞いた。
「ん?何でってどういうこと?」
レインの不自然な反応にエルザはそう突っ込んだ。
エルザにはレインが少し挙動不審に見えたのだ。
「レイン。何しようとしてるの?」
エルザが目を細めてそう聞いた。
「いや?べ、別になにも?」
少し動揺しながらレインはそう答える。
「嘘つくんじゃないわよ!何しようてんの!!」
エルザは怒気を強めてそう言った。
レインは気持ちが落ち込んでいる状態だ。そんな中1人にするのは危険だと判断したのだ。
それにレインは今回、エルザに危害を加えている。
「何でもない!!」
レインは立ち去ろうとするが、エルザがレインの服を掴む。
「んなわけないでしょうよ!!正直に言いなさい!!」
そう言うとエルザが服を掴む力が強まる。
服が破れそうになっていたので、レインは抵抗をやめた。
「それで?」
エルザはレインに詰めよった。
「し、し……」
中々言葉が出てこず、レインの顔が紅潮していく。
それを見てエルザは少し違和感を覚えた。
(なんか…思っていた反応と違う…。)
「しょ…娼館に行く…から。」
レインにとっては、秘蔵のエロ本が見つかってしまったときのような恥ずかしさだった。
だが、レインはアスモデウスとの約束を果たさなければならないのだ。
それにレインも内心行きたかったのだ。
「あ……うん。そっか…」
それを聞いてエルザの顔も紅潮していく。
レインはこの空間に気まずさを感じてしまい、身支度をすませる。
「じ、じゃあ……」
そう言って、暗い森に向かって歩きだした。
すると、強い力で手首を掴まれた。
振り返るとエルザが下を向きながら、レインの手首を握りしめていた。
手から発せられる熱がジリジリと伝わってくる。
「そ、それ……。私じゃダメ?」
下を向いているため表情は見えない。
「え?」
◆
悪魔門が聖都の上空で開いた事件の翌日
聖都の大聖堂の奥にある大きな会議室に30人程度の老若男女が集められていた。
彼ら彼女らは神聖ブルガリア王国を代表する優れた暗殺者達だ。
そんな会議室にある男が入室する。その脇に2人の聖騎士も同行している。
「皆の者召集に応じてくれたこと感謝する。」
そう男は会議室にいる全員に言った。
「これだけのメンバーを集めて一体どうしたというのですか?メルヘン伯爵?」
若い暗殺者が男にそう言った。
「皆も知っていると思うが、昨夜この聖都は結界を破られ、悪魔達に襲撃された。それを行ったのは【ユートピア】と呼ばれる世界的な犯罪テロ組織だと言うことがわかった。」
それに対して初老の男性が口を開く。
「つまり彼らを調査して始末せよということですか?」
「いや…違う。それもこちらとしては由々しき事態ではあるが、その際に聖騎士が3人殺され、2人が重軽傷を負って、そのうちの1人は未だに目覚める気配がない。」
「これに聖教上層部は怒り狂っている。被害に会ったうちの2人は【四騎士】だ。」
それを聞いて、会議室がザワついた。
「序列3位イグニスは死亡し、序列4位モーゼスは意識不明の重傷だ。」
「イグニスの死亡は【ユートピア】の仕業だと結論づいたが、それ以外は違う。」
「君たち始末してもらいたいのはイグニス以外の4人を襲った下手人だ。」
「なるほど…。そいつは我々全員で挑まなければマズい相手なんですか?」
メルヘンに対して、再度若い男が質問を投げ掛けた。
「上はそう判断しているようだ。」
そう言って、メルヘンは今回の標的の名前を口にする。
「君たちには暗殺者レイス=クロードの討伐を依頼する。」
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




