聖騎士襲撃作戦①
レインとエルザは夕方あたりにオルストンと合流し、夜襲を行うべくイノケンティス邸から数百メートルほど離れた高い建物の上から屋敷を見る。
今回はナイトメアの構成員達も応援に駆けつけてくれている。
というのも戦闘を行うためではなく、生け捕りにするように言われてる奴隷や使用人を回収するための人員だ。
「数が多いわね…」
エルザがそう呟いた。だが前段階で知らされていたため驚きはない。
「ターゲットは3階奥の部屋かな?」
千里眼で位置を特定する。
1人目は薄黄色の髪をした美少年。
2人目はその少年から見て左に座っているのは髭の長い坊主頭の男性。
3人目は赤い髪をした不精髭を生やした男性だ。
「あのガキかなり強いな…」
1人目の美少年を見てレインはそう呟いた。
「もしかして、あれがイノケンティス?」
レインは確認のためそうエルザに聞いた。
「………違う。今回のターゲットであるイノケンティスとドロアスは他の2人のこと。左がイノケンティス。右がドロアスね…」
「なら…あれはだれだ?」
当然のようにレインは聞いた。
「………あれは聖教十二騎士序列4位モーゼス。」
「ヤバいな。あれ……。あれが【四騎士】か。」
魔力量だけで言うなら、かつてレインが葬った帝国の将軍を上回る。
「どうする?レイン君」
そうオルストンは聞いてきた。
「モーゼスは俺がやる。イノケンティスはエルザに任せる。」
「了解」
「ドロアスはオルストンに任せようと思ったが、あれくらいなら問題ない。エルザか俺がついでに殺す。」
「オルストンは全体の後方支援と援軍が来た場合の対処を頼む。」
「いいのかい?」
オルストンは前線に出ないことが気になりそう聞いた。
「いや?問題ない。援軍が来られた方が厄介だしな。それに幻覚の結界は魔導具に記憶させてるよね?オルストンはそれの起動もお願いしたい。」
レインの言葉にこくりと頷く。
「悪いな。モーゼスと戦う上で余計なリソースを使いたくないんだ。」
これまでにないくらい真剣な目をしていた。
レインにはあの少年がこれまでにない程の脅威に感じられた。
「もし、聖騎士に気取られたらどうする?さすがに聖騎士クラスが複数人がここに加勢に来られたら僕ではどうすることもできないよ?」
そうオルストンはレインに問いかけた。
レインはオルストンをじっと見る。そして少しだけ口角を上げた。
「オルストン。本当にどうすることもできないって思ってる?」
それを聞いてオルストンの目が見開いた。
「いや…今の言葉はお前の本心だとは思えなくてね。」
オルストンは少し黙ってしまう。
それにエルザは訝しげな目を向ける。
「まぁいい…。その時は撤退しよう全員で。」
「だから、標的の始末と内部の人間の回収を最速で終わらせる。標的の始末に手間取った場合、状況に応じて加勢してほしい。」
「わかったよ。」
そう言ってオルストンは了承した。
作戦はヒドラを使い、100人近くの従騎士がいる広場を襲撃させる。ヒドラであればあのくらいなら殲滅するのは容易だろう。
それに引っ張り出された聖騎士をレインとエルザで狩り、10体のジェットウルフが人質、使用人を連れてくる役目だ。
今回はナイトメアの構成員達が屋敷の周囲に控えている。ジェットウルフにはそこまで誘導を行ってもらう。
オルストンは陣形におころびが生じた際のアシストだ。
レインが合図を送った数分後、ヒドラが屋敷の上空を旋回し始める。
レインが合図をするとヒドラは急降下し、従騎士達が集まる広場に飛び降りた。
そしてヒドラは周りにいる従騎士に対して無差別に攻撃を仕掛ける。
広場は一瞬にして喧騒に包まれた。
「さて、2人ともよろしく」
レインがそう言うと行動を開始した。
◆
ヒドラが降り立ち広場が騒然とする。
既に舞台の幕は上がった。もうここからは引き返せない。
エルザはこれから聖教の最大戦力の1人を相手にすることになる。以前までのエルザはであれば確実に足が竦んでいただろう。
しかし、そんなことに思考を奪われることはなかった。
数分後、騒ぎを聞きつけたであろう聖騎士3人が外に出てくる。
レインが動いたのを見て、瞬時にエルザも攻撃を繰り出す。
威力を上昇させた爆発型の魔法弓を放つ。
(この程度で倒れないでくれるといいけど…)
エルザはらしくもなくそう思った。
その矢に気づいたイノケンティスは剣でそれを防ぐ。
しかし、剣に接触した瞬間に矢が爆発し、大きく吹き飛んだ。
エルザはそれを見て自ら距離をつめながら、矢を放つ。
受けることを諦めたイノケンティスは矢から逃げるように屋敷内を走る。
イノケンティスが家の角に差し掛かったところで待ち伏せしていたエルザの蹴りが顔面に炸裂した。
「ぐふっ!!」
鈍い声をあげたイノケンティスが吹き飛んだ
イノケンティスはヨロヨロと立ち上がるとエルザを視界に捉えた。
「お前達は何者だ!」
鋭い眼光をエルザに向けて低い声でそう言った。
「誰でもいいでしょ?」
そう言ってエルザはイノケンティスに襲いかかる。
エルザの剣をイノケンティスが受け止める。
「くっ!!女の癖にすげえパワーだな…。」
「ありがとう」
そう言って、エルザは前足でイノケンティスの胴を蹴りつけた。
しかし、それに反応したイノケンティスは前足で防ぐ。
「足癖の悪い女だ。だが、お前みたいな女は嫌いじゃねえ…。調教しがいがあるってもんだ。」
「へぇ…。どうやってするのか教えてもらってもいいかしら?」
挑発的な表情でエルザはイノケンティスを見る。
「なら、教えてやるよ!」
凶悪な表情で嗤うイノケンティスは剣を抜いてエルザに向かって剣を振り抜く。
エルザはそれを避けるが、その瞬の隙をイノケンティスは見逃さなかった。
避けて体勢が崩れたとこに攻撃を仕掛ける。
しかし、エルザに避け、イノケンティスの胴に剣を突き刺した。そしてその剣が腹の中で爆発した。
「ぐあああっ!!」
イノケンティスは腹部を抑え、後方に後退る。
「あら?今の一撃で腹部の半分が焼失するはずだったんだけど…。貴方頑丈ね…」
「ハァ…ハァ…。舐めるな。俺は【スキル】によって火属性の耐性を有している。」
「へぇ…それが神から与えられる加護。【スキル】ってやつね?でも…完全に無効化はできないようね?」
イノケンティスの腹は少しだけ焼け付いている。
「舐めるな…。これくらい!」
イノケンティスは腹部の傷をゆっくりと回復させていく。
「御礼として、いたぶり尽くした後に惨めに殺してやる!」
苦虫を噛み潰したような顔でそういい放った。
だが…イノケンティスはエルザの様子を見て唖然とする。
「お前……何笑っている…。」
その一言を聞いてエルザは自分の口元に触れる。
「ああ…。最近ちょっと酷いのよね~。」
「ウフ…ウフフフ。」
エルザは興奮が抑えられず、笑い声を吹き出す。
「な…何がおかしい!!」
エルザはそれに答えず、舌を出し自分の剣についたイノケンティスの血をゆっくりと舐めとる。
イノケンティスはゾクリと背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「不味い…」
エルザはイノケンティスの血を含んでそう吐き捨てる。
イノケンティスは固まっている。
「不味いけど…耐久力はあるからそれで許してあげる。」
「な…何を言っている?」
動揺を隠すことができずにイノケンティスはそう言った。
「言ってる意味がわからない?耐久力があるならじっくりと楽しめるでしょう?貴方の血を。腹を裂いて、内臓を切り裂いてゆっくり味わってあげる。」
「死んでからでもいいんだけど、やっぱり生き血の方が魔力が多くていいのよね。ほら…食事でも鮮度の良い物の方が美味しいでしょう?それと同じよ…。」
赤い眼光を光らせてエルザ饒舌に語る。
「ああ…。いけないわ!レインからは標的は迅速に始末するように言われてるんだった!!」
レインの言ったことを思い出し、残念そうにするエルザ。
「このイカレ女が!!」
そう言って、イノケンティスは魔法陣を作る。
すると魔法陣の中から光輝く怪鳥が3羽吐き出されるように出てきた。
その怪鳥はそれぞれ1メートル程度でかなり大きいサイズだ。
「聖獣ってやつ?」
聖騎士は聖獣と呼ばれる召喚獣を使役する聖騎士がいる。
「よく知ってるじゃねえか。」
イノケンティスの合図で一斉に怪鳥達口を開けてが襲いかかる。
エルザはその3匹を斬り伏せる。
しかし、その怪鳥はみるみる再生していく。
それを見てエルザは面倒臭そうな顔をする。
「ハハハハッ。どうだ?コイツら永続的に再生して死ぬまでお前に襲いかかるぞ!」
エルザは冷静に鳥を観察する。
この3匹はイノケンティスの指示に従って攻撃を繰り返しているようだ。
自立的に動くレインの従魔とは少し様子が違う。
「フッ」
エルザは少しだけ笑みがこぼれる。
「あ?」
イノケンティスがそう呟いた瞬間に魔獣の如きスピードでエルザはイノケンティスを肉迫する。
エルザはレインとジョーカーが戦った時の事を思い出した。
ジョーカーがレインをテイマーと見るや否やレインに対して超接近戦での戦闘に切り替えたのを思い出した。
従魔は主人を攻撃することができない。そのため主人がいる周辺での攻撃を躊躇う。
さらに主人も接近されれば従魔に対して的確に指示を出す余裕がなくなる。
ここでの最善手は接近戦での短期決着。
召喚師も調教師も実質のところ弱点は同じだ。
エルザはイノケンティスに対して、連撃を加える。
イノケンティスも懸命に受けるがスピードとパワーの面でエルザに遅れを取った。
しかし、イノケンティスも黙ってはやられない。身体に傷を負いながらもエルザの攻撃を避け続ける。
だが、防戦一方の状態だった。
(このままでは押し切られる。)
そう思ったイノケンティスは一撃をもらう覚悟で体重差を利用してエルザにタックルを与えて押し倒す。
下になったエルザに馬乗りなり、剣をエルザの顔面を突く。
しかし、エルザは剣を手の平で受け止めた。
剣は手の平を貫通し、流血がエルザの顔に垂れる。
「さあ!!終わりだ!!」
貫通した剣を押し付けてエルザの顔面に突き刺そうとする。
しかし……
(う、動かない。)
エルザの手はイノケンティスの剣を力強く握りしめている。
イノケンティスはふとエルザの顔が目には入る。
エルザの顔は凶悪な笑みが溢れており、顔面に垂れた血を舌で舐め取っている。
「うぅぅ!」
イノケンティスはそれを見て戦慄した。
(こいつ!痛みとか感じねえのか!?)
イノケンティスの剣はエルザの力により顔の横。地面に突き刺さる。
剣を離そうとした次の瞬間、エルザがイノケンティスの手首に噛みついた。
「ギャアアアアアア!!」
肉を炸く音がしてすぐイノケンティスの絶叫が屋敷中に響き渡る。
手を引っ張っても振り切ることができず、イノケンティスは立ち上がり、エルザの顔面に蹴りを入れることでようやく離れた。
手首を押さえるイノケンティス。
しかし、イノケンティスは呼吸を整える暇もなく、エルザの後ろ回し蹴りが後頭部に炸裂して吹っ飛んだ。
イノケンティスが壁に激突しても間髪入れずにエルザは指を銃のように構えて魔法の弓矢を作り、放った。
3つの矢が全て命中し、轟音を撒き散らして爆発した。
その瞬間、3匹の怪鳥の姿が掻き消えた。
「うう……」
イノケンティスは体の一部が焼ききれて満身創痍になって倒れていた。
まだ意識はあるようで手首の損傷部に手を当てて必死に回復魔法をかけている。
エルザはイノケンティスが回復魔法をかけてる手をおもいっきり踏み抜いた。
「があああああ!」
イノケンティスは悲痛な声をあげる。
「いい鳴き声ね…。もっと聞かせて?」
エルザそうイノケンティスの耳元で囁いた。
「ハァハァ…。この外道が!!」
イノケンティスはエルザに対して怒鳴り散らす。
「なんだっけ?私を調教するって言ってたわよね?」
「うう…」
「聞くところによると女性の奴隷を大量に飼ってるって話だったけど…。全員にこんなことしてたんじゃないの?」
そう言って、イノケンティスの腹におもいっきり剣を突く。
その剣で内臓をほじくるようにぐりぐりする。
「ぐああああ!!」
イノケンティスは涙を流しながら、悲鳴をあげる。
「貴方の罪が理解できようね。」
そう言って、イノケンティスの血を再度舐めとる。
「やっぱり貴方の血じゃ渇きが満たされないわ…。これ以上やっても仕方ないし、そろそろ…ってもう死んでるわね。」
そう言って、エルザは立ち上がり剣を抜く。
エルザはレインがいる方向を見ると、とてつもなく禍々しい魔力が放出されているのを見た。
(あれ…ヤバいんじゃない!?)
そう思い、レインがいる方向に走って行った。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




