伯爵家の毒舌メイド
レインはリデルから開業に関するイロハを聞いた後、夕食の約束をした。
アリスが習い事から帰って来るようでそれでだ。
エルザも一緒に来れることになったが、不思議と少し嫌そうだった。
リデルの商会を出た後はブラッドレイ伯爵家に向かう。
屋敷は王都の一等地に立てられており、広い庭がある大きな屋敷だった。
「ここはちょっと気をつけなければならないね…」
「……ん?何のこと?」
本当に何のことかわからないかのようにエルザはそう言った。
「何って…発作だよ。」
「ああ…。でもさっきは大丈夫だったじゃない。」
確かに先程は大した発作は起きていなかった。
「いや…この状態でセシリアのあの胸を見ると流石にヤバイ気がする…」
レインは真顔でそう言った。
「あ…そう。その時は私がぶん殴ればいいの?」
少し突き放すようにエルザが言った。
「乱暴すぎるだろう……。」
レインは物騒なことをいうエルザに苦笑いをしながらそう言った。
「乱暴なものですか…。視姦されるのって女性からしたら結構苦痛なのよ?関係が浅い相手なら尚更ね。」
「そっか…。逆に関係が深かったら許されるの?」
「そうね…。私も恋人なんていたことないからわかんないけど…。許される場合もあるんじゃない?恋仲だったらやることやってるでしょうから…」
(やる…こと…?)
レインはまた顔が紅潮して、息が荒くなってくる。
レインの様子がおかしいことに気づいたエルザはレインに声をかける。
「ちょっと!!レイン大丈夫?」
そう言って、エルザがレインに駆け寄る。
だが、それは逆効果だった。
レインはエルザの手首を掴み、壁に押し付けた。
レインがエルザに顔を近づける。
「ちょ…ちょっと…」
エルザがそう言うと、屋敷の門が開く音がした。
レインは反射的にそれを見た。
いい身だしなみをした男性とその使用人と思われる男性と女性が出てきた。
男性はレインよりも少し年齢が上に見える見た目だ。
レインはそれを見ていると、エルザから強烈な一撃をもらった。エルザはレインが余所見をした瞬間に金滴に強烈な蹴りを放ったのだ。
「ぎゃああああああああ!!!!」
レインはその蹴りに悲鳴を上げた。
レインの紅潮した顔は青くなり、地面にじたばたと魚のように転げ回る。
「ここではやめてちょうだい?私、そんな趣味はないの」
男性は声を上げるレインに対して軽蔑するような目線を向けて立ち去っていった。
「ハァ…ハァ…。ありがとう…。冷静になったよ。」
地面に膝をつきながらレインはそう言った。
「どういたしまして。でも私も配慮が足りなかったかもしれないわね。」
レインは立ち上がり、スボンの汚れをパンパンとはらった。
「じゃあ、入ろうか…」
先客がいることはセシリアから聞いていた。
その先客が帰ったことを確認したため、レインは中に入って行く。
門をくぐると横にメイド姿の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ。お客様…。お待ちしておりました。」
そう言って、見本となるようなお辞儀で一礼した。
「ご丁寧にありがとうございます。」
レインはそう言って、一礼するとそれに続いてエルザも一礼した。
「お嬢様がお待ちになっております。こちらにどうぞ。」
そう言って、メイドが先導する。
(何だろう?言葉に感情が入ってないから不気味だな…)
レインはそのメイドを見て、そう思った。
ある程度レインの事について聞いているはずだ。
身分の低い人間をもてなす事に抵抗感でも覚えているのかとレインはそう推察した。
それに…。レインはメイドの全体を視界に捉える。随分と無駄のない動きだ。戦闘経験が豊富であることが見ただけでわかる。
そして筋肉の質から考えると、おそらく暗殺者。
「すみません…なんか…。気に障るようなことがありましたか?」
レインはそのメイドにそう言った。
「何のことでしょうか?」
メイドはレインに背を向けたままそう言った。
レインにはメイドの表情は見えない。
「いや…。何となくそのような気がして…」
メイドは立ち止まってレインの方を見た。
「そう…見えましたか?」
メイドの表情は変わらなかった。
「ええ…。」
「…………ご不快な思いをされたなら、お詫びいたします。申し訳ございません。」
「いやいやいや!そう言うわけではなく、何か失礼なことがあったのかも…って不安になってね?」
「ほら!俺ってこう…礼儀知らずみたいなところがあるからさ!!」
レインは焦りながらそう言った。
「お客様が気にすることはございません。我々はお招きさせて頂いてる立場ですから…」
(ん?気にすることはない…ってことはあったのかな?)
「僕なんかに敬語は不要だよ。それに言ってくれたら改善もできるからさ…!」
メイドはそれを聞くとレインの顔をじっと見る。
「なら…。その発情した犬のような目で私を見ないでもらえる?」
(遠慮がなくなり過ぎだ…。)
「あの…敬語は不要だっていったけど、何も罵って欲しいわけではないんだよ?」
レインがそう言うと、メイドが溜め息をついた。
「不快な点があったら指摘して欲しいと言ったのは貴方でしょう?」
「言い方に悪意があったよね!?」
「被害妄想はやめてちょうだい。」
「んなわけあるか!!あんたこそ被害妄想じゃないのか?いかがわしい目で俺は見ていない。」
「無自覚って怖いわよね…本当に」
メイドは頬に手を当ててそう言った。
「エルザ。貴方の教育がよくないんじゃないの?」
メイドはそうエルザに言った。
「久しぶりねシーラ。元々、レインはこんな感じじゃなかったんだけどね。」
この2人はどうやら知り合いのようだ。
だが、レインはそれよりも思うことがある。
(否定してくれよ…)
レインはそう思ってエルザを見た。
「ああ…。これだから発情期のガキは…」
(ここまで来ると失礼じゃない?)
「違うわよ。これは病気というか呪いというか…。そんなんにかかったからよ?」
(もしかして…アスモデウスが憑いた影響なのか!?本当に録なことがない…)
「どんな病気よ…。それ…」
メイドのシーラはそう全うな反論をした。
(まぁ…そういう反応になるよね…)
「まぁ…いいわ。でもそんな目でお嬢様を見られては困ります。」
「そんなに…?」
レインとしてはにわかに受け入れがたい現実だった。
「申し訳ないけど犯罪者の目よ?一層ここで処分してしまおうかしら?」
シーラはそう言って、レインを暗い瞳で見る。
(このメイド…本当に容赦ない)
「やめておいた方がいいわよシーラ。貴方程度では相手にならないわ。」
そう言ったのはエルザだ。
「はあ?」
殺意のこもった目でシーラはエルザを見た。
「そんな怖い目で見ないで?そんな目で見られるとうっかり殺してしまうかもしれないわ。私がね…」
「随分と大きな口を叩くじゃないエルザ?お前が私を殺れると?」
「今の私なら殺れない理由を考える方が難しいわ…。」
エルザは挑発的な笑みをシーラに向ける。
(えっと……。俺はどうすればいい?これ?)
「……何をしている?シーラ」
喧騒とした空気の中、よく通る声でその人物はシーラの後ろに立っていた。
「オ…オホホホ。少し戯れていただけですわ?」
それを聞いたセシリアは深く溜め息をついた。
「よく来たなレイン…。さっさとやるぞ」
そう言って、セシリアはレインの肩を叩いて稽古場に向かった。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文書ではございますが,楽しんでいただければ幸いです。




