見た目は大事
「どう?大丈夫?」
アスモデウスを取り込んだレインにエルザが声をかけた。
「いや…割と大丈夫。」
アイマスクをかけているレインはそう言った。
このアイマスクは魔力を視認することができる。
レインは自分の身体を見ると、ドス黒く禍々しい魔力の魔力体が自分の身体の中にある。この魔力体から魔力がゆっくりと身体に廻りはじめる。
まずは月光丸に触れて見る。
月光丸の中には赤い魔力と黒い魔力が入り交じっている。
レインはこの黒い魔力を使用して、月光丸の肉体を修復しようとした。
(………こうかな?)
魔力を入れた次の瞬間、月光丸の身体は瞬時に回復し、身体のあらゆる細胞が増強していった。身体がみるみる大きくなっていく。
「ヤ、ヤバイ!!!」
そう言ったときには遅かった。
月光丸の重さで馬車が大破した。
「ちょっと!なにしてるの!?」
「ごめん!!!力加減間違えた!!!」
月光丸は自分に何が起きたかわからないような表情をして、キョロキョロとしている。
(凄い再生力だ…。もしかしたら、ヒドラと同等くらいかもしれない。)
ひとまずもう一度、月光丸に黒い魔力をかける。今度は身体をコンパクトになるように調整する。
(ちょっと…魔力を与えすぎたか…。)
ひとまず月光丸はコンパクトな大きさになった。
だが、普通の猫のサイズから見ればかなり大きい。
馬車の馬と同じくらいのサイズだ。
これより収縮させることができなかった。
サイズが大きく、魔力が高いためだろうか。馬が脅えている。
ジェットウルフに装着させている首輪と同じものを月光丸につけた。
使い方は後で教育するとして、ひとまず姿が見えないように幻術をかける。
そして、もう1つ大破した馬車を見る。
「オルストン。直せそう?」
こういったことはいつもオルストンが、やってくれている。
「たぶんね…。ただちょっと時間かかるよ」
すると、頭の中から声が聞こえる。
『あれ?直せるぞ?』
(え?……本当に?)
『あれ木でできているだろう?元は植物。生きていたものだ。それなら再生可能だ。』
(マジかよ…。めっちゃ便利じゃん…。)
「オルストン。それ直すよ!」
「え?」
オルストンは驚いたように言った。
レインはこんな時、オルストンに大概丸投げしていたからだ。
レインは馬車の亀裂部分に手で触れ、細胞を解析し、再生した。
すると亀裂部分から木が再生し、元の状態に戻った。
(力加減が難しいが、これはかなり使える)
「凄いじゃん。レイン!」
そう言ってエルザがレインの肩に手を置いた。
(うぐ……)
レインの心臓が高鳴り、全身が紅潮していく。
「ハァ…ハァハァ…。ありがとう。エルザ……」
荒い呼吸になったレインがエルザの方を向いた。
それを見て、エルザとオルストンは何かを察したように身構える。
(静まれ……。)
レインは精神干渉魔法を使い、衝動を抑え込む。
やがて、身体は正常に戻っていった。
レインがふぅ…と息を吐く。
「じゃあ…行こうか!!」
異性に触れられたりすると、目を隠していても発作が出るようだ。
「ねぇ…レイン?」
レインの様子を見て、エルザが声をかけた。
「どうした?」
「そのアイマスクさ……。本当に着けていくの?」
「な……なんか変?」
不思議そうにレインは聞いた。
レインは自分を客観的に見れていなかった。
「SMプレイで興奮する変態みたいよ?」
「え?」
レインはSMプレイの意味はわからなかったが…。
ひとまず今、罵られていることはわかる。
「SMプレイって何?エルザ」
「そんな恥ずかしいこと言わせないで?レイン」
呆れたような顔をしていたが、レインは続けて言った。
「でも、その恥ずかしいことを言い出したのはエルザだろぅうぶっっ!!」
そう言った、瞬間にエルザの手刀がレインの頭部を直撃した。
「レイン…。世の中には知らなくていいこともあるの…。わかるでしょう?」
エルザの目は笑ってない。
「でもそれは君の主観だろ?エルザ?」
そう反論したのはレインではなくオルストンだ。
「言っている意味わからない?機能以前に見た目がヤバイって言ってるの!特に今みたいな状態になった時は!」
「だからそれが君の…」
「もういい黙れ……。服のセンスがゼロのお前には不毛な話だったわね。」
オルストンに呆れたエルザは反論を途中で遮る。
オルストンの服装は髑髏がデカデカとプリントされてある黒いシャツと破れたジーンズだ。
(あれを世間一般ではダサいと言うのか…。)
そうレインは学習した。
「レイン…。悪いことは言わないから…。それ脱いでくれる?私もレインが特殊性癖のある変態だと思われたくないからさ…。」
(……そんなにか?)
有無を言わせぬエルザの圧に気圧されて、レインはアイマスクをオルストンに返した。
「どう?」
アイマスクを外したレインにそう聞いた。
エルザと見つめ合うと少しずつ紅潮していったが、精神干渉で抑え込める範囲であった。
結局、オルストンの魔道具は採用されることがなかった。
◆
王都に着くとオルストンはレインに言った。
「レイン君。仕事の日の夜までやりたいことがあるんだ。1人で自由行動していい?」
「かまわないけど、連絡はどうする?」
「これを使ってよ。」
そう言って、オルストンは小型のイヤホンのようなものを出した。
「魔道具?」
レインは魔道具を手で触って確かめながらそう言った。
「そうだよ。これがあると距離が離れていても、通信できるからさ。」
「凄いな。新しく作ったの?」
「いや?元々あるものだよ。構造がわかってたから再現しただけだよ。」
それでも凄いけどね。
オルストンは3人分渡すと、1人で歩いて去って行った。
2人はそれを見送る。
「エルザ…。あっちは聖都の方角かな?」
「そうよ。アイツ何やらかす気かしら?」
少しの苛立ちと呆れを含んだ声でエルザはそう言った。
「レインはこれからどうするの?付き合うわよ。」
「エスコートしてくれるのかい?俺に近づくと危ないよ?」
「貴方を1人にする方が危ないでしょう?私が側にいれば襲われるのは私だけで済むでしょう?」
アスモデウスの前任者。今は前々任者は町の人間をところ構わず襲っていたとレインは聞いた。
(まさか…いざという時は自分を犠牲にしようってことか?)
「迷惑かけるね…。」
「別に迷惑なんて思ってないわ……。」
エルザはそう言ってレインを見た。
レインはエルザの方を見ていない。あまり見すぎると良からぬことを考えてしまいそうだから…
「君には本当に頭が上がらないよ…。ありがとね…」
「それで?どうするの?今日」
エルザから再び同じ質問がきた。
「エルザ…。前に商会長が会いたがってるって言ってたよね?遅くなったけど一度寄ろうかな。」
ここで言う商会長はリデルの事だ。
日中、人の往来が激しい大通りの一角にある商会。リデル商会にレインとエルザは来た。
エルザが以前、来たときと同じように裏口から入った。
エルザが呼び鈴を鳴らすと、人が出てきた。
「どちら様ですか?」
そう言って、女性はレインとエルザを見る。
リデルの妻であるセリカだ。
「リデルさんの奥様ですよね?数ヶ月前くらい……ですかね?お世話になったレインです。納品とリデルさんに会いに来たんですけど…」
レインがそう言うと、ビックリしたような声でセリカは言った。
「あなたレイン君?大きくなったわね!!」
「成長期ですからね……。」
「そう…。夫なら今日はここで仕事してるから呼んでくるわね。座って待ってて。お連れ様もどうぞ…。」
そう言ってレインとエルザは中に入った。
すると、数分するとリデルが来た。
一緒に紅茶をもったセリカも入ってきた。
「やあ…レイン君。久しぶりだね。」
魔力の動きから手を振っているのがわかる。
「お久しぶりですね。リデルさん…」
「これ納品です。」
そう言って、レインは大量に詰められた造花を渡した。
そして、あまり詳しく聞かれるとボロが出そうなので話題を切り替えた。
「これの売れ行きだけど、かなり順調なんだよ。」
「もっと量産とかできたりするかい?」
そうリデルが聞いてきた。どうも探るような声だ。
「勘弁してください。これ以上は無理です。」
レインはそう言った。そして勝手に増産を約束してきたディランもまだ許していない。
「そうか…。それは仕方ないね」
残念そうな声でリデルは言った。
レインは少し申し訳なく思った。
その顔を見て、リデルはまた違うお願いをした。
「では、もう1つお願いがあるんだけどかまわないかい?」
「言ってみてください。」
「2,3ヶ月くらい後になるんだけど…護衛をお願いしたくてね。」
それを聞いて少しレインは疑問に思った。
無法都市のレッドドラゴンが壊滅してから、賊の発生は極端に減った。
それに店にもそこそこ腕の立つ護衛はいた。それなのにレインを頼る理由…。
「どちらに行かれるんですか?」
「自由国家オリビアへの進出を考えていてね。それに伴って、現地に赴いてみたいんだ。」
野望に満ちた声でリデルはそう言った。
「あそこに行くためにはリオール大森林沿いの長い街道を通らなくては行けない。賊の類いはいないと言う話だけど、森林から出てくる強力な魔物が多く出現するんだ。今の護衛達も腕は立つけど、強力な魔物には対処はできないんじゃないかと思ってね。」
「なるほど…。金額と拘束期間を教えていただけますか?」
「期間は2週間。宿泊費や食事代はこちらで持つよ。その上でこの金額でいい?」
レインは書かれた紙を視る。
それを見てレインはニヤリと笑う。
「引き受けましょう。詳細な日にちが決まれば早めに教えていただけますか?」
「わかった。ありがとう」
そう言って、レインは紅茶を飲んだ。
「そう言えば、リデルさんに聞きたいことがあるんです。」
そうレインは話を切り出した。
「なんだい?僕で答えられることなら…」
リデルはカップを置いてそう言った。
「リデルさんは新しい商品とかを入荷した時、どうやってそれを宣伝したり、買ってもらえるように誘致したりするんですか?」
「どうしたの?商売でもするのかい?」
「いや?商売ではないかもしれません。」
首を振ってレインはそつ言った。
「良かったら、どう言ったものを宣伝したりするのか聞いてもいいかい?」
リデルがそう言うと、殺気を含んだレインの目がリデルを見つめる。
「秘密に出来ますか?」
リデルは殺気に気圧されて少し、目を見開いている。
「勿論だよ。君は僕達を助けてくれた恩人だからね。それと同時に君を敵に回せばどうなるかも知ってるつもりだからね……。」
冷や汗をかきながら、リデルはそう言った。
それを聞いてレインは口を開いた。
「殺し屋を始めたいなって思ってるんです。自分で」
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




