色欲のアスモデウス
月光丸の言っていることが全て正しいすると…
血操術を使うクロードは先祖を辿れば吸血鬼ということになる。この吸血鬼の一族が数世紀に渡って王国の暗部を支配してきたのか…
父上はおそらくこれを知っていたのだろう。
だから…。父上は俺が子供を作る事を望んでいた。
俺の…いやクロード一族の血に眠るヴァンパイアの血を途絶えさせないために
そして、爺さんが言っていた赤い眼。
これを持っているのは、父と祖母と俺だけだ。
兄達にはそんな特徴はなかった。
仮に…赤い眼を持つことがヴァンパイアの血を持っている証なのだとしたら?
今、眼が赤くなっているエルザは、血操術を扱えるということにならないか?
そして…魔物調教で従えている魔物達。ヒドラとジェットウルフ。彼らも俺の眷属ということになる。
この力をいかに有効的に使うか…
そこで月光丸と目があう。
「月光丸。何か用があって来たんじゃないのか?」
『そうだったな…。レイン。お前の身体で私を受け入れる土台ができた。』
「わかった。いつ取り憑く?」
『実際のところ、ここしばらくお前の身体への土台づくりでもう半分くらいは完了してる』
そうコイツはいけしゃあしゃあとそう答えた。
「おい!!勝手に憑くな!!」
『仕方ないだろう?そうしない土台が作れなかったんだから…。それよりは身体の方はどうだ?』
「大丈夫だよ。それよりも前に言ってた力を使う上でのリスクの話をしてくれよ。」
『そうだな…。ここで言うのがベストかもしれん。』
そう言って、月光丸はエルザとオルストンを見た。
『このリスクはお前よりも周りにいる人間が割りを食らう羽目になるからな…』
レインは少し溜め息をついた。
「わかった。お前の話を聞いて対応できるようにするよ。」
『なら1つ昔話をしてやる。それの方がわかりやすいだろう?』
「昔話?」
『この体に入る前の宿主の話だ……』
そして、アスモデウスは昔話をポロポロと話始めた。
◆
今から10年程前。
レギア帝国に若くて優秀な剣士がいた。
生まれもよく、容姿も美形で性格は誠実そのもの。非の打ち所のない人間だった。
この少年は私にとって優秀かつ手に入りやすい青年だった。
肉体は優秀だが憑依への抵抗力がなく、それに容姿が美形で異性からはとてもモテる人間だった。私は人間が抱く劣情が大好物だった。
美形で異性からはモテる人間ほど、宿主が性交渉の経験をすることが多い。
だからこの人間を依り代として選んだ。
ある日私は、魔物の討伐で疲れきっていた青年を狙い、取り憑くことに成功した。
それからはその身体か感じる、情欲を極度に楽しんだ。その時期は宿主にとっても私にとっても快楽を貪りつくすことができる最高の時間だった。
しかし、この生活は長くは続かなかった。
青年は自分の中から湧き出る情欲を制御することができず、町に歩く人間を誰かれ構わず、襲うようになっていった。
軍の稽古もサボりがちになり、青年はクビを言い渡された。
それでも情欲を抑えることができなかった。青年はとうとう強姦魔として拘束され、勾留されることになった。
男性ばかりの収容所に入れられた青年はそれでも情欲をおさえられなかった。
女性がいなくなり、今度は男性を性的に襲い始めるようになった。
そんな収容施設でも抑えが効かなくなった青年は収容所内では相当恨みを買っていた。
しかし、誰にも青年を止められなかった。
私によって、肉体が極度に強化された青年はそこらの剣士では武器がなくても制圧できるようになっていた。
しかし…。そんな青年にも命運が尽きる時が来た。
ある日、こともあろうに女性の看守が新しく赴任された。
それを見た瞬間、青年は抑えが効かなくなった。
その日の夜、青年は牢を素手でぶち壊し、その女性を襲った。
それを見た看守達は青年を止めるために剣を持って集団で刺し殺し、青年はとうとう絶命した。
私の被憑依者が支払う代償は【色欲】の暴走。
その代わりに被憑依者に悪魔王に相応しい強大な力を与えることができる。
もちろんその力は他の悪魔とはレベルが圧倒的に違う。
オルストンに憑くクライですら、私の力の前では足元にも及ばないだろう。
だが、結果的に私に憑依された青年は、精神を色欲に支配され、破滅の道を辿った。
その後、私は理解した。
人間社会にはルールや法律というものが存在する。
色欲を暴走させれば人間社会から弾き出されて、宿主が破滅の道を辿る。
ならば、人間以外に憑依すればいい。
故にアスモデウスは動物に憑依するようになった。
だが、その結果は現在の通り。
肉体は脆弱。自分の権能を使って肉体を修復することもできるが、力を使った瞬間破壊されそうな器だった。
そんな時、レインに出会った。そして自分に流れる魔力とかけられた魔法を見て確信した。
コイツは前回の宿主とは比べ物にならないくらい強靭。さらに自分の精神を操作する術も持っている。
(コイツならば……)
そう思い、レインと交渉した。
幸い自分は精神と記憶を読める能力を有していた。
コイツが求めるものはわかる。
ならば、後は我が欲望のためにコイツを利用するだけだ。
◆
「いや……ヤバすぎるだろう?」
レインはこの悪魔の提案にのったことを激しく後悔した。
(やらかし過ぎだろう……俺。)
『お前なら自分の精神に干渉して抑え込めるだろう?』
「抑え込める保証はどこにもないけどね……」
「クソッ!だから最近………。」
『そうだな。私がお前に入り込んでいる影響だな。』
レインの言いたいことを察して、悪魔はそう答えた。
「まぁ…。何とかなる範囲だし、これくらいなら大丈夫だ。」
悪魔は思い出したかのようにレインに言った。
『ああ…。言い忘れていた。』
『この姿から意識が抜けた時、私はお前に乗り移ることになる。』
(……ん?)
ちょっとよくわからない。
『つまり、私はお前とコイツの両方に憑いてる状態だ。でもこの状態は長くは続かない。2つの個体に同時に取り憑くことなんてできないからな。』
「でも今出来てるだろう?このままお前が意識を保ったままにすることはできないのか?」
『お前は悪魔か?』
悪魔に悪魔呼ばわりされてしまった。
『私の今の状態は手足を縛られて、2頭の牛に左右から引っ張られているような状態だ。だから、どちらかに乗り移らなければならない。』
確かにそれは拷問だな。
つか…人間死ぬ。
『ここでコイツに戻ることもできるが、その場合私がここまで時間を賭けてきた土台作りは水の泡だ。お前の身体は悪魔の憑依に対して耐性をつけ始める。覚悟を決めろ…
(急すぎる…あまりにも急すぎるだろう!)
「……ちょっと言いかい?」
そんなやり取りを見て声をかけてきたのはオルストンだ。
「レイン君は力の代償による自分自信の暴走。これによって、エルザや僕とかに危害が及ぶのを恐れてるんだよね?」
レインはそれを聞いて頷く。
「ちょっと、待ってて」
そう言って、オルストンは大量に積んでいる荷物から何やら物を取り出している。
「おい…。なんだこれは?俺は監獄にでも放り込まれるのか?」
レインの前に置かれたのは首輪、手錠、アイマスクの3つだ。レインが見たところ、これは全て魔道具だ。
オルストンはこの3つを1つずつ説明を始めた。
首輪……これには精神干渉魔法がかけられており、感情の高ぶりを感じるとこの首輪がしまる仕組みになっている。それにより血流を止めて失神させることができるらしい。
手錠……魔力を封じて、脳に直接痛覚を与え続けるものらしい。痛覚により情欲を抑えることが目的だ。
アイマスク……人の魔力量を測定する魔道具だそうだ。ただ、逆に言うと魔力以外は何も見えない仕様なっている。
視界からの情報がないと、性的な刺激を感じにくいだろうと言うことらしい。
「ねぇ…。2つくらい拷問器具みたいなのが混じってない?」
エルザは顔を引きつらせながら、そう言った。
「魔獣を抑え込むようなものだからね。このくらいの方が言いかと思ったんだ。首輪と手錠に関してはかなり強度も上げている。だから問題はないはずだ。」
それを聞いて、悪魔がその魔道具に触れる。
『ダメだな……。』
「え?」
そうオルストンが声を上げる。
『少なくとも私が完全にレインに憑依した場合、この首輪と手錠は直ぐに破壊されるだろう。』
『手錠は構造上破壊されやすい。痛覚への防衛として無意識にレインは破壊するだろう。』
『首輪はそもそも血流を止めることができない。レインの身体は少し特殊だからな…。』
「な……なら、このアイマスクは?」
オルストンは最後に縋るようにそう言った。
『これなら多少はに効果があるかもしれんな』
(多少ってことは完全には止められないだろうけどな…)
レインはアイマスクを手に取って被った。
視界は真っ暗になったが、それぞれを構成する魔力はハッキリ見える。だから物がどこにあり、誰がどこに座っているのかもわかる。
(顔、表情が見ることができないのは中々な厳しいな……。でもひとまずはこれで行くしかない。欲情を制御できるようになれば外せばいい。)
「オルストン。もし俺が暴走したら、動きを封じて抑えこんでくれ。お前の能力ならやれるだろう?」
いざというときの事をしっかりと考えておかなくてはならない。
「わかった。」
表情は見えないが、安心させてくれる声だ。
「よし!やれよ……。」
レインはそう悪魔に言った。
『最後に1つだけいいか?』
悪魔がそうレインに言った。
「なんだ?」
『私がお前に憑いたとき、月光丸の身体を修復してやってくれないか?』
レインは月光丸の身体を見る。
身体はボロボロで小さく萎んでいる。
『コイツはもう限界がきている。コイツの肉体は出来が悪かったが、愛着ぐらいは感じている』
随分と気に入っているようだ。
だが俺は知っている。コイツと夢で会ったときから、ある程度わかるようになってきた。
コイツは自分にとって利益になるか、ならないかで人や物を見ている。
コイツがそう言うってことは、月光丸に利用価値があるから言っているのだろう。
本来であれば断ってやりたいレインだが、月光丸にはレインもかなり愛情を持って接してきた。
だから、今回はこの悪魔の提案に乗ることにした。
「わかったよ悪魔。お前の言う通りにする。」
もう月光丸ではない悪魔にレインはそう言った。
『折角だから、最後に私の名を教えてやる。』
「名前?」
レインはそう呟いた。
「僕も最近知ったんだけど、強力な悪魔には名前があるんだよ。」
そうレインの呟きにオルストンは反応した。
(へぇ……。偉そうな口を効くだけあって、コイツはかなり強力な悪魔なんだな…。)
『私の真名はアスモデウス。【色欲のアスモデウス】だ。』
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




