吸血鬼(ヴァンパイア)
揺られる馬車の中でレイン、エルザ、オルストンの3人は王都を目指す。
レインの膝の上では月光丸が寝ている。
夢に出てきた月光丸に眠る悪魔は1度もレインに話しかけていない。
そんな状態の月光丸を戦いに巻き込むことは出来なかったので、無法都市に行っている間はトライザントのログハウスで留守番をしてもらっていた。
王都には2泊3日程度滞在する予定だ。
仕事場所自体は王都ではなく、王都から少しだけ北に進んだところにある聖都だ。その郊外に標的イノケンティスの屋敷がある。
拠点は王都にある1人にするのは可哀想だったので、今回は月光丸を連れてきた。
レインは同乗者の様子を見る。
エルザは窓の外を眺めながら朝食を口にしている。
(やっぱり何かおかしい。)
エルザを見てそう思った。風貌というか雰囲気がトライザントに入る前とは明らかに違う。
それはエルザの身体にも影響が出ている。一時期のレイン程ではないが、明らかに成長している。
エルザは20代前半とレインは聞いている。
本来肉体の成長は止まっているはずだ。
まるで、自分が月光丸の影響で成長した時のようだ。
(ん?ちょっと待て…)
(あ………。あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
やらかした……。
レインはそれが自分のやらかしによるものだと気づいた。
レインの血には現在、月光丸の魔力が十分に行き渡っている状態だ。
つまり……。
(月光丸の魔力が行ってしまった!?エルザの体に?)
(やっちまった…。)
頭を抱えてレインはうなだれる。
(これは…話すべき…か?)
冷や汗をかいて頭を抱えるレインに気づいたエルザはレインに声をかける。
「ちょっと、大丈夫?すごい汗よ?」
エルザはレインに近づきそう言った。
「だ…大丈夫だよ?」
「もしかして、何か悩みごと?」
「い…いや違うよ?」
焦りまくるレインはそう答えた。
結局、レインは隠蔽することにした。それに自分が見てさえいれば、大事にはならないだろうと感じた。
「もしかして、昨晩何かあの女にやられたの?」
あの女というのはジョーカーのことだろう。
そう…ジョーカーはこともあろうにレインとエルザの後をつけて最終、無法都市の寝ぐらまでついてきたのだ。
そしてジョーカーはレインの傍に来て添い寝までしてきたのだ。
エルザがそれを不信に感じて、エルザも同じ部屋で寝た。
そのせいでレインは興奮しすぎて寝られなかった。
「いや?何も?」
「そう?レイン。少し警戒した方がいいわよ。あの女……」
エルザがレインに真剣に言った。
「そう?敵意とかはないように思ったけどね…」
レインはジョーカーの対応を思い出して、そう言った。
「敵意はないでしょうけど、別の意味で警戒しなさいってこと…」
「別の意味?」
「いや…やっぱりいいわ。ひとまず、あの女とは適度な距離感で接してね。昨日みたいに簡単に寝ぐらに入れるのはダメだからね」
実際のところレインもジョーカーを帰らせようとしたが、欲望に負けてしまった。
最近…どうにもこの欲が自分の中で大きくなりすぎている気がする。
「わかったよ。それは意識してみるよ。」
エルザとの会話が終わるとレインはオルストンを見た。
レインから見たオルストンという男は常識のある人間だ。彼は少し変な人間だが、普通に接する分にはそれがあまり見えてこない。
最初の出会いを考えれば嘘のようなものだ。
彼が変になるときは大概、何かに入れ込みすぎてるときだ。
そんなものが出来ると彼の精神はそれに支配され、それ以外のことを考えられなくなる。
そして、オルストンは今そんな表情をしていた。
だが……今回はいつもとは少し違う気がする。
レインは少し探りを入れて見ることにした。
「オルストン。」
「何だい?レイン君。」
オルストンは爽やかな顔でレインに返答した。
しかし、レインはそれに誤魔化されない。
「何を企んでいる?」
それを聞いて、エルザもオルストンの方を見る。
オルストンはそれを聞いて真顔になる。
「何の事だい?」
「とぼけるなよ。昨日わざわざログハウスに帰って何をしていたんだ?」
そうオルストンは昨日1人でトライザントのログハウスに戻っている。
仕事の準備だろうが、どうにもいつもより何か大掛かりな準備をしていた。
これはトライザントに残っている。ジェットウルフから得た情報だ。
レインがジェットウルフの魔道具に施した魔法をオルストンは知らない。
「君は感が鋭いね。レイン君。」
オルストンはじっとレインを見た。
隠し事があることは認めたが、それをレインに話す気はないようだ。
「まぁ…いい。」
レインはそう言って、外を見た。
「いいの!?」
そう言ったのはエルザだ。
「うん。何せ聖都に行くんだ。何か良からぬ事でも考えているんじゃないか?」
レインの言葉を聞いて、オルストンはニタリと笑う。
「何しようが自由だけど…気取られるなよ?」
それを聞いたオルストンはそれに答える。
「わかったよ。でも大丈夫さ。僕が動くのは任務が終わった後だからね。」
「そうか…」
レインがそう呟くと、間延びするような声が聞こえた。
『はぁ~。ようやくに戻ってこられた……。』
その言葉を発した主は月光丸の体を借りてそう言った。
「お前…久しぶりだな。あれから俺が読んでも全然来なかったじゃねえか…」
レインはそう愚痴っぽく言った。
「仕方ないだろ?お前に憑く準備に手こずってたんだ。危うく俺の存在が飲み込まれるところだったぞ?」
それを聞いて、レインはキョトンとした顔をした。
「お前が…?俺に?」
『ああ…。私でなければさっき言ったように存在が飲み込まれていた。お前…既に何かに取り憑かれていたのか?』
「いや?そんな事実はないけど。」
『なら、お前が混ざりものなのが原因なのかも知れんな。普通の人間ならこうはならない。』
「混ざりもの?」
それを聞いたのはオルストンだ。
『レインが…いやレイス=クロードが聖教に狙われている理由だよ』
「え?どういうことだっけ?」
呆れたように月光丸はレインを見る。
『お前が殺した暗殺者がいっていただろう?お前が人間じゃないって…』
「それって、背信者だからそういう扱いをされてたってだけじゃないの?」
『違うな…。わかりやすく言うなら、お前には人間以外の遺伝子情報が組み込まれている』
「え?」
エルザとオルストンも目を見開いている。
『別にそう驚くほどでもないだろう?』
「いや…驚くだろ!!」
『そうか?現にそいつも今は分類としては人間じゃないけど…。それでもそんなに驚くことなのか?』
そう言って、月光丸はオルストンに肉球を向ける。
「そう…なのかい?」
オルストンは身を震えわせてそう言った。
「何であんたはちょっと嬉しそうなのよ。」
オルストンの様子にそうエルザが突っ込んだ。
『お前の肉体はあやつの魔力にさらされ続けて、変質してきている。お前の体の3分の1はもう悪魔だ。』
「それは…それは…。」
オルストンは嬉しそうにそう言った。
「……え?俺も取り憑かれたらそうなるんか?」
『安心しろ。肉体の100%が悪魔になることはない。人間の部分はしっかりと残る。』
(その情報で安心はできないけどね。)
『フフッ…。でもお前のように混ざりものならば、オルストンよりも人間である部分は少なくなるけどな。』
「いや………。笑えないな。お前が取り憑いたらどうなんの?俺」
『肉体の構成は今とそう変化が出ないように私が調整するから安心しろ。』
「良かった…」
レインはホッとした。
「それで良かったというのも可笑しな話だけれどね。」
エルザが横からそう言った。
レインはそのエルザを見た。
「オルストンは別として、エルザは何とも思わないの?その…今のことを聞いても」
「別に?」
エルザのあっさりとそう答えた。
「レインはレインでしょ?…なんて…そんな当たり前の事を言わせるつもり?」
「ありがとう…。」
レインはエルザにそう言うことしか出来ないのが、歯がゆかった。
「別にお礼を言うようなことではないわ。」
「それで?レイン君には何が混ざっているんですか?」
それを聞いたのはオルストンだった。
『レインの体を調べてもハッキリとは断言できない。』
「そうですか…。」
『ただ、私はここまでのコイツの記憶を全て見ている。だからこそわかることもある。』
「というと?」
レインはそう言って続きを促した。
『これは推測だが、混ざっているのは吸血鬼だ。』
「吸血鬼?どうしてそう思う。」
そうレインは聞いた。
『理由は2つ。』
『1つ目はお前の使う【血操術】だ。これと似たようなものを使える奴に私は心当たりがある。太古の昔に猛威を震った魔王軍四天王の1人。【吸血鬼王】とその直属の配下達だ。』
「吸血鬼王?でも…」
『吸血鬼王がどんな技を使うかは歴史書には記されていない。だが…長い時を生きる私は知っている。それにクロード一族にしか使えないというのも妙な話だ。』
『そして2つ目はエルザの様子だ。』
そう言って、月光丸はエルザに肉球を向ける。
『この娘の体つきや雰囲気が変わったと感じるのは、私の魔力を含んだからだ。筋力の強化などはお前の術によるものだがな…』
『だが、それだけでは説明がつかない症状も出ているな?』
月光丸に問われたエルザには思い当たる節があるようだ。
『強烈な吸血衝動と凶暴化。体巡る自分のものとは異なる魔力。そして、吸血鬼と同じ真っ赤な眼。』
『【眷属化】と呼ばれる技術だ。これが出きるのは私のような高位の悪魔か吸血鬼だけだ。』
それを聞いた瞬間、レインは膝から崩れ落ちた。
(やらかした……。れまでのエルザの異変。全部俺のせいじゃん……)
(ヤバい…。エルザの顔を見れない…。今…どんな顔してる?)
レインは不安で不安で仕方がなかった。
『眷属化には必ず【親】と【子】の関係が存在する。【子】は【親】に服従する代償として、膨大な力が【親】から与えられる。』
『レインがエルザに施しているのはまだ不完全だが、形は出来ている。』
「「………………」」
レインとエルザは黙りこくってしまった。
1分くらい経ったところでレインが頭を下げながら、エルザの方を向く。
「申し訳ございませんでした。」
エルザの顔は見えない。
「何に対して謝っているの?」
その声は冷静そのものだったが、それがレインを恐怖させた。
「エルザの肉体と精神を歪めてしまいました。本当に申し訳ございませんでした。」
レインは土下座の姿勢を崩さずにそう言った。
「それで?貴方はどう落とし前つけるの?」
冷静な声がレインの耳にはいる。
胃が縮むような想いで言葉を発する。
「血は完全に抜くことができません。なので、対処が…わからない…。」
「そう……」
エルザはそう短く呟いた。
「顔を上げなさい。」
エルザの声にレインは顔を上げる。
エルザは至近距離でレインの目を見る。
エルザの目は赤色に光っている。
「貴方は一生変わることのないような歪みを私に与えた。もう私は元には戻れない…のよね?」
「…………。」
(本当に……とんでもないことをして…しまった。)
「なら…。レイン。貴方はその責任を取る必要があるわよね?」
「はい…。」
「なら……。一生私の面倒を見て、そして…側にいて…。」
「それができるのなら…このことは綺麗さっぱり水に流してあげる。」
「…………………」
(……これが俺が背負う十字架か…。)
「…………わかった。でも、エルザが離れると面倒は見れないよ。」
「大丈夫よ。私が貴方の側を離れることなんてないから…。」
エルザはレインの手をとって、そう言った。
「メンヘラ女…」
ボソリとオルストンがそう呟いた。
「おい!!誰がメンヘラだ!てめぇ!!」
それを聞いたエルザがオルストンを睨み付けた。
「断っても許すつもりだったくせに恩着せがましく言って、束縛するのはよくないよ。」
溜め息をつきながら、オルストンは言った。
「レイン君。そんなに気に病むことはないからね。」
オルストンがそう言うと、オルストンはエルザに殴られて、馬車から転げおちた。
「その通りだけど……。お前の口から言われるのは妙に腹が立つ!!」
馬車から投げ出されたオルストンを無視してエルザはレインを見る。
「まぁ…。オルストンの言う通りよ。気に病む必要はないわ…。」
エルザは頭を掻きながらそう言った。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




