麻薬カルテルの討伐①
オロチの本拠地は無法都市の東部にある。東部は中央部や南部と比べると犯罪組織が少なく、ここに滞在する人間のほとんどがオロチの構成員だ。
故に東部に入ってからはいつどこで構成員に出くわすかわからないらしい。
東部はレインが以前までいた西部とは違い、まだしっかりとした建物が存在し、人の数も多い。
人目に着かないように路地裏を移動し、目的地を目指す。目的地はオロチの拠点ではなく、そこを見ることができる建物だ。
「レイン君はどうやって闘うの?」
「僕は幻覚魔法と肉弾戦を合わせて闘います。」
嘘ではない。が、レインが本気で闘うときは血操術を使用する。自分がクロードの家の人間だと知られたくないからだ。
「幻覚魔法?凄いじゃない!!あれって実践レベルで使える人ほとんどいないでしょう?」
それを聞くとレインは頭の後を掻いた。
「え、ええ……。魔法は得意なんですよ」
(なるほどだから対集団戦が得意なのか……)
エルザは合点がいった。幻覚魔法が実践レベルで使用できる場合、対象を同士討ちさせたりすることができるからだ……
(でも何でこんな子が今まで無名だったのだろうか……。独立していなかったから?)
(言っていることが本当だったら、噂ぐらいにはのぼってくるはずだ。)
エルザは王国に住まう暗殺者は粗方知っている。だが、レインという名前は聞きたことがない。
考えられるとしたら偽名か。聖教の暗殺者であるかのどちらかだ。
「レイン君はここに来る前までは貴族だったのでしょう?」
エルザは探るように聞く。
「え、ええ。何でですか?」
「いや?かなり腕が立つって聞いてるからさ……。そういう人達って大体貴族だから。あ、私も貴族だったよ。」
エルザはにっこりと笑いながら言った。
「エルザさんは何で闘うんですか?」
「私はこれ」
そういうと、風魔法で弓の弦、矢を回転を加えた風で生成する。
「風魔法を応用した弓矢。射程は800m~1000mってところかな。勿論近接戦もできるけどね」
そう言ってエルザは腰にある短剣を見せる。
「遠距離攻撃ですか!!凄いですね!!」
「そうそう!だから援護は任せてよ~」
「でもレイン君も幻覚魔法を使えるんだったら、かなり有名で実績もあったんじゃない?」
「そ、そんな事ないです。」
(え?何?めっちゃ褒めてくれるじゃん!)
レインは素直に喜んだ。
「そうなの?だって、幻覚魔法なんて使えるはクロード子爵家のレイス=クロードくらいだったでしょう?」
「え?そうなんですか?」
レイスは驚愕した。確かに幻覚魔法の習得にはかなり苦労したが、正直ここまで評価を受けているとは思わなかった。
(幻覚魔法ができるという設定なんてつけるんじゃなかった……。)
(何たる間抜けっぷりだ……)
「あ、あのもうそろそろですか?」
話の話題を逸らすように質問した。
「ん?ああ、私ったらうっかりしてたわ!あそこの建物からなら見えるわ」
そう言って、エルザとレインは中に入っていった。
その建物は今は廃墟と化した3階だての古い民泊だった。木造造りで長い年月が経っているように見えるが……。足元はしっかりしていそうだ。
狭い階段を上がる。先行するエルザのお尻が目の前にあるため、吸い込まれるように見てしまう。
3階に着くと、エルザは勢いよくレインの方に振り向いた。
「レイン君。そういう視線って意外とわかるんだからね……」
「!!!!」
(馬鹿な……。視線を気取られただと?いや!!そんな事よりどう返す?このままでは……エロガキ扱いされて軽蔑されてしまう!!)
ここは素直になって謝ることにする。多分、この人に誤魔化しは通じないだろう……。そんな気がした。
レインは膝と手をつき、頭をさげる。
「……魔が差しました。申し訳ありません。」
「……わかった!今日頑張ったら許してあげる。」
そう言って、エルザが耳元まで口を近づいて囁いた。
「それに…今日の成果次第ではそんなことよりももっと刺激的なこと……教えてあげる。」
(え……?そんなことよりって……?)
(つまり……もっとエッチなことを!?教えて貰えるということか……)
レインはやる気を漲らせ決心する。
(ピンチがチャンスに変わってしまったぞ!!このチャンス。何としても掴む!!)
レインは単純だった。
◆
古い民泊の3階の一室で隣合わせで窓の外を眺める。隣にいるエルザにちょっと緊張してしまうが……。
そろそろ命のやり取りをすることになる。
こういったときに、思考をしっかりと切り替えられるのはレインのいいところだ。
オロチの拠点は3階建ての屋敷のような場所だ。
ここからは見えないが、奥行きがある建物のようだ。
外に数十人の男たち見える。
より詳細に見るため、レインは千里眼を起動した。
魔力の気配を感じたのかエルザはレインの方を見た。感覚がかなり鋭いのかもしれない。とても優秀だ……。そう感じた。さすがは暗殺者の一族の生まれだといえるだろう。
「外より中にいる人数の方が多いですね。外20人、中は50人ってところでしょうか?」
「わかるの!?」
「ええ……。千里眼と言って見たい対象以外のものを透過させることができます。あと、遠くのものも見られます」
「凄いわね……。」
「そんな事はありません。エルザさんなら多分習得は難しくないと思います」
「そ、そうなの?」
「ええ……」
そう言った短いやり取りをしながら、エルザは作戦を伝える。
「じゃあ、さっき言ったようにレイン君が接近して敵と交戦。私は遠距離から援護を行う感じにしましょう」
それを聞いてレインは首をふる。
「いやもっと効率的にしましょう」
そう言って外にいる敵を指差す。
「あそこの方達には、方向感覚と音声遮断と幻覚の結界を張ります。それが完了したらエルザさんはさっきの魔法で一人ずつ仕留めてください」
そして、レインは次に建物の中を指差す。
「中にいる敵は僕がやります。エルザさんの武器は屋内では不向きです。そのうえに多分中にいる人間の方が強いです」
「なので、外はエルザさん。中は僕って感じでどうでしょうか?」
エルザは少しだけ考える素振りをみせたが、了承した。
「拠点に戻ってくる連中もいるかもしれません。そいつらの始末もお願いします。」
「わかったわ。それでは始めましょうか……」
レインは屋外にいる数十人の敵に魔力のカーテンで包み込んだ。
その後、レインは民泊の外に出ていった。
自分を不可視し、敵拠点の門を堂々と開けて、敵陣を堂々と歩いて、屋敷の中にはいった。
◆
屋敷の3階にある男がワインを片手にゆっくりと上品にワインを呷る。
その男の名前はフラーク。王国の子爵家で生まれ育った。しかし、今は無法都市5大派閥オロチのリーダーを勤めている。
フラークは幼少期より父親から虐待を受け続けていた。そしてその父親を刺殺し、この無法都市に流れついた過去をもつ。幼少期の教訓を行かし、組織を牛耳っている。
教訓とは残虐な暴力による恐怖心は人を支配する上で何よりも有効だということだ。
だが、この支配の仕方には弱点がある。それは自分より強い力をもつものが現れれば自分も支配される側になるということだ。
フラークより強い人間は無法都市には多くいる。そう言った場合は、金銭つまり財力によって強い人間を雇うこと。今はフラークの横にいる傭兵がそうだ。
5大派閥の一角。エプトリカ傭兵団から雇いいれたもの達だ。
しかし、金と暴力ではどうにもならない連中もいる。
今回の例で言うと、残りの5大派閥。【獅童会】、【ナイトメア】、【レッドドラゴン】だ。
その【獅童会】と問題を起こしてしまった。
獅童会は多方面で事業を拡大している犯罪組織。その一つ。オロチの主要事業である麻薬部門でいざこざを複数回起こしてしまった。
戦争に発展する可能性も十分にある。
同じ5大派閥とはいえ、【獅童会】、【ナイトメア】、【エプトリカ傭兵団】の実力は別格だ。
対抗するために今回ある男を呼び出している。
【レッドドラゴン】のリーダーであるグランだ。
組織が行なっている活動が異なるうえに方向性もあっている。だから、【獅童会】に対抗するべく手を組むことにした。
だが、グランは獰猛で狡猾なうえに相当を腕の立つ人間らしい。手を組むうえでこちらが喰われる可能性もはらんでいる。
そのための傭兵たちだ。1人は白髪の短髪で体格に恵まれた偉丈夫。魔剣士の男だというこの男は身の丈ほど大刀を背負い。目を瞑りながら、どっしりと佇んでいた。
もう1人はさらさらで茶色の髪、小柄で細見体型の青年だ。この男は魔法師だ。頼りない雰囲気を感じるが、なぜか隙がない。そうフラークは感じた。
その青年がふと呟いた。
「誰か入ってきた…」
「ん?グランってやつが来たのか?」
偉丈夫が青年に対して答えた。
「いや…。ボスが別組織の拠点に護衛もつけずに1人でくるか?」
「じゃあ、外で待機してた連中か?」
その返答に青年が返そうとしたところで部屋の一角が急激に黒ずんだ。
そこから赤黒い血の色をしたした槍がこの部屋の全員に襲いかかった。
青年はフラークの前に出て咄嗟に防御結界を張ったが、一撃で貫通してしまう。
その槍は青年をすり抜けて、フラークに向かう。
だが、フラークに辿りつく前に偉丈夫の剣によって防がれた。
「おい!!もっと強力なやつを張れ!!」
そう言った偉丈夫は青年の前に出た。
そして放出され続ける槍を防ぎ続けた。
(一撃一撃が重い…)
「くっ!剣が軋む…」
偉丈夫は苦悶の声を挙げながら防ぎ続けた。
「よしできたぞ!!」
青年の声を聞き、偉丈夫はフラークの後ろに隠れた。
青年が作り出したのは強力な3重の結界。
無数の槍が一層目を壊すと、もう一層青年が追加で結界を追加する。これにより無限に放出する槍を防ぎ続ける。
しかし、背後にいたオロチの精鋭は既に全滅していた。これでは会談どころではない。
そして偉丈夫が立ち上がる。
「これを産み出してるは今1人で入ってきたやつか?」
「くっ…。多分そう。」
青年が苦しみながら答える。
「なら、少しだけ耐えろ!」
「このままじゃ、埒があかねえ!俺が始末してくる」
「頼む」
青年の同意を得ると偉丈夫は部屋を出て駆け出していった。
その後もしばらくの間、槍が放出され続けていたが、それがピタリと止まった。
「はぁ…。はぁ…。」
息も絶え絶えになった。青年は床に腰を落とした。
「大丈夫か?」
そうフラークに問いかけた。
「ああ…。助かった…。クソッ!レッドドラゴンの刺客か?それとも他の組織か?」
青年がそれに答える。
「それはわからない。それに俺達が考える義務もない」
それを聞き、フラークはそうだったな…と冷静に呟いた。
「外のやつらもやられたのだろうな…」
だがひとまず状況を知りたいと思い、庭の見える窓に近づく。
すると次の瞬間、構成員の血液が棘状に変化し、2人に襲いかかる。
フラークは腰の剣を手に取り棘を塞ぐが、剣が破壊され心臓部を貫かれた。
「ぐぁぁぁ!!」
青年はフラークのガードが間に合わないと悟り自分に結界を展開したが、棘は結界を貫通し、少年の肩部を貫いた。
「ぐぅぅ!」
肩を押さえながらフラークの様子を確認する。
(……失敗か…。)
偉丈夫の男に通信する。
『すまない。クローバー。対象が殺された。作戦は失敗だ』
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




