無法都市の5大派閥
※前話、一部文章を変更しました。
トレントはそこまで混雑するような店ではない。スラム街の裏路地に存在し、普通に生活していても中々見つからない場所に存在する。
それもそのはずだ。ここはある貴族の援助を受けて、運営が成り立っている。
一般の客が来ることもあるが、ほとんどは裏稼業の人間や愛人と会うためにお忍びで来る貴族などがほとんどだ。
故に客がいないことがほとんどだ。
そこに一人の男が来店した。
男の年齢は30代、40代の見た目で黒いハンティング帽子を被り、酒で少し赤みがかった顔をしている。
「よう。ザック」
「おう。ディランか」
ディランと呼ばれたこの男は無法都市のブラックマーケットを運営している男だ。
「いつもの頼むよ…」
この男はこの店の常連なのだろう…
そういってビールをグラスに注いで、ディランに手渡す。
「なぁ…。今日ここにガキが来なかったか?」
ザックは目を細めてディランを見据える
「ちっ!お前かよ!情報吐いたの…」
「いや、吐いたというより吐かされたつーか…」
そうディランが口ごもる。
それでザックは今日の昼間の光景を思い出す。あれを使われたら自分の意思とは関係なく情報をとられる…
「まぁ、ひとまず謝罪をと思ってな…。久々に死を覚悟したぜ…」
「まぁ、その件は丸く収まったからもういいよ」
「まぁ、それなら良かった…」
少しディランは肩を撫で下ろした。
「あいつ金が欲しいらしくてな。うちで仕事を斡旋することになった」
「ああ…そうなのか?情報でもとってこさせるのか?」
確かにディランや今日の男達の情報を吸い上げた技量もかなりのものだった。
「まぁ、そっちでも使えるが…。今は殺しの依頼を受けてくれるやつがいねぇからよ…。」
「あいつはそっちで使うことにした…」
それを聞いてディランは、反発した。
「おいおいおい。ガキだぞ?いいのか?」
そう言うと、ザックは煙草に火をつけて答えた。
「まぁ、本人が殺しの仕事って言ってたからな…」
「なるほど…そういった仕事をしていた家の子か…。」
ディランは少し悲しそうな顔をしながら呟いた。
「まぁ、少なくともこれまでのやつとは比べ物にならねぇだろう…実力は」
そう言うと、ディランはケラケラと笑った。
「随分と買ってるじゃねぇか!まぁ、俺も捻られたからその通りなんだろう。」
そう言うと、グラスをぐぐっと飲み干し。
今日の内容の本題を切り出した。
「まぁ、あの子が使えるならよかったんじゃねぇの?おそらく無法都市も王都もちょっと荒れはじめてくる…らしい」
ザックはピクッと眉を吊り上げた。
「ほう?」
「王都、聖都では国王派と教皇派の権力争いが激化し始めてきている。」
「だが、現状では教皇派が優勢って感じだな。爵位の低い貴族は今の体制が気に入らない人間も多い。民衆なんて特にそうだ。」
「これから、やりたい放題してきたツケを払わされることになるかもな…」
ディランは続ける。
「聖教は圧倒的な人間主義で成り立っている。全ての人間は等しく平等で神に唯一愛された種族である。神への信仰を捧げ、善行を積むことで神に救われる」
「ってのが聖教の理念だ。これが本当なら随分と立派なことだよな。」
それを聞いてザックは答える。
「まぁ、違うだろうな…。この教えが本当に国教として正しく効力を発揮できているなら、奴隷なんてのはいねぇはずだからな…」
神聖ブルガリア王国では奴隷が禁止されていない。全ての人間が等しく平等であるという教義を守るのであれば、国に働きかけることも可能でだろう。
さらに現在の聖教は異端審問として、国とは違うルールで独自に刑を執行することができる。
国王派からしたらやりたい放題というところだが、これが今の国王派と聖教の力関係だ。
もし、奴隷の禁止が働きかけられない場合、異端審問として奴隷商や奴隷を捕獲する盗賊や傭兵団なども異端審問にかけられそうなものだが、これまでそんなことは一切なかった。
「まぁ、聖教の支援や動かしているのは大貴族が多い。そいつらの都合だろうな…。」
そうザックが答えると、ディランは頷く。
「本当に大した詐欺師集団だ。全く何でこんな連中を指示するのかね…」
「それは簡単だ。民衆の生活は苦しくなり続けている。そんな苦しい状態に陥ると何かを信じ、依存したくなるものなんだよ…」
ザックは苦く笑う。
「俺達にとってのお酒と一緒だ。」
しばらく黙っていたエルザが口を挟んだ。
「それで結局どうなりそうなの?」
それを聞くとディランは人差し指を立てる。
「ああ…。まず1つが護衛依頼や暗殺の依頼は増えてくる。俺達のクライアントは国王派だからな…。これから水面下での殺し合いが激化する可能性は高い」
「国王派はクロードを失ったのが響いてくるだろから、こっちにも依頼を廻すらしい」
うんうんとエルザは頷く。
「2つめは治安の悪化による犯罪組織の活性化だ。今の政治事情を敏感に感じ取っている奴らも多い。国が聖教にかまけている隙にそいつらは無法都市の外に勢力拡張させようとするだろう。」
「その1つはこれだ…」
そう言って、ディランは白い粉が入った小袋をカウンターに置いた。
「麻薬か…」
「ああ、これが最近王都に急速に流れ込んできてる。これの流入を阻止して元凶を潰せ。これが今回の依頼だ。」
そして、大量の金貨の入った袋もカウンターに置いた。
「なるほどね…」
「元凶は無法都市の5大派閥の一角「オロチ」でしょうね」
エルザはそう断言した。
オロチは約10年前から無法都市に住み着いていた犯罪シンジケート。麻薬を製造販売し、それにより利益をあげ、拡大し続けてきた組織だ。
オロチは同じように麻薬で利益を上げようとした組織を全て潰し、利益を独占し続けてきた。
さらには債務者に対しては蛇のように粘着し、金銭
を絞り上げたり、犯罪紛いの行為をやらせたりして回収する。狡猾な組織だ。
「5大派閥か…。間違いなく難易度はSS級。」
ザックは頭を抱えた。全く無理難題だ。
(とはいえ、いつものことだ……。)
「少なくとも壊滅は私一人なら確実に無理よ。王都への搬入経路を絞って拠点を1つずつ削りとって行くしかないわ…」
確かにエルザならそれは可能だろう。
「まぁ、そうだろうな…。だがその分こちらの素性がバレる可能性がある。それに襲撃を繰り返せば対策くらいはされるだろう」
(そうなるとエルザは任務を独断で中止するだろう)
エルザは優秀な暗殺者だ。だが警戒心が人一倍強い。本来、警戒心が強いのは良いことではあるのだが、エルザの場合は強すぎるのだ。
言ってしまえば臆病だ。だから、不利な条件の案件は絶対に受けない。
だからこそ何年もこの世界で生き延び続けられている。
どうしたものかと考えていると不意に扉が開いた。
そこには夕べに訪れた少年。レインが立っていた。
◆
「マスター。ご飯ありますか?」
レインは扉を開き、突然そう言った。
今日の朝から何も食べておらず、お腹が空きすぎて仕方なかったからだ。
「あ、ああ…。カレーライスでいいか?」
「うん。なんでもいいよ。」
そう言ってレインは他に目を向けず、奥のテーブル席に向かう…
レインはコミュニケーションが苦手で知らない大人と近くの席で食べるのを避けたかった。
「ああ。そうだレインちょっと話したいことがある。ちょっとこっち来い」
(うっ…)
そう思いながらも、レインはポーカーフェイスを維持して、カウンター席に座った。
すると横に見知った顔がある。
「よ、よう。坊主…。昼ぶりだな…」
そう苦い顔をしながらディランが言った。
「ああ~。今日の優しいおじさんじゃない。奇遇だね。ここのこと教えてくれてありがとう」
能天気な顔をしながら、レインは答えた。
ディランは顔を引きつらせる。
「教えたんじゃねぇ…。坊主に無・理・や・り吐かされたんだよ!!」
レインはポーカーフェイスのままディランを見つめて黙る。
ディランはそれに妙な凄みを感じ、押し黙る。
「まぁ、終わったことを言っても仕方ないじゃん?
あんまりストレスばかり溜めると禿げちゃうよ?」
ディランは自分の髪の毛が少ないことを気に病んでいた。それを悟られないためにハンティング帽子を被っていたのは言うまでもない。
「は、禿げてねぇよ!!!」
「ああ…。そうだよね。ごめんなさい。」
そういってレインは軽く謝罪した。
「ほら、出来たぞ。」
そう言って、サックがカレーライスを差し出した。
その匂いに吊られてレインが持っていた袋がうねるように飛び出す。
その白猫はカウンターレインの肩にカレーライスを凝視する。
「ん?何だそいつ?」
少し驚いた顔をしたザックはそう問いかけた。
「月光丸」
「ん?何だって?」
「月光丸です。飼うことにしました。」
「ブッ!!」
そう言ってザックは吹き出した。
「クククッ…。随分と変な名前だな…。」
レインは小馬鹿にされたような気がしてイラッとした。
レインが抗議しようとしたその時、馬鹿にされた月光丸がザックに向かって勢いよく飛びついて攻撃しようとした…が、そうはならなかった。
レインは飛びつこうとした月光丸の後ろ足を引っ張って止めた。
ザックに振り下ろそうとした爪はレインとディランの間のカウンターに引っ掛かり剣のように斬られた。
「………。え?」
「うおおおお!!」
呆気にとられるザックと悲鳴を上げるディラン。
机に大きな切り傷が残る。
レインは月光丸を膝の上に乗せて、腹を撫でる。
「ダメだよ!月光丸。人に爪向けちゃあ…」
そう言って、月光丸はしょんぼりしたような仕草で俯いた。
「マスター。月光丸を馬鹿にしないでください」
レインはザックをじっと見つめる。
「そうか…。それはすまんな」
「そうよ。こんなに可愛いのに」
そう言うと、エルザはレインの隣に座った。
「エルザよ。始めましてレイン君」
「…………。よ、よろしくお願いします」
そう言って顔を下に向ける。
レインは自分の顔が熱を帯びていくのを感じる……
(き、綺麗な人だ!!いや、綺麗すぎる。くっ……!!心臓の音がはやい!!!)
「可愛いわね……」
「そ、そうですよね!月光丸はとても可愛いんです!」
それを聞くと、エルザは首をふる。
「確かにこの子も可愛いけど……。今言ったのはレイン君のことよ!!」
赤くなりきった顔がさらに紅潮し、熱を発し始める。
「あ、ああのですね。僕は女みたいと言われることもたまにありますが、男であってですね……。そんな可愛いっていうあれではないわけで……」
(く…。緊張し過ぎて震えが止まらない!!)
レインは幼少期から家族以外と触れ合う機会がほとんどなかったため、女性に対する免疫がほとんどなかった。
フフッと笑ってエルザが答える。
「年下の男の子だったら、そんな風に思うことはあるわよ~」
「あ、はい……。」
レインは赤くなった顔を隠すために俯く。
「おいおい!坊主随分と汐らしいじゃねぇゴフッ!!」
ニヤニヤしながら煽ってきたディランにレインが顔を真っ赤にしながら、腹パンをきめる。
「ねぇ。その子抱いてもいい?」
エルザは顔を近づけて問いかける。
それに顔を反らすようにしてレインは答える。
「だ、大丈夫です」
そう言って、月光丸をみた。
「月光丸……。人のこと引っ掻いたり、噛んだりしたらダメだからね……」
そう言って、月光丸をエルザに渡す。
エルザは月光丸を毛並みに沿ってゆっくりなでる。
(月光丸は気持ち良さそうだ)
「いや~。可愛いわね~!!」
そう言って、エルザの顔は満面の笑みに変わる。
(いや、お姉さんも可愛いです!!)
レインは赤くなった顔をポーカーフェイスにしてそう思った。
「でもこの子。多分だけど、悪魔憑きなんじゃない?」
「なんだ?悪魔憑きって?」
そう言って、ディランが問いかけた。
「そのままの意味よ。悪魔が憑いてるってこと……」
そしてエルザは続ける。
「悪魔って実体がない存在だから死体であったり、死にそうになっている個体に乗り移って活動するの……。上位の悪魔の場合は力のある人間にも取り憑くことができるみたい」
「悪魔が憑くどうなるんですか?」
レインは気になったことを聞いてみた。
「悪魔に取り憑かれた場合、悪魔の力が流入するから凄まじい魔力や力が手に入る。その代わり精神が悪魔に乗っ取られて、狂暴性が増すって聞いてるわ」
「聖教の教典においては悪魔憑きは異端審問における処分の対象になっているしね」
(僕と同じか……。なら、僕のやる事は変わらない)
「…………。なら、バレなければいいってことですよね?」
「え…ええ。そうね」
少し驚きながらエルザは答える。
「なら、心配いりませんね……」
そう言って、レインはカレーライスを食べ始める。
「そう?ならいいけど、大丈夫なの?」
「まぁ、仮に存在がバレたとしてもやりようはいくらでもありますから……」
それを聞くと、エルザは月光丸に語りかけた。
「こんな素敵なご主人様に拾ってもらえて月光丸ちゃんは幸せ者ね」
レインは微かな違和感に気づく。
「あ、あの……。ちゃん?」
そこでザックが口を挟む。
「ああ……。そいつ多分雌だぞ……」
「……え?」
「だから、笑っちまったんだよ。男みたいな名前だったから……」
「………………」
「まぁ去勢されてるものもいるし、中々わかりづらいけどね……」
すかさず、エルザがフォローをいれた。
「……そういえば、僕に話したいことがあるって言ってましたよね?伺っても?」
強引に話題を変えるためにレインはそう言った。
(こいつ……。もしかしてちょっとポンコツか?)
ザックは密かにそう思った。
◆
「薬物の製造してる犯罪組織ですか?」
1通りの説明を終え、レインが問いかけた。
「詳細な情報はわかっていますか?」
「ああ。こいつからは100人近くの構成員をかかえる無法都市の5大派閥の1つ【オロチ】だ。いくつもの中小規模の組織を壊滅させているから実力はある連中なんだろう。拠点の位置はエルザが割り出してる。」
1通りのレインが聞いたのを確認し、訊ねる。
「どうだ?できそうか?」
「その……5大派閥というのは?」
「ああ……。この無法都市を牛耳る5つの巨大な犯罪組織のことだ」
「長年、南部を支配してきた無法都市屈指の武闘派集団。【獅童会】」
「中央部の歓楽街を支配するマフィア。【ナイトメア】」
「支配地をもたない凄腕の傭兵団。【エプトリカ傭兵団】」
「中央部、東部、南部の狭間を支配地とする新興犯罪シンジケート。【レッドドラゴン】」
「そしてさっき言っていた東部を支配するオロチだ」
「まぁ、実力がわからないので一度観察してみたいところですね」
「それで判断します。できればやる、出来なければ帰るこれでいいなら…」
「正気か?坊主……。相手は100人以上いるんだぞ?」
そうディランは問いかけた。
「数というのは騎士が集団で斬り結ぶ合戦とかなら非常に有効になるけど……」
「僕が暗殺という奇襲をしかけるという条件ならあんまり数は問題にはならない。それよりも突出した個人がいる方が僕にとっては厄介なんだ」
レインは続ける。
「だから見てみたいんだよ。雑魚が100人以上いても僕の敵ではないからね……」
ザックは口を開きかけるのを見て、手で制する。
「おっと……。マスター種は明かせないよ。まあもしかしたら、一度僕の術を見てるから大体想像はつくかもしれないけどね……」
そう行って立ち上がる。
「お、おい。そいつ連れていくのか」
そいつというのは月光丸の事だろう。
「ああ…すみません。」
「月光丸は置いていきます」
そう言ってレインは月光丸をカウンターの椅子にのせる。
「エルザ。レインの案内を。そして任務に入れば、レインの補助を頼む」
ザックの言葉を聞いて、エルザは頷いた。
「じゃあ、よろしくね」
エルザの言葉にレインは緊張しながら答える
「は、はい。よ、よろしくお願いします。」
(こ、これはある意味デートということになるのでは!?)
これからの任務だというのにレインは内心舞い上がっていた……
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければこれに勝る喜びはございません。
※次話は文字数が多くなりすぎず、まとめられるように意識します。




