威圧的交渉
無法都市中央部に位置する【ナイトメア】の支配領域である歓楽街の高級料理店の1室。
2ヶ月程前に、首脳会談を行った場所でもある。
レドリックはグレオールとゴルドーを連れて、そこに赴いていた。
前回の会談後、【ナイトメア】が支配する歓楽街ではスパイ、工作員の侵入防止するために一般客の出入りを制限してもらっていた。
しかし、クラウゼル公爵の軍が侵攻してくることはなかった。
ナイトメアがやっていた。スパイ防止策が上手くいったのか、それとも元々侵攻する気がなかったのかはわからない。
しかし、一般客の出入りを制限したためこの1ヶ月間、ナイトメアの収入源が縮小したのは間違いない。
今回は現状の警戒体制の解除を求める要請をするつもりだろう。
そうレドリックは予想を立てていた。
レドリックが部屋に入ると、【ナイトメア】のローザと【エプトリカ傭兵団】のジョーカーが2人の部下を連れて座っていた。
「今日はハバアだけだと思ったんだがお前もいたのか?」
それを聞いたジョーカーはやれやれとでも言いたげな態度で言った。
「私がいたら迷惑かい?レドリック?」
「いや?少し意外だったから聞いただけだ。気にすんな。」
レドリックは席につくと空席がもう1つある。
それに疑問に思ったが、ローザに今日呼び出した説明を求めた。
「………実を言うと、今日用があるのは私じゃないさね。」
そう言って、煙草を吸い続ける。
それを聞いて、レドリックはジョーカーを見る。
ジョーカーはどこ吹く風と言わんばかりに窓の方を見ている。
「おい…」
レドリックが声を発したところで部屋の扉が開いた。
黒髪の青年が部屋に入ってくる。
それに続いて、茶髪のロングヘアーの女と金髪の青年がそれぞれ遅れて入ってきた。
女の方は知っている。コイツはエルザ。
トレントに出入りしていた人間の1人だ。
レドリックは黒髪の青年と目が合う。
(コイツ…まさか…)
黒髪の青年は頭を抑えて考えこむように言った。
「お前がレドリック…か…。何か…どこかで見たような……」
そこでジョーカーの後ろにいた。クローバーが青年に対して、口を挟んだ。
「レイン。お前、忘れたのか?俺とコイツとお前でやっだろ?大富豪」
(コイツ…成長しててわかりにくかったが、レインか!!)
「ああ!!そうだったね…忘れてたよ。」
「このクソガキ!!!」
レドリックがそうレインに対して吠えた。
「そう感情的になるなよ。オッサン。あんたの財布を空にしたのは俺だけど、酔い潰したのはそっちのオッサンだからさ。」
レインはクローバーに指を指す。
「おいおい!俺は違うだろ!?」
クローバーは話を振られてそう言った。
(いや…お前のせいだよ!)
レドリックは心の中でそうぼやいた。
ジョーカーがそれを聞いて、ケラケラと笑っている。
これ以上、面子が汚される前に本題に入る。
「んで?お前が俺に何のようだ?」
レインはそれを聞いて不思議そうな顔をする。
「俺に用があるのはお前の方だと思ってたんだけど?レドリック。」
「あ?」
眉間に皺を寄せて、レインに言った。
「俺を探してたんだろ?ここ1ヶ月か2ヶ月くらい。だから、来てやったんだよ…。」
目を細めて、レインはレドリックに言った。
レドリックは心の中で舌打ちをした。
この状況はローザが作ったものだ。それにジョーカーの態度にも驚きを感じない。
おそらくこの2人とレインはグルだ。
この場でこの2人の協力は得られない。レドリックはそれを悟った。
レドリックは深呼吸して話を続ける。
「お前は自分が狙われていた理由を知ってるだろう?それに…この状況を作ったのはお前だ。時間の無駄だから、早く要件を言えや。」
レドリックはそう言った。だが、自分から冷や汗が出ていることに気づいていなかった。
「じゃあ、単刀直入に……。俺らに危害を加えたり、付き纏うの止めてくれない?」
「あ?」
「迷惑なんだよね。それ。気持ちが落ち着かないというか…。」
「敵であるお前らにそんな事を言われて、やめるわけないだろ?」
「オッサンの言う敵って何?」
「お前らはクラウゼル公爵と繋がっていて、この都市を浄化する協力をしてるんだろ。」
「信じるかどうかは自由だけど、俺と後ろのオルストンは面識すらないし、エルザは公爵とは縁を切っている。」
「信じられないな…」
レインが溜め息を吐いた。
「信じられないなら、どうする?」
「……………」
レドリックが沈黙していると後ろにいたゴルドーが拳を鳴らしながら、レドリックの横に来る。
「ボス!潰してしまいましょうよ!!」
それを聞いて、レインは指を鳴らす。
すると、7体のシャドーウルフが部屋の中に急に出現した。
「「!!!!」」
唸り声を上げながら、ゴルドーを睨み付けていた。
そして、さらに大きくて低い鳴き声も後から聞こえくる。
恐怖心を煽るようなその鳴き声がレドリックの耳を通り抜ける。
声の方向を見ると、窓に大きな目があった。
そこからでも大きな圧力にさらされたかのような、重圧が部屋を支配する。
それを見て、【獅童会】と【ナイトメア】の6人が青ざめる。
「ヒドラ…。威圧強すぎ…。もう少し抑えろ。」
レインがそう言うと、部屋の重圧が少しだけ軽くなる。
(ヒドラ?……ヒドラだと!?)
「そこの人の意見がお前の意見でいいのか?レドリック?」
「……………」
レドリックが黙っていると、畳み掛けるようにレインは言った。
「無法都市の南部。レンガ造りのホテル。そこの地下シェルターだっけな。」
これはかつてクライから聞いた獅童会のアジトの場所だ。
「!!!」
「ヒドラには覚えさせてあるんだよ。そこの場所。だから、お前もそこのおじさんと同じ意見なら今から始めようよ。全面戦争を」
レインはレドリックににこりと笑い掛ける。
「お互いに障害は早めに片付けた方がよくない?」
レインがそう言うと、レドリックの後ろに控えていたグレオールが口を挟んだ。
「待っていただきたい。そんな急に言われても…。持ち帰って。」
「ちなみに検討を…何て言わないでね?」
グレオールの話の途中でエルザが口を挟んだ。
「レインが早めに片付けたいって言ったのが、聞こえなかったの?」
「それは貴方達の都合でしょう!?」
「そうね。でも、貴方達も自分達の都合でトレントを襲撃したんでしょ?それは棚上げするの?」
「だが…。交渉の余地すら与えないなんて…」
「あら?ようやく状況が飲み込めてきたじゃない?」
「でも、忘れないでね?貴方達も私達に同じような事をしたのだから…」
エルザは殺意のこもる瞳でグレオールを睨み付ける。
「いいだろう……。お前らからは手を引く。これでいいか?」
レドリックはそう言った。
「ボスよろしいのですか?」
グレオールがそう言った。
「かまわん。公爵から手を引くわけじゃあねぇからな…」
レドリックは溜め息をつきながらそう言った。
「それに……。コイツらが本当に公爵と組んでるなら、既にこの都市は陥落してる。」
「それをしねぇってことはどういうことなんだ?それだけ聞かせろよ」
レインはそれに返答する。
「そんなの決まってるよ。俺も国から追われる身だからね。だから、ここが無くなると面倒なんだよ。」
レドリックはレインをじっと見つめ、頷いた。
「わかった…。なら…」
「俺達の縄張りを荒さねぇ程度に好きしろ…。」
「わかってるよ。じゃあ、用は済んだからこれで…。」
レインは椅子から立ち上がると、ジョーカーがおもむろに肩を組んでくる。
「よし!レイン!飲みに行くぞ!!」
「馴れ馴れしいな…全く。」
レインはジョーカーにそうぼやいた。
そう言って、部屋を出ようとするとレインを呼び止める声が聞こえた。
「待ちなレイン…。お前は居残りだ。」
そう声をかけたのは、ローザだった。
レインは呼び止められる要件を察していた。
「約束は果たすよ。ただ……今日じゃないとダメ?」
「ああ…。ダメだ。急ぎだからね…」
この要件を説明するには少し時間をさかのぼる。
◆
1日前
レインは無法都市に戻る1手として始めに選んだのはエプトリカ傭兵団を同盟から離脱させることだ。
レインは多くの従魔ができたとはいえ、相手は3組織存在する。まともにやり合っても勝算はあるが、従魔が何匹か死んでしまう可能性が出てくる。
かれこれ1ヶ月ぐらいの間、毎日顔を合わせていたら流石に愛着が湧く。
それに死ぬのは従魔ではなく、エルザやオルストンかもしれない。
だから、戦いの前にやれることはやっておく。
レインはかつての父の教えを思い出す。
『任務の成功は準備段階でで9割決まる。』
これはシリウスがレインに何度か言い聞かせていたことだ。
エルザから聞いた話だとエプトリカ傭兵団のボスはジョーカーと呼ばれる女剣士らしい。
これがかなりの曲者らしい。自由気ままで掴みどころがない人間だそうだ。
ただ…かなりのバトルマニアで戦闘を好んで行うタイプらしい。
「エルザが彼女を説得するなら、どうする?」
レインはそうエルザに問いかけた。
「そうね~。正直わからないわ…。でも傭兵団を離脱させる方法はある。」
流石だ…。
レインは素直に関心した。
「どうやって?」
「簡単よ。あの子を連れて行けばいいのよ。」
エルザが指を指したのはヒドラだ。
「彼らは決して命をかけてまで依頼を完遂させようとは思わない。レインもわかるでしょう?」
「確かに…。」
レインは始めてクローバーと会ったときの事を思い出した。彼は依頼主を殺されて、自ら投降した。
悪くいえば、セシリアのようにプライドや誇りのようなものはない。
良くいえば、賢いくて潔い。
「ヒドラが持つ猛毒は脅威よ。私達だってよく全員無事でいられたと思うわ。元ハンターのジョーカーがヒドラを知らないはずはないしね。」
「なるほど…。じゃあ、ヒドラ!!ちょっとついてきてくれる?」
ヒドラはレインに近寄ってくると、3つある頭をレインに擦り始める。
体格が大きい故にじゃれ合いも過激になりがちだ。
「お前達は可愛いな~。ありがとう!!」
そう言ってレインは頭の3つを順番に撫でる。
「でも、ジョーカーの性格を考えるに…あれは理屈ではなく、感情優先で動くタイプよ。気に入らないと絶対に言うことは聞かないでしょう。」
「えーっと…。つまり?」
レインは頭を抑えてエルザに問いかけた。
「わかりやすく言うと人を見るタイプだと思う。」
「え…マジで?」
(嫌われたら終わるってこと?大丈夫かな……。)
エルザはレインの顔を見て、気持ちを察したかのように言う。
「その点は貴方なら大丈夫だと思うわ。」
「どうしてそう思う?」
レインはわからなかったので、エルザに聞いた。
「私はジョーカーと一度だけ話したことあるけどね。なんと言うか、貴方…彼女と割と似ているのよ。気質が…」
(ほぅ……。)
「そっか…。なら意外と我が強いのかもね。」
「自分で言うの?それ…。まぁ…そうだけど。」
エルザはそう言って、レインをみた。
「レイン。これからの交渉は貴方が好きにやりなさい。」
「俺でいいの?」
「私もフォローするから安心して。それにあなたは学はないけど地頭は良いタイプだから、自信持って!!」
(学がないっつったか?まぁ…そうだけど。)
「まあ、やってみるよ。本当に…いざというときは助けてくれよ?」
「任せて。これは貴方がやることに意味があるんだから…」
そして、レインはエルザとオルストン、ヒドラを連れて傭兵団のアジトに向かった。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




