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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
2章 トライザント 修行編

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トライザントの暴君


「明日ヒドラと一戦やってくるよ」


造花を1本1本丁寧に作りながら、レインは2人に向かってそう言った。

あまりにも軽い口調にエルザとオルストンは呆然としている。


「それ…大丈夫なの?」

エルザは心配そうな顔で言ってくる。


「無理そうなら逃げてくるよ」


「それなら、僕も行くよ」

そう言ったのはオルストンだ。

「ヒドラの毒はかなり強力だという噂だよ。僕は解毒の魔法が使えるし、遠距離からの攻撃もできるからサポートもできると思う。」


それはありがたいな…。


「それより、レイン君は大丈夫かい?ヒドラの毒には物質を溶かすものもあるらしい。その短剣では直ぐに使い物にならなくなるよ」


この短剣はクロードの屋敷から持ってきたものだが、使い続けてかなり年季が入っている。


「武器については問題ないよ。オルストン。」


レインは血液を変形させ、一振の剣を作った。


「これを使う。この剣は僕の魔力がなくならない限り、この形状を維持できるし、任意の魔法を付与することもできる。」


レインが血で作られた剣をオルストンの前に出すとオルストンはまじまじとその剣を観察し始めた。


「これ…剣と鞘で感触が全然が違うね。原料は血だけなのに」

オルストンは剣持って、刃先を触りながらそう言った。


「うん。表面の硬度や水分量を調整しているんだよ。」


「血操術だっけ?こんなの見たことないよ。それにどういう原理なのかさっぱりわからない」

オルストンは眉間に指を当て、そう言った。


「魔力は血液と一緒に身体中を流れているでしょう?それを制御してるだけだよ」


「それは一般的には違うよ。」

レインの話を聞いてオルストンはそう言った。


「え?」

レイン間抜けな声をあげる。


「魔力って外部から体内に吸収するものでしょ?この魔力は人体の皮膚から吸収するから、魔力は体内では分散される。血管に魔力が集中することなんてないはずだけどね…」


「………。エルザ。僕の言ってることは間違ってる?」


話を振られたエルザは少し考えて答える。

「今なら貴方の言っている感覚はわかるけどね。でも、一般的にはオルストンの言ってることが正しいと思う。」


(何か違いがあるのか?)


「もし、血管に魔力を集約させることが血操術を使えるヒントなら、エルザが使える日が来るかもしれないね。」

オルストンはそんな仮説を立て、説明した。


「でも、あれってクロード一族にしか使えない秘術でしょ?それをあたしが使えるの?」

エルザとしても使えるのなら、この上なく強くなれる。しかし…できるイメージがわかない。


「あくまで可能性があるって話だよ。本当に血管への魔力の集約が血操術を扱う上で必要な条件であればね」


この血操術に関してはレイン自身ほとんどわかっていない。シリウスがやっているのを見て、真似したら何となくできるようになった。その程度だ…。



「ひとまず、オルストン。ヒドラの討伐に来るなら後ろにいてくれよ。お前が毒にやられたら治せる人間がいなくなる。」


「わかった。エルザは留守をよろしくね。」

特に悪気があったわけではないが、そうオルストンはエルザに言った。



しかし、これをエルザは挑発と受け取った。

「はぁ?私も行くし…」


「そうは言っても…」

オルストンはエルザに諭そうとしたが、レインが止めた。


「いいよ。おいでよエルザ」


「でも!!いや……君が言いというならかまわないよ。」

反対しようとしたオルストンだったが、何を思ったのか言いかけた言葉を中断して了承した。


「但し、オルストンと同じように後方からの攻撃だけで頼むよ。ヒドラの毒は喰らったら只では済まないからさ…」


「さっきから思ってたけど、なんか軽いわね…。危機感を感じないと言うか…。勝算が見えてるの?」


「勿論」

エルザの顔を真っ直ぐ見据えてレインは答えた。




◆




今回はレイン、エルザ、オルストンの3人で行くことにする。

持てる戦力すべて使うなら、ジェットウルフ20体とヨウサイ5体も連れていくべきだろうが…


おそらく無駄死にするだけだ。


レインはヒドラを千里眼で見ている。

頑強な紫黒色の鱗を見に纏い、4つの黒い翼。

三つの頭を持つ竜。聞いていた通りの風貌だ。



驚くべきはヒドラがいる領域だ。

青紫色の液体が周囲の枯れた木々に大量に付着していおり、そこから毒ガスが充満している。


あれは縄張りを示すマーキングのつもりなのだろうが、おそこに入ってしまった生物はほとんどが息絶えることになるだろう。

それ故にあの付近には生物の気配が一切なかった。

まさに怪物だ。



レインはヒドラのテリトリーに近づくと、エルザの方を向いた。


「エルザはこの辺りからヒドラの狙撃をお願い。できれば、頭とか目の辺りを」


「わかった!」


まだヒドラのテリトリーには達してないが、ここからは毒ガスが充満する。エルザは物理結界を張ると魔法の弓矢が使えない。

だから、このくらいの位置が最適なのだ。それに今のエルザは千里眼(クレアボヤンス)が使える。

狙うことは難しくないはずだ。


物理結界を張り、レインとオルストンは先に進む。


そして、とうとうヒドラの領域にレインは足を踏み入れる。


オルストンと別れようと結界から出ようとすると、オルストンに止められる。


「ちょっと、レイン君!結界を張らないのかい?」

動揺したようにオルストンはそう言った。


「僕もエルザと同じで物理結界があると攻撃できないでしょう?オルストンの言いたいことはわかっている。任せてくれ。」


あらゆる毒の耐性をもつレインだが、さすがにヒドラの生成する毒を無効化できるとは思っていない。



レインは自身の血液で身体を薄く覆う。

ヒドラの毒とガスは皮膚からでも体内に侵入する。


だから、体内に侵入することができないようにしたのだ。さらに血液は硬化させ、頑強かつ軽い鎧にしている。

まさに完全無欠な鎧だ。ただ、この鎧にも短所がある。


クソダサい…。


今レインの見た目は赤い蝋人形、もしくは赤黒い包帯で巻かれたミイラ男みたいなものだ。


正直なところ、ちょっと恥ずかしいと感じたが、命には変えられない。


その姿でレインはオルストンに言う。


「征ってくる!!」

そう言ったレインの風貌を見て、オルストンは絶句した。


(そんな目でみるな…)


レインは恥ずかしい気持ちを抑えてヒドラに向かった。


千里眼で確認したところ、ヒドラは寝ている。


領域に入ったレインはすかさず、幻覚の結界ヒドラの領域と同じ大きさで展開する。


レインがヒドラに挑むことにしたのは、レインが得意な幻覚魔法が通じるからだ。


レインはヒドラを視界に捉え、枯木の陰に隠れる。


(デッッッカアア!!)


やはり肉眼で見るとまた違う。

レインもここまでデカイ魔物は始めてみた。


ひとまず、隠密にヒドラの支配をし始める。


レインは水属性の霧を生成し、そこに自分の血液を混ぜる。すると赤い霧ができあがり、それをヒドラの周囲に漂わせる。


血液がヒドラの体内に入ったため、精神干渉魔法をかける。


ここでこのまま支配が完了すれば楽だが、そこまで上手くいくことはない。

その前提で今日は進める。


まずはヒドラの脳細胞をテイムするために必要な状態に書き換える。


(ん?こいつまさか…痛覚がないのか)


実際に闘えばかなり厄介だ。

痛みによって、怯むことがないのだから。


ヒドラは驚異的な再生能力をもつ。そのせいで生存するために必要な器官が欠如しているのだ。


(この状況においては非常に好都合だ。)


脳細胞の書き換えが完了し、いよいよ本格的に精神干渉をかけ続ける。


強大な魔力を有するヒドラをテイムするには時間がかかる。


ある程度精神干渉をかけたところで

………ヒドラが目を覚ました。


ヒドラはその巨体を起して、巨大な咆哮を放った。

森が揺れるぐらいの轟音だ。


トライザントの支配者と呼ばれる魔物だ。

迫力が桁違いだった。


「隙だらけだぞ」


レインはヒドラとの距離を詰め、横腹を自分自身の最大威力の一撃で切り裂く。


ヒドラの横腹は大きく損傷した。その隙を見逃さず、傷口に血で作られた巨大な棘を叩き込む。


それにより、血液はヒドラの体内に侵食していく。

しかし、傷口は直ぐ様再生してしまった。


(早すぎる……)


ヒドラはレインを視界に捉え、突進してくる。

しかし、それはレインが見せていた幻覚だ。


レインはまた別方向からヒドラを切り裂き、その傷口に血の棘を叩き込込んだ。


かなり血の侵食は進んでいるが、今だ支配できない。とてつもない魔力と生命力だ。


完全に怒り狂ったヒドラは自分の周囲に毒のブレスを放つ。


枯木や草は溶け落ち、ここら一体は更地となった。



すると、遠方から風の矢がヒドラを狙う。

矢はヒドラの頭の1つ。その目を貫通し、内部で爆発する。

頭は爆発の衝撃で消し飛んだ。


(さすがだよ…。エルザ)


レインはエルザに感謝しながら、再生される前にその傷口に血の槍を叩き込んだ。


そして、レインの後ろから魔力をのせた斬劇が同様に傷口を切り裂く。


おそらく、オルストンの攻撃だ。

頭がなくなり暴れ回っていた首はその攻撃により、ピクリとも動かなくなる。


(……ん?ちょっと待て。再生…していない!!)


オルストンの感覚を遮断する攻撃により、ヒドラの再生が止まる。


『今のもう一度やるわよ!!』


エルザからそんな声が届く。

レインは自分のやるべきことを理解した。


ヒドラの意識を自分に集中させることだ。


ヒドラに向かって正面から攻撃を行う。

ヒドラはレインに向かい、毒のブレスを放つ。


それをよけ、攻めに転ずる。しかし、レインに対して何度もブレスを吐き続ける。


(こいつ…俺に接近されるのを恐れているのか…。)


これはレインの精神干渉が利いている証拠でもある。

接近できないのであれば、中距離攻撃主体で攻めることにした。


レインは血を蔦状に変化させ、ヒドラの体に巻き付け、拘束する。


ヒドラがけたたましい咆哮をあげながら、拘束を解こうとする。


その隙にエルザの矢が再びヒドラの目に貫通し、爆散した。

風に火の爆撃魔法を仕込んで矢として放っている。内部は柔らかい素材であろうヒドラは簡単に頭が吹き飛ぶ。


その傷口にオルストンとレインが攻撃を仕掛ける。


(こいつ…。しぶといな。)


すでにテイムが完了していても言い頃合いだが、まだ抵抗が続く。

しかし、抵抗力がかなり弱まっているのを感じる。


ヒドラはもはや乱心状態になって暴れ回っている。


それをレインは必死に抑えこむ。顔の切断部からは絶えず血を送りこんでいるため、そろそろテイムが完了する。


そしてヒドラが倒れ込む。レインはヒドラの近くによるが、恐らくまだテイムは完了していたない。


残った頭にある目がレインを睨みつけている。


ここであえて細工をしなかった痛覚を目覚めさせる。


(コイツは一切の恐怖を覚えていない。だから、テイムできないのだ。強大な力をもつゆえにこれまでそんな感情を覚えたことがないのだろう。)


ヒドラが口を開けようとした瞬間、レインは鼻に踵落としを叩き込む。


その衝撃に始めてヒドラの表情は歪む。


そして、剣で首を切断する。

鼓膜をぶち破るくらいの音量でヒドラは絶叫する。

これまで感じたことのない痛覚がヒドラを襲う。


切断した面は改めて再生を始める。


それを見て、レインがもう一度剣を構える。


だが、この剣を降りおろす必要はなかった。


ヒドラのテイムが完了した。




◆




翌日の昼。


テイムしている魔物を全て集めてみた。


ジェットウルフ(20体)

ヨウサイ(5体)

ヒドラ(1体)


だが、やはりヒドラがいることによりジェットウルフとヨウサイに変化が生じていた。


ヒドラを見て、震えているのだ。


(やはりか…)


これではジェットウルフとヨウサイのポテンシャルが格段に下がってしまう。


ジェットウルフとヨウサイに再び精神干渉を行う。


ヒドラに対する恐怖心を抑えるためだ。


ジェットウルフは上手く恐怖心は無くすことはできたが、ヨウサイは少し難しい。


ヒドラの主食は大型で肉付きの良い魔物だ。

ヨウサイはそれに該当する。


ヒドラとジェットウルフを退散させ、ヨウサイにじっくりと精神干渉をかけ続けた。


もはや馬の調教師になった気分だ。



すると、後ろから気配を感じた。

ヨウサイを逃がし、その人物の方を向く。


「爺さん。来るのは明日じゃなかった?」

やってきたのはカザエルだ。


「ああ…。トラブルがあっての…」

どうも疲れた顔をしている。


「使節団の護衛って言ってなかった?そこでトラブルって…結構な大事じゃない?それ」


溜め息をつきながら、カザエルは答える。


「全くじゃの…。本当に治安が悪くて困る」


(治安の悪いジジイが何言ってんだ…。)


「訓練はちゃんとやっておったか?レインよ」


「ああ。実践的なやつをな。後…爺さんが見せた技。全部できるようになったから、他の奴を教えてくれよ。」



「何!?」

驚いたようにカザエルは言った。

「見せてみよ。」



「ああ…。わかった。」

ひとまず、全ての技をカザエルの前で実践する。


「………さすがじゃな。全く。ここまで短期間で再現されるとはワシの立つ瀬がない…」

「だが…この状況では好都合かもしれんな…」


カザエルが少し咳き込んだ。


「おい…爺さん。血が…」

カザエルの手には血がついていた。


「言ったじゃろう?ワシには時間がない…。」

深呼吸して、カザエルはレインに言った。


「ワシがお主に教えられる技はそれで全部じゃ…。後は実践で使えるかどうかじゃが…お主なら問題はなかろう。」


「おい!大丈夫か!爺さん!!」


カザエルはうずくまり、意識を失った。








当作品を読んでいただき、ありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。

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